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ロシア国民をダマすなどお手のもの。逆ギレのプーチン“大ウソだらけ”の年次教書演説「真の目的」

日本時間21日夜におこなわれた、ロシアのプーチン大統領による年次教書演説。ウクライナ侵攻から1年が経過する今のタイミングで、この演説をおこなった真の目的はなんだったのでしょうか? 今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、プーチン年次教書演説の狙いについて解説。そこには、ロシア国民に向けた「唯一のメッセージ」が込められていました。

プーチン「年次教書演説」の目的はただ一つ

プーチンは2月21日、年次教書演説を行いました。この演説の目的は、何でしょうか?

唯一の目的は、「ウクライナ特別軍事作戦がはじまったのも、長引いているのも、自分のせいではなく、アメリカをはじめとする西側のせいだ!」とロシア国民に信じさせることです。

私たちは、驚きます。「いや、そもそもウクライナに侵攻したのはロシアだろ。その命令を下したのは、プーチン自身だろ。どうすれば、その責任をアメリカや西側に転化することができるのか?」と。

それが、できてしまうのですね。

演説の一部を抜粋してみましょう。

<「ロシアは平和的な手段でウクライナの危機を解決するためあらゆることをしたが、その裏では完全に異なるシナリオが準備されていた。ウクライナは西側諸国に隷属し戦争の準備をしていた。私たちはそれを止めようとした」>

「ウクライナが戦争の準備をしていた」というのは、要するに「ロシアが先制攻撃しなければ、ウクライナがロシアに攻めてきた」ということでしょう。

これは、もちろん【 大ウソ 】です。そして、これは【 後付け 】の開戦理由です。ウクライナ侵攻当初プーチンは、

を理由に挙げました。

プーチンはFSB第5局の情報に基づいて、「ロシア軍が来れば、お笑い芸人のゼレンスキーは逃亡し、政権は崩壊する。ネオナチ政権に飽き飽きしているウクライナ国民は、花束をもってロシア軍を出迎える。特別軍事作戦は、2~3日で終わる」と信じていました。今回の侵攻を「戦争」と呼ばず、「特別軍事作戦」と呼ぶのも、「戦争とか大げさな話じゃない」という意味なのです。

キーウ攻略に失敗、終わらぬ戦争。困ったプーチンがとった策は

ところが、ロシア軍は、キーウ攻略に失敗します。ゼレンスキーは逃亡しなかった。政権は崩壊しなかった。ウクライナ国民は、花束を持ってロシア軍を歓迎しなかった。戦争は終わらない。

困ったプーチンは、どうしたか?昨年5月9日、対独戦勝記念日の演説で、プーチンはこんなことをいったのです。

<アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。

繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。

危険は日増しに高まっていた。

ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。>

繰り返しになりますが、「ロシアが先に攻めなければ、ウクライナがロシアに攻めてきた」と。

常識的に考えてウクライナがロシアに攻めこむとか、ありえません。実際アメリカやNATOはウクライナに武器を供与する際、「ロシア領を攻撃しない」と約束させています。ウクライナ軍がロシアを攻撃しないよう、わざわざハイマースの射程距離を短くして渡しているのです。

繰り返せば「大ウソ」も真実になってしまうプーチン

普通に考えたらわかる後付けのウソですが、その後繰り返し、繰り返し語られることで、テレビ世代のロシア国民は、信じているようです。

そして、ウクライナが軍備を増強していたとしても不思議ではありません。ウクライナは2014年3月、ロシアがクリミアを奪った際、何もできなかった。さらに、ロシアがルガンスク、ドネツクの親ロシア派に独立宣言させることで、内戦が勃発した。弱かったウクライナ軍は、ロシアが支援する自称ルガンスク人民共和国、自称ドネツク人民共和国に勝てませんでした。ロシアに一度完敗したウクライナが、軍備を増強するのは、普通の対応でしょう。

今回の年次教書演説でプーチンは、いいました。

<「欧米諸国はウクライナでの紛争を世界的な対立に変えようとしている。ただ、彼らは戦場でロシアを負かすことは不可能だと理解すべきだ」>

これもウソです。欧米諸国は、核超大国ロシアとの第3次世界大戦を望んでいません。それで、ウクライナに「我々が提供した武器でロシア領を攻撃するな」と念を押している。欧米が本当に世界的対立を望んでいるのなら、NATOがとっくに参戦しているはずでしょう。

しかし、NATOは戦いません。ウクライナ戦争を「世界的対立」にしたくないからです。

<「ロシアの核抑止力は91%以上で最新の兵器を装備している。このレベルをロシア軍の全体に拡大する必要がある。ロシア軍の兵器の威力は海外の兵器よりも大きいものだ」>

毎度毎度「核兵器」に言及するのは、プーチンが追い詰められている証拠でしょう。ロシア軍が優勢なら、いちいち核で脅したり、数か月ごとに総司令官をかえる必要はありません。

<「ことし9月の統一地方選挙と2024年の大統領選挙はすべての民主的および憲法上の手続きに従い、法律に厳密に従って行われる」

大統領選挙に言及しました。

ロシアのナンバー2に「プーチンと喧嘩」との噂も

この件で、「プーチンと(安全保障会議書記)ニコライ・パトルシェフがケンカした」という噂があります。

プーチンは、「次の大統領選には出馬せず、ニコライ・パトルシェフの息子ドミトリー(45歳、現農業大臣)に大統領の座を譲る」と約束した。ところが、彼は考えを変え、「やはり後6年間俺が大統領をやる」となった。

ニコライ・パトルシェフは、ロシアの諜報を支配している事実上のナンバー2です。彼がプーチンと対立しているのが事実なら、クーデターが起こっても不思議ではありません。ですが、この話はあくまでも噂です。

というわけで、プーチンの年次教書演説。内容の本質は、

ということでしょう。この話、テレビ世代のロシア国民の多くは、信じることでしょう。

私は28年モスクワに住んでいましたが、ロシア国民のほとんどは、「アメリカ陰謀論者」です。世界で要人が死ぬと、「嗚呼、CIAに殺されたな」とごくごく自然に考えてしまうのが「アメリカ陰謀論者」。特に年齢が上がるほど、「アメリカ陰謀論者」の割合は増えます。

だから、私たちから見ると「ウソだらけ」のプーチン演説も、「そうだよな~~。ロシアが攻めなかったら、ウクライナが攻めてきたんだよな~」と信じてしまうのです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2023年2月22日号より一部抜粋)

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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