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中国と韓国にも喰われる始末。なぜ日本の製造業はここまで凋落したのか?

かつては世界が羨み嫉妬した経済大国も今は昔。その凋落ばかりが語られ国民生活も苦しくなる一方の日本ですが、なぜ我が国はここまでの惨状に陥ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、国際データを読み解きつつその原因を考察。そこから明らかになったのは、製造業の労働生産性の低下を招いた「ある理由」でした。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2023年4月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

なぜ日本の製造業は中国、韓国に喰われたのか?

日本経済は、バブル崩壊以降低迷していると言われています。特に平成時代は、「失われた30年」とさえ言われ、世界における日本の存在感は年々薄くなり、国民生活は年々厳しくなっています。

バブル期には、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも言われ、日本は世界経済を席巻する存在でした。日本の工業製品は世界市場で圧倒的な強さを示し、電化製品や自動車は世界中に溢れていました。

そして日本の経済成功により溜まりに溜まったジャパンマネーは、世界経済の動向に大きな影響を与えるようになっていました。欧米の有名企業を日本企業が傘下に置いたり、世界の主な都市の象徴的なビルディングを日本の企業が買収するようなことも多々見られました。

たとえば、アメリカ・ニューヨークの象徴ともいえる「ロックフェラーセンター」を日本企業が保有していたこともあったのです。ロックフェラー・センターというのは、ニューヨーク・マンハッタンの中心部の約8万平方メートルの敷地に、19の商業ビルを隣接させた複合施設です。

アメリカの大企業家であるロックフェラーが、その財力によって1930年から建設を始めたものであり、アメリカの豊かさを象徴する建造物群でした。

またベルリンの壁の跡地には、日本のソニーが巨大な複合商業施設「ソニーセンター」を建設し、ベルリンの新しい名所ともなっていました。

日本の一人勝ち状態は、世界の羨望とともに「日本バッシング」として、激しい批判を浴びることもありました。

現在では、そういう話は完全に過去のものとなっています。日本の工業製品は世界市場から次々と退場していき、中国、韓国、そのほかの新興国にその座を奪われつつあります。かつて日本は、世界の工場と言われたこともありましたが、その名称は今は中国や東南アジア諸国のものになっています。

ロックフェラーセンターもソニーセンターも、その大半が日本企業の手から離れています。本当に日本経済は低迷しているのでしょうか?もしそうならば原因は何なのでしょうか?

今号から数回に分けてそれを国際データから読み解いていきたいと思います。

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なぜ一人当たりのGDPが急落しているのか?

下に示すのは、国民一人当たりの名目GDPの順位です。

■国民一人あたりの名目GDPランキング

 

1位   ルクセンブルグ  136,701ドル
2位   アイルランド   100,129ドル
3位   スイス      92,249ドル
4位   ノルウェー    89,042ドル
5位   シンガポール   72,795ドル
6位   アイスランド   69,422ドル
7位   アメリカ     69,227ドル
18位   ドイツ      51,238ドル
22位   イギリス     47,329ドル
23位   フランス     45,188ドル
27位   日本       39,301ドル
29位   韓国       35,004ドル

 

出典:IMF World Economic Outlook Database 2022

この「一人当たりのGDP」というのは、「労働生産性」とも言われます。国民一人あたり、どのくらい生産性があるかという数値ということです。

日本は、この一人当たりのGDPは1996年には世界第5位でした。しかし90年代の終わりから急落し、それから20年以上、下降し続けました。2021年では27位にまで落ちているのです。この一人当たりのGDPが落ちたことで、「日本人一人一人の生産力が落ちた」というように言われることが多いです。経済評論家の多くもこのデータを見て「日本はもっと頑張って生産性を上げるべき」ということを述べる人も多々います。

しかし、日本の労働生産性(一人当たりGDP)が落ちたのは、国民一人一人の生産力が落ちたからではありません。日本の経済構造が90年代以降急激に変化したからなのです。そしてこの経済構造の変化が、日本経済を歪めさせ国民生活を苦しくしている主原因でもあるのです。

韓国より低い製造業の労働生産性

日本の一人あたりのGDPが、世界ランキングで急落している要因は実は明白です。製造業における労働生産性が下がっているからです。下は、製造業の労働生産性の上位国を、2000年と2018年で比較したものです。

■2000年の製造業の労働生産性の世界ランク

 

1位   日本       85,182ドル
2位   アイルランド   84,820ドル
3位   スイス      79,440ドル
4位   アメリカ     78,896ドル
5位   スウェーデン   75,925ドル
6位   フィンランド   75,463ドル
7位   ベルギー     68,388ドル
8位   ルクセンブルグ  65,050ドル
9位   オランダ     63,741ドル
10位   デンマーク    62,560ドル
11位   フランス     62,051ドル
12位   イギリス     61,896ドル

 

■2018年の製造業の労働生産性の世界ランク

1位   アイルランド   542,547ドル
2位   スイス      196,108ドル
3位   デンマーク    151,410ドル
4位   アメリカ     148,480ドル
5位   ベルギー     127,309ドル
6位   スウェーデン   126,924ドル
7位   オランダ     125,292ドル
8位   ノルウェー    117,259ドル
9位   フィンランド   114,924ドル
10位   オーストリア   114,195ドル
15位   韓国       100,066ドル
16位   日本       98,795ドル

 

出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2018」

このデータを見ればわかるように、2000年の段階では、日本は製造業の労働生産性は世界一を誇っていました。日本は、高度成長期からバブル期まで製造業において、世界に抜きんでていたのであり、製造業が日本経済をけん引してきたのです。

しかし、2018年になると、順位は16位にまで後退しています。しかも韓国よりも低いのです。この製造業での労働生産性の順位低下が、そのまま一人あたりGDPの順位低下に結びついているのです。

ではなぜ製造業での労働生産性が落ちてしまったのでしょうか?日本人の能力が落ちたのでしょうか?決してそうではありません。日本人の能力は今でも世界的に高いのです。しかし生産設備等が、日本から海外に移されており、日本の製造業は空っぽの状態になってしまったからです。

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日本から海外への投資ばかりが激増

80年代以降、日本の主要産業の多くが、工場や生産設備を海外に移しました。それはデータにも明確に出ています。

下は、日本から外国への直接投資残高と、外国から日本への直接投資残高の数値です。

日本と外国との直接投資残高(2021年末)

 

日本→外国  …1兆9,872億ドル(約26兆円)
外国→日本  …3,518億ドル(約5兆円)

 

出典:JETROサイト

これを見ればわかるように、日本から外国への投資は、外国から日本への投資の5倍以上になっています。日本は、外国との投資において大幅な「輸出超過」になっているのです。

つまりは、日本は外国に巨額の投資をしているけれど、外国からはあまり日本には投資をしてくれていない、ということです。

日本の経常収支は、長い間黒字が続いていますが、それはこの「対外投資超過」のためなのです。そして、日本経済の大きな問題点である「国内の工場がどんどん海外に移転していく」ということも、この数値に表れているのです。

安い人件費の国に工場を移転すれば、短期的には収益を増やせますが、長い目で見ると自分の首を絞めることになります。工場を海外に移転すれば、どうしても技術が海外に流出してしまうからです。中国や韓国の製造業が急発展したのは、日本の工場移転と密接な関係があります。

東芝の白モノ家電分野を買収した中国企業の美的集団などはそのいい例です。美的集団は、もともとは東芝の子会社であり東芝の工場移転と技術支援によって発展した企業なのです。

この20年間、設備投資がほとんど増えていない

そのため、日本国内の製造設備はこの数十年ほとんど進歩していないのです。下は、主要先進国のこの20年間の設備投資の増減を示したものです。

2021年の主要先進国の設備投資(2000年を100とした場合)

 

日本     108,7
アメリカ   177,5
イギリス   116
ドイツ    124,7
フランス   151,4

 

(出典:内閣府令和4年度「年次経済財政報告・設備投資の国際比較」)

これを見れば、日本は、この20年間で設備投資額がほとんど増えていないことがわかります。つまり、日本国内の工業生産力はほとんど上がっていないのです。先進国というのは、途上国に比べると設備投資の伸びは低いものです。先進国は設備が整っているので、どうしても増加速度は落ちるのです。その設備投資が少ない先進国と比べても、日本はひときわ少ないのです。

この20年間、世界経済は大きく拡大し、工業生産も爆発的に増加しています。にもかかわらず、日本の工業生産能力はほとんど上がっていないのです。それは日本の企業が、国内の生産設備を整えるよりも、海外に工場を建設することを優先してきたからです。

次回は、日本の製造業が海外進出することで沈滞化してしまった経緯を、家電業界を例にとって説明していきたいと思います。

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