独立宣言下で合意したウクライナ領土を露が認める可能性も
ただよりあり得るのは、ウクライナ南部とクリミア半島周辺にウクライナを引き付けておき、キーウをはじめとするウクライナ中部とポーランドなどの中東欧諸国との国境線に近い都市に対する一斉ミサイル攻撃の連日の実施で、圧倒的な実力差をウクライナに思い知らせ、ウクライナ政府が欧米諸国とその仲間たちの協力を受けて実施する【ウクライナは徐々に前進している】という情報戦略による効果も一気に叩き潰すという作戦に出るのではないかと考えます。
その表れに、先週、国連総会および特別安全保障理事会会合にロシア代表として参加したラブロフ外相は「交渉による解決は今のところは考えられず、ウクライナが戦争で雌雄を決するというのであれば、ロシアは受けて立つ。戦場でぜひ解決しよう」と発言し、ロシアはこの戦いにおいて一歩も退かず、目的を完遂するという決意を表明しています。
これだけ見ると、もう平和的な解決の糸口など存在せず、ロシアもウクライナもとことんまで戦い、著しく消耗し、何らかの形でこの戦争に決着がついた際には、どちらも復興不可能なレベルまで破壊されているのではないかという状況を想像させられますが、本当にもう立つ瀬はないのでしょうか?
希望的観測を含め、私はまだ停戦を実現する可能性を諦めていません。
それは私が調停グループにいて、停戦協議が本格化した際、何らかの役割を担うかもしれないからということからではなく、先週、UNの場で「戦争継続やむなし」と受け取れる発言をしたラブロフ外相の“別の発言”の中に【ロシア側からの停戦の呼びかけと条件】を見た気がしたからです。
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、プーチン大統領はもちろん、他のロシア政府幹部が口にする正当化の理由の中で【NATOが東進を続け、ロシアの隣に位置するウクライナをNATOに加盟させるという事態は絶対に許容できない】という内容を何度も繰り返しています。
その背後には常にプーチン大統領が抱くNATOと欧米への根強い不信感があります。プーチン大統領の過去の発言によると、ロシアが旧ソ連の地位と遺産を相続し、ワルシャワ条約機構を解体させることに合意した際、欧米諸国との間で「統一ドイツよりも東にNATOを拡大しない」という約束が結ばれたそうですが、その約束はその後反故にされ、NATOは限りなく東方展開し、ロシアが裏庭と位置付けてきたバルト三国を飲み込んだことで、ロシアは大きな安全保障上の脅威を抱くことになったため、これ以上の東方拡大、特にウクライナに食指を伸ばすことは、ロシアへの宣戦布告に等しいという主張を固めたようです。
ラブロフ外相の発言の中で「1991年にウクライナが旧ソ連邦を離脱する際に合意し、採択された独立宣言に基づいて、ウクライナの主権を承認した。その際、独立宣言(ウクライナ国家主権宣言)の中には、ウクライナは今後、非同盟の国であり、いかなる軍事同盟にも参加しないということが明言されている」ことが強調され、ラブロフ外相は「(プーチン大統領も同じ意見だが)そのような条件が遵守されるという条件下のみ、ロシアはウクライナの領土の保全を支持する」と述べています。
この部分を見ると「ウクライナがNATOへの加盟を、当初の合意の通りに断念し、非同盟・中立の国としてのステータスを貫くのであれば、1991年の独立宣言下で合意したウクライナ領土を、ロシアが認める“可能性がある”」ように解釈できるように感じます。
もしこの解釈が適切だとした場合、ゼレンスキー大統領が停戦、究極的に戦争終結のためにNATO加盟を断念するという条件を呑みさえすれば、停戦の可能性がでてくると考えられますが、実際にはそれほど簡単ではないでしょう。
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