ウクライナの「クリミア半島奪還」はあり得るか
では「ウクライナにとって有利な政治的な環境」とはどのような状況を指すのでしょうか?
多数の関係者から寄せられる分析を見てみると、それは「クリミア半島の奪還に向けた環境づくり」という答えにたどり着きますが、そのために「ウクライナ南部地域(ロシア本土からクリミアを繋ぐ回廊)の寸断を行い、クリミア半島のロシア軍と親ロシア派勢力への補給路を断つことが出来るか否か」が大きなカギになります。
英国の情報機関の分析では、ここ2週間から3週間の間に、ウクライナ軍がウクライナ南部の回廊を遮断することが出来るか否かにすべてがかかっているとのことです。
もしウクライナ軍による反転攻勢作戦を通じて、ロシアにとっての回廊を寸断し、クリミア半島をロシア本土と切り離すことが出来れば、近未来的にクリミア半島をロシアから奪還する土台が整うということにあります。
そうなれば予想外に早期の停戦を実現する可能性が高まりますが、その際に必ずと言っていいですが、ウクライナサイドがロシアに突き付ける“停戦のための条件”は【クリミア半島のウクライナへの返還とロシア軍の完全撤退】という内容になるはずです。
ロシアが“その”時点でウクライナ側の要求を検討するかどうかは、ちょっと次元の違うお話になりますが、その素地、つまりそのような要求をロシアに突き付ける条件がそろった時点で、ウクライナとしては欧米諸国とその仲間たちに対して【継続支援こそが、ロシアの野望を打ち負かす最低かつ必要条件である】という要求ができる最低条件となります。
仮に今後の反転攻勢がうまく行き、クリミア半島の帰属・返還を議題に挙げ、ロシアを停戦協議のテーブルに引きずり出すことが出来たとして、“クリミア半島の奪還”の実現可能性はどれほど考えられるでしょうか?
長期的なタイムスパンで見た場合、もしかしたら可能性は出てくるかもしれませんが、欧米諸国とその仲間たちが望む“今年中の解決・停戦協議の開始”という短期的なタイムスパンで見た場合、実現可能性、つまりロシアサイドがこれを話し合うことに合意する可能性は極めて低いと考えます。
その理由はプーチン大統領の政治的な理由にあります。
プーチン大統領への非難が強まっていた2014年に、電光石火の作戦でクリミア半島を奪い、ロシアによる実効支配を実現したことは、自身の支持率の急回復と政権基盤の盤石化に繋がった貴重なレガシー、そして権力の象徴として捉えられているため、これを失うことは、ほぼ疑いなくプーチン大統領の政治的神通力の著しい低下を意味することになりますので、来年3月に大統領選挙を控えるプーチン大統領がクリミアを手放すことに合意することは、まず考えられません。
クリミアに関わる要求がウクライナから寄せられた場合、起きうるシナリオはロシアによる戦闘レベルアップであり、クリミア死守のためには戦闘・戦争のエスカレーションも辞さないという姿勢から、ロシア軍による大規模同時攻撃がウクライナに対して行われることにつながると思われます。
核兵器の使用をプーチン大統領は思いとどまる傾向にありますが、ロシア政府内で勢力を拡大し、発言力を増す強硬派に押されて、これまでの【使用を厭わない】という威嚇から、【使用に向けた最終段階への移行】という極限の緊張状態に向かうかもしれません。
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