クリミア問題は棚上げか。考えうる停戦実現のシナリオ
まず【ゼレンスキー大統領とウクライナ政府は、ロシアが再度侵攻してこないという保証を得ることができ、それを信用できるかどうか】という大きな疑問です。
プーチン大統領があからさまにしてきた旧ソ連邦各国のロシアへの再統合という夢と、“ウクライナとベラルーシ、ロシアは不可分の存在”という基本姿勢は、プーチン大統領が存命で権力の座にいる間は不変か、強まる一方であるため、いずれはウクライナへの軍事・非軍事的攻撃を強めるだろうと予想できます。
ゆえに、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府としては、身の補償のために、NATOという後ろ盾または“保険”を確保したいと考えるのではないかと予想します。
次に仮にゼレンスキー大統領とウクライナ政府がNATO加盟を諦めることに同意し、公言しても、先ほどのラブロフ外相の発言内容に照らし合わせると、根本的なところでロシアとウクライナ双方が折り合うことが出来ない要素が解決されないことになります。
それはクリミア半島の帰属問題です。
1991年当時の合意内容に基づくならば、ソ連崩壊後は、“クリミア半島はウクライナの領土”とされたため、ウクライナに返還されることとなりますが、2014年にロシアがクリミア半島に侵攻し、一方的に併合したことは、プーチン大統領の政治的なレガシーに位置付けられているため、クリミアを放棄することは考えづらいと考えられるため、一筋縄ではいかないと思われます。
クリミア半島も回復することが至上命題と宣言したゼレンスキー大統領とウクライナ政府に対し、クリミア半島の併合はロシア系住民の権利と安全を保障するための必要な措置であり、住民の大多数をロシア系住民が占めることに鑑みて、クリミアはロシアの一部であることが明白と言いたいプーチン大統領とロシア政府の主張とこだわりは、決して相容れられないものであることは明白です。
しかし、停戦協議を再開し、かつ停戦を実現する可能性が残っているとすれば、「ロシアが一方的に併合した東南部4州―ドネツク、ヘルソン、ルハンスク、ザポリージャの“返還”」がロシア側からのカードとして示され、それをウクライナ側が当面の勝利として受け入れ、一旦、停戦をするというシナリオが成り立つ場合が考えられます。
この場合、クリミアの帰属は未解決案件として残し、2国間での合意に向けたプロセスを国際的に立ち上げ“直し”、調停プロセスに乗せて議論・協議を行うことするという条件に合意したうえで、ウクライナは東南部4州の奪還を“勝利”としてアピールし、ロシアは“NATOの東進・東方拡大を阻止したこと”を国内向けの“勝利”としてアピールするという繕いはできるのではないかと考えられます。
「絶対に停戦協議を行える・話し合いを持つ条件が揃っておらず、とことん戦うしかない」と言われているロシア・ウクライナ戦争ですが、久々に、かなり憶測と希望的観測に基づいた内容であることは否めないものの、無益でかつ多大な犠牲を生み、世界全体に悪影響を与え続けるこの戦争に、一旦、停戦・休憩の機会を与え、沸騰した双方とその後ろ盾の国々の頭を冷やす時間を獲得できるwindowが生まれてきたような気がします。
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