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上がらぬゼレンスキーの戦果。限界に達した欧米の「ウクライナ支援疲れ」

開戦から1年7ヶ月を超えるも、先の見えない状況が続くウクライナ戦争。欧米のウクライナ支援疲れも頂点に達した今、新たな難題がNATOに降りかかりつつあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦況を詳しく解説するとともに、アメリカの「ウクライナ支援拒否」の動きに対するゼレンスキー大統領の反応を紹介。さらにNATO加盟国コソボと国境を接するセルビアの不穏な動きを注視しています。

前進止まったウクライナ軍。欧米のウクライナ支援も限界か

ロ軍最強の第76空挺師団は、南部コパニの東側面を防衛している。師団全体で、そこにしか投入されていない。相当損耗しているようである。師団規模は1万人であるが、相当に少ないようである。

オリヒウ軸にウ軍は集中して攻撃している。その他では、バフムトの南を攻撃している。それ以外では、ウ軍は攻撃をしていない。

ロ軍も全体的に攻撃をしなくなった。ロ軍は代わりに各地で空爆を行っている。

このため、あまり状況の変化がない状態である。

クピャンスク・スバトバ・リシチャンスク方面

ロ軍は、防衛のみで攻撃できない状態になっている。このため、ロ軍は航空優勢であることで、空爆を各地で行っている。ウ軍も、攻撃を行っていない。

ロ軍はクピャンスク南部のオスキル川にかかる4つ以上の橋を空爆して破壊したが、ウ軍は損傷した橋の近くに舟橋を設置したようだ。

バフムト方面

北西では、ロ軍はオリホボバシリフカに地上攻撃したが、ウ軍と戦闘中である。

南側では、ウ軍はクリシチーウカ、アンドリーイウカを完全奪還した。ウ軍は追撃して「T0513」道路に向かって線路を超えて攻撃している。この道路は、バフムトへの補給路になっている。この補給路を火器管制下に置いたことで、ロ軍の補給が困難になっている。

その他で、ウ軍はクルディミウカとイワニフスクにも攻撃している。

というように、ロ軍は、この地域で押されている。このため、ワグナーの戦闘員を再配置されるようだと英国防省は言う。規模は数百人程度で、バフムトの地形を知る熟練兵をバフムート周辺に集中配備したようだと。

ザポリージャ州方面

1.ベルカノボシルカ軸

東では、ノボドネツク、ノボマヨルシケ、シェフチェンコに攻撃をしているが、前進できずにいる。ここには大きな兵力を入れないので、攻撃も限定的になっている。

中央では、ウ軍は、ザビトネ・バジャンニャを攻撃しているが、前進できないでいる。

2.オリヒウ軸

ウ軍は、ロボティネの南ノボプロコピウカを攻撃しているが、このノボプロコピウカ方向で少しづつ前進している。ロ軍も徐々に退却している。

コパニ方向へウ軍は向かっているが、ロ軍最強の第76空挺師団が立ちはだかっている。

ベルボベ方向では、第2防衛線を越えてウ軍は、市内の西側に前進しているが、ロ軍陣地も強化されていて、クラスター弾をはねのける構造になってきたことで、前進できなくなってきた。ここに、第7強襲師団が逆襲に出て、一部ウ軍を押し戻している。

もう1つが、ベルボベの南東にロ軍第1防衛線沿いにウ軍は前進して、166高地方向に塹壕を横から攻めている。

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防空システムやレーダーも破壊され打つ手なしのロシア軍

クリミア方面

ケルチ橋周辺にウ軍はドローンとミサイル攻撃をしている。クリミア西部の防空システムを破壊しているので、ケルチ橋付近のロ軍の防空システムを攻撃し始めている。

クリミアの全域に空襲警報が出ているが、ドローンを飛ばして、防空部隊の位置を探っている可能性もある。爆発炎上は、ケルチ地域に限られている。

米国からクラスター弾のATACMSミサイルが供与されるので、その前に防空システムを破壊する必要がある。

低い位置を飛ぶストームシャドーのような巡航ミサイルをロ軍防空システムは迎撃できないでいる。低い位置の探索する早期警戒機をロ軍は持っていないか、能力を発揮できないかである。早期警戒機がクリミア地域でもモスクワでも飛行していない。

ウクライナのヴェレシチューク副首相は28日、被占領下クリミアに滞在するロシア国民に対して、同地を退去するよう呼びかけた。「今後、クリミアへの攻撃が増加して、クリミア大橋が落ちた時、陸上回廊が切断された時、地上戦がクリミア半島で始まった時、彼らはどうするのかだ?」と発言した。

その他方面

ロシア自由軍団は、ベルゴルドの国境付近のスタロセル村とテレブレノ村に夜間に入り、国境警備隊、警察、FSBと銃撃戦を行った。

また、ロシアのブリャンスク地方のルゴヴォイ集落に入り、ロ軍と衝突している。恐らく、ロシア自由軍団の偵察部隊があろう。

ロシア領内クルスク州、ブリャンスク州、ベルゴルド州では、連日ドローン攻撃があったが、侵攻作戦のための偵察活動も兼ねているようである。

クルスク州のカスタ2Eレーダー基地をドローン攻撃で破壊した。この2Eレーダーは極低高度の目標を察知する能力があるが、このレーダーをドローンで破壊ということは、近くに防空システムがないことを意味しているようだ。

クルスク州のスタロボイト知事は29日、州内の5ヶ所の集落や1ヶ所の病院が同日、ウ軍のドローン攻撃にさらされ、停電被害などを受けたとした。ウクライナのインフラ施設へのロ軍の攻撃が続くのなら、ウ軍も同様に対応するとした。

ブリャンスク州のウクライナ国境から21kmのポガール村では、ドローン攻撃でガス供給施設が破壊されて供給停止になっている。

モスクワ近郊のテカロフスキー航空基地で爆発炎上が起きたが、1回目はパルチザンによる航空機2機とヘリ1機を破壊したが、2回目は、空港の2階建てのビルを直撃した。このため、ビルが炎上している。搭乗員の殺傷を狙った可能性が高い。

この基地は、核戦争時空中指揮をする特殊な航空機を運用する部隊の基地である。

ルハンスク州のクラスノドンで、ロ軍弾薬庫の一帯が激しく炎上している。弾薬庫で誘爆が起きている。

ロ軍占領のルクスク、ドネツク、ヘルソンでもドローン、ミサイル、砲撃を受けて大きな被害を受けているが、ロ軍に打つ手がないようである。すでに、電子戦部隊を破壊され、防空システムやレーダーも破壊されていることによる。

ベルジャンスクでも爆発が起き、一帯が停電している。

それと、ウ軍は、ロシア占領地で負傷し、ウ軍前線の後ろに取り残されていた空挺部隊の軍人2人を救出した。

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アメリカ人記者の質問に激怒したゼレンスキーの心中

ゼレンスキー大統領は、新たな攻勢作戦について米英の了解を得たという。とうとう、ドニプロ川左岸に、大規模な渡河作戦を実行するため海兵隊と特殊部隊が集結しているという。オリヒウ軸での攻撃速度が上がらず、このままでは、突破ができないことで、新たな攻撃軸を必要としているようだ。

オリヒウ軸の進捗が進まないことで、欧米でのウクライナ支援疲れを払拭できないでいる。このため、払拭するために、違う何かの戦果を出し続ける必要があり、その一環として、クリミア黒海艦隊司令部の攻撃やベルゴルドへのロシア自由軍団の攻撃などを行う必要があるようだ。

ゼレンスキー大統領も、米国でのウクライナ支援拒否の共和党の動きを非常に心配している。米国の記者が、ウクライナへの支援金が軍幹部の汚職で、消えているのではないかと聞いたときに、猛然と怒っている。

このようなウクライナ支援疲れで、徐々にウクライナ国産の兵器に置き換える必要を感じているようである。このため、費用が掛からない各種ドローンを作り始めている。

1機1,300万円の「バックファイヤー」ドローンは、事前に設定したルートを飛び、設定した場所を爆撃することができる。電波を出さないので、発見されない利点がある。高度300mを時速85kmで飛ぶ。

1輌350万円の地上ドローン「ラーテル」は、35kgの爆弾を積んで1.5km先の目標物を破壊できる。時速24kmで走行する。

しかし、中国はドローン部品の輸出制限したためウクライナは困難に直面している。ウのドローン製造者も「中国製部品の代わりを作るのは不能に近い」と述べている。中国部品の代わりをできるのは、日本しかないような気がする。日本から輸出したらどうだ。

その他、BAEシステムズは、105mm榴弾砲の砲弾の製造をウクライナ国内で行うことや、ラインメタル社とは、戦車の修理工場を国内に作る。

トルコのバイカル社とは、ドローンの製造工場を作ることで合意した。米国の防衛産業とウ国内で生産する方向で協議を行うことになったし、フランスも防衛企業がキーウを訪問して、現地生産企業への技術提供などの契約を締結したようである。

長期戦に備える方向で、ウクライナは国産兵器を拡充するようである。軍事大国化に向けてウクライナは動き出すことになる。

英国のグラント・シャップス国防長官は、英国兵をウクライナに派遣し、英国内だけでなく、現地でウクライナ兵の訓練を開始する予定だと述べた。そして、英海軍も黒海に展開するという。英国が米国の代わりに世界秩序維持の前面に立ち始めている。

反対に、ハンガリーのオルバン首相は、ウクライナのEU加盟を阻止すると述べているし、スロバキアでも反ウ政党が選挙に勝つ可能性があるが、スロバキア選挙出口調査だと、対ウ支援止めるとしたスメル(Smer)より、親ウなプログレッシブ(PS)の方が勝っている。これは予想外の展開だ。

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正気を疑うロシア安全保障会議副議長の発言

28日に、プーチンは、ワグナー参謀長のトロシェフ氏にワグナー部隊の組織再構築を指示したように、プーチンはロ軍将軍たちの意見を聞かず、自ら戦争の指揮を執っているようである。そして、ワグナー軍をバフムトに投入する。

南部オリヒウ軸がロ軍とウ軍の決戦場所であるはずが、プーチンは東部バフムトをまだ重要視しているようである。

ロ軍は砲身が大量生産できず、戦場に新しい砲身が届くことはない。ロシアの貯蔵基地にある50%の耐用年数を持つ兵器から砲身を取っているが、それでも足りない。砲が1日に30~40門、砲撃戦で失われている。このため火力支援がないことで、ロ軍兵士たちは大きな犠牲を出していて、ロ軍部隊は攻勢から守勢に転じている。

現状の状況から、ゲラシモフ参謀総長はトクマク防衛を犠牲にしても、メリトポリとベルジャンスク防衛を優先するという。このため、トクマクを取られることを前提に、南部地域全体の兵站が機能しなくなる恐れがあるので、トクマク経由ではない新しい鉄道の建設をしている。

それにかかわらず、「特別軍事作戦はキエフのナチ政権を完全に破壊するまで続く。勝利は我々のもの。ロシア国内に新たな地域がうまれるだろう」と、メドベージェフは発言した。正気か?

このような状況で、ロ軍は、10月1日より秋季の徴兵召集を開始する。召集は10月1日から10月31日まで手続きが行われる。13万人程度の徴兵であるが、今回はロ軍の人員不足があり、訓練後一度除隊するが、今回からは、そのまま派兵できるようにしたので、そのままウクライナ前線送りであろう。

これにより、前線の人員不足は解消される可能性が高い。

練度が低い兵で防衛するので、陣地の構造はそう簡単には潰せないように強固に作り、弱兵でもウ軍を押しのけるようにするようだ。

ロシア国民生活では、野菜、果物の値段は30%~50%上昇し、ガソリンや軽油も歴史的高値であるが、シルアーノフ財務相は「インフレ?お客さんが買わなければいい!」とモスクワ経済フォーラムで発言した。この発言にロシア国民は怒っているようだ。

NATOに新たに降り掛かかりつつある難題

カラバフのアルツァフ共和国のシャフラマニャン大統領は28日「2024年1月1日までにアルツァフ共和国を解散する法令に署名した」とした。アルメニアに逃れたカラバフのアルメニア系住民の数も7万人を突破し、ナゴルノ・カラバフ地域に住んでいた住民のほぼ半数が故郷を離れたことになる。この地域はアゼルバイジャンの直轄領になる。

このアゼルの武力による現状変更の成功は、世界に影響して、米NSCのカービー報道官は、セルビアがコソボとの国境付近に大規模な軍部隊を展開しているとした。次はセルビアが武力による現状変更を行う可能性が出ている。

欧州はウクライナ戦争だけではなく、コソボ戦争も支援する必要になる。アルバニア系住民92%とセルビア系住民5%のコソボは、紛争が起きやすい。アルバニアはNATOに加盟している。このため、NATOもコソボの住民保護に動くことになる。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年10月2日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Oleksandr Osipov / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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