自民党の「裏金問題」は、3人の議員が逮捕、略式起訴、在宅起訴されましたが、巨額の記載漏れが明らかになった“大物”疑惑議員たちは、収支報告書の訂正で逃げ切ってしまうのでしょうか。今回のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』で、ジャーナリストの有田芳生さんは、出鱈目な政治資金収支報告書に対して国税が動く可能性に言及。一連の疑惑が表面化した経緯を振り返りながら、鼻が利く安倍元首相が裏金廃止を決めた真相にも迫っています。
安倍晋三元総理が「裏金」廃止を提案した真相(上)
国会の衆議院予算委員会で自民党の裏金問題が議論になっている。今後の展開に関わって、2つの問題がある。ひとつは安倍晋三元総理が、銃撃される2か月ほど前の2022年5月に、裏金システムを辞めようと提案した意図だ。
もうひとつは東京地検特捜部が国会議員を逮捕(池田佳孝)、略式起訴(谷川弥一)、在宅起訴(大野泰正)して、捜査に区切りを迎えたが、これで終わるのかという見通しだ。いま政治の焦点になっている自民党の裏金問題は、『赤旗日曜版』のスクープから始まった、とされている。
2022年11月6日号はあらましこう報じた。
自民党派閥が同じ団体に売ったパーティー券の代金を議員ごとに分散して報告することで、政治資金規正法が記載を義務付ける20万円超を購入した団体名の政治資金収支報告書への不記載を暴露したのだ。その総額は約2500万円。
まさにスクープだった。そこにコメントした上脇博之・神戸学院大学教授が新年に調査をして告発、そこから東京地検特捜部が動き出した。これまでの定説だ。
ところが「違う」という関係者がいる。『赤旗日曜版』記者が地道に調査して問題を明らかにし、金額まで示したのは事実で、それがいまに続く重要な役割を果たした。しかし安倍晋三元総理が派閥の裏金システムを廃止しようと提案したのは、『赤旗日曜版』スクープの約7か月前、2022年4月だった。パーティは5月17日、例年のように開催された。その売り上げを議員に還流しないことをいったん決めたことには理由があった。
「このシステムが表に出ると深刻な政治問題になりますよ」。安倍晋三元総理に伝え、説明したのは法務省関係者だった。森喜朗政権時代から続いてきた裏金を政治資金規正法違反で告発されたなら、安倍派のほとんどの議員は逃げることができない。
安倍元総理は自分の裏金が明らかになることも避けなければならなかった。そこで裏金システムを廃止することを決断したのだった。ところが派内からは反対意見も出た。安倍元総理は──2022年7月8日には銃弾に倒れる。それを奇貨として「安倍派5人組」は、裏金システムを続けることを決めたのだった。2022年8月のことだ。『赤旗日曜版』スクープの約3か月前である。
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つまり安倍晋三元総理は、これでは危ないと判断して、自主的に廃止を決めたのだ。その判断は、いまの政治的混乱を見ても明らかだろう。その危機意識は岸田総理にも届いていた。問題が政治問題化する前に解散、総選挙に打って出る。その選択肢があったが、煮え切らず、5年間の「安倍派」裏金約6億8000万円が2023年11月に浮上する。さらに岸田派と二階派の会計責任者も在宅起訴された。
リクルート事件を上回る規模のスキャンダルは3人の議員の逮捕、起訴、略式起訴と収支報告書の訂正で終わるのだろうか。そうではない。訂正後に収入も支出も「不明」とした萩生田光一議員のように、疑惑は深まるばかりだ。
萩生田氏の5年間の隠し金は約2728万円。秘書が机のなかに入れていたという。1万円札で積み重ねれば30センチにもなる。安倍晋三元総理が銃撃を受けた4日後の7月12日に赤坂の焼肉屋で14万3000円あまり、22日に小籠包専門店で15万4000円などを支払っている。支出の金額もさることながら、裏金には脱税疑惑がある。裏金議員に対する検察審査会の動きにも注目しなければならないが、同時に脱税で問うことはできないのか。
じつは東京地検特捜部は国税当局とすでに打ち合わせを行っている。その意味は1992年に発覚した金丸信議員による5億円の闇献金問題と同じだ。自民党議員、とくに「安倍派」が裏金を政治資金報告書で訂正記載したのは、マネーロンダリングだった。この問題はまだまだ終わらない。(つづく)
※ 本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年2月9日号の一部抜粋です。2月のメルマガでは、この記事の続きを配信予定。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
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