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「大東亜戦争」呼びは無反省?それとも歴史的事実?自衛隊公式SNS投稿が物議、先の大戦「侵略戦争」「太平洋戦争」論争が再燃

来年終戦80年を迎える“先の大戦の呼称をめぐり、ここに来てネット上を中心に論争が起きている。発端は陸上自衛隊大宮駐屯地の第32普通科連隊がX(旧Twitter)に投稿したこのポストだ。

投稿には、<32連隊の隊員が、大東亜戦争最大の激戦地硫黄島において開催された日米硫黄島戦没者合同慰霊追悼顕彰式に旗衛隊として参加しました>とある。朝日新聞のこちらの記事によると、“大東亜戦争”という呼称が閣議決定されたのは41年12月の開戦直後。防衛省のシンクタンクとも言うべき「防衛研究所」研究顧問の庄司潤一郎氏(近代日本軍事史)の『日本における戦争呼称に関する問題の一考察』には、より詳しい解説がなされている。以下に引こう。

開戦後の1941(昭和16)年12月10日、大本営政府連絡会議は、「今次戦争ノ呼称並ニ平戦時ノ分界時期ニ関スル件」を、以下の通り決定した。

 

一、今次ノ対米英戦争及今後情勢ノ推移ニ伴ヒ生起スルコトアルヘキ戦争ハ支那
事変ヲモ含メ大東亜戦争ト呼称ス
ニ、給与、刑法ノ適用等ニ関スル平時、戦時ノ分界時期ハ昭和十六年十二月八日午前一時三十分トス

 

上記決定は、12日の閣議において正式に決定され、ここに「大東亜戦争」が定められたのである。

【関連】日本における戦争呼称に関する問題の一考察

国立公文書館 アジア歴史資料センターのサイトには「大東亜戦争の呼称について」という1941(昭和16)年12月10日に作成されたという資料がPDFで公開されている。

しかし戦後、連合国軍総司令部GHQ)は“大東亜戦争の呼称を禁止し、政府の公式文書でも使用されていないという。

このような経緯もあり、第32普通科連隊のポストが物議を醸すことになる。ネット上ではこのような書き込みが溢れた。

<大東亜戦争という呼称は侵略戦争を正当化するニュアンスを含むんだから適切じゃない>

<自衛隊の公式アカウントがアジアの植民地支配を正当化する名称を使うのはどう考えてもNG>

<わざわざ大東亜戦争なんて使うのは大東亜共栄圏っていう名のもとにアジアを蹂躙した旧日本軍のしたことを肯定するってことか>

大東亜戦争に否定的なネットユーザーの反応はおおむね以上のようなポストに集約される。一方で、この呼称を問題視すること事態を問題視”する投稿も多く見受けられた。

<あの時代の日本人が戦っていたのは大東亜戦争なんだからその言葉を使うことを批判するのは言葉狩りみたいなものではないのか>

<単純に戦争が行われていた場所を考えたらほぼアジアだから大東亜戦争で間違ってない気がする>

<戦争の名前を変えたからって歴史もやったことも変えられないんだしだったら大東亜戦争で良いんじゃないかな>

こちらもまたある意味頷ける言い分ではある。

なぜ“大東亜戦争”という呼称が今でも使われるのか

単に「第二次世界大戦」とすればすべてが丸く収まる感もあるが、上掲の『日本における戦争呼称に関する問題の一考察』によれば、<欧州の戦争とのイメージが強く、日本が直接関係した戦争の特殊性(日本人の主体性)を論ずるには不適当であるとの指摘もなされている>という。

日本の近現代史に詳しい40代の男性マスコミ関係者は、以下のように話す。

「現在、我が国では“大東亜戦争”“太平洋戦争”“アジア・太平洋戦争”という、言ってみれば“三大流派”があります。式典などでは“先の大戦”という呼称が用いられることが多いですね」

今回、陸上自衛隊が公式アカウントで用いて論争となった“大東亜戦争”だが、上記のようにGHQから禁止されたのにもかかわらず、特に保守派とされる人々が使用するのはどのような理由があるのだろうか。

「まずひとつは、“大日本帝国”が戦端を開いた目的に『欧米列強による植民地支配からのアジア解放』という“大義”があったことを表せるという面があります」(同前)

いわゆる“大東亜共栄圏”の形成だ。

山口県文書館(「大東亜共栄圏地図」「家の光」17巻1号附録)

「さらに“戦域”が正確に表せるという点も挙げられます。真珠湾攻撃だけでなく、イギリス東洋艦隊を壊滅に追い込み欧米列強の雄である英軍を駆逐したマレー作戦の戦地まで幅広くカバーできます」(同前)

この指摘は上に引いたネット上の<戦争が行われていた場所を考えたらほぼアジアだから大東亜戦争>というポストと一致する。ちなみに当時の世相はこんな曲にも反映されている。

「いちばん大きいのは、戦時中の日本人は皆が皆“大東亜戦争”と呼んでいたことに間違いはなく、嘘偽りのない事実を残せる上に“言葉狩り”をせずに済むということも大きいと思われます」(同前)

しかしその一方で、大きな問題点もあるとも話す。

「当時の軍国主義や戦争犯罪への反省が感じられないというのはもっともな指摘です。そもそも“大東亜共栄圏構想”というのはアジアに攻め込む単なるひとつの名分で、実際は侵略戦争だったというのが主流の考え方ですよね。さらに言えば“大東亜戦争”という呼称に固執するのは、『日本はあくまでアメリカに負けただけであって、アジアの中ではどの国にも負けてはいない』という主張に通じる部分があるのではないでしょうか」(同前)

以上の“問題点”は多くのネットユーザーたちがポストした内容と重なる。

“太平洋戦争”ならば問題はないのか

それでは、戦後の教科書などに採用され、現在マスコミ等でも広く一般に使われている“太平洋戦争”についてはどう分析するのだろうか。

「私を含む戦後生まれには馴染みが深く、現在のスタンダードと言ってもいい呼称です。中韓を含むアジア諸国を過度に刺激する恐れもありませんし、何より“アメリカのお墨付き”ですから」(前出の40代男性マスコミ関係者)

確かにネット上にはそのような書き込みも多数見受けられる。

<太平洋戦争っていう言葉があるんだからわざわざ大東亜戦争なんて使う必要ないと思う>

<大東亜戦争って字面に拒否反応起こすアジアの国もあるんだから。そういう国の反感をずっと買い続けるのか?>

とは言え、“問題点”がないわけでもないという。

「GHQの意向で“大東亜戦争”という呼称が禁止されたために作られた“偽りの名称”であるという見方をする国民も多数います。また、“太平洋”だとアメリカとの戦争だけにフォーカスしている、太平洋地域だけで戦争をしていたイメージがある、もっと言えばなぜ日本が戦争をしていたのか、その“理由”が全くわからない呼び方になっているという声もありますね」(同前)

<太平洋戦争なんて占領軍の押しつけだ。大東亜戦争こそが正式>といったXへのポストが散見されるのも、男性マスコミ関係者の分析の正確さを裏付けていることになる。

“アジア・太平洋戦争”という呼称はどうなのか

であるならば、間を取っているようにも思える“アジア・太平洋戦争”で丸く収まるということはないのか。

「“アジア・太平洋戦争”は“大東亜戦争”“太平洋戦争”のどちらの立場も取らず、政治色を排除して先の大戦を正しく説明しようというフラットな呼称だと思います」

事実この呼称に関してはネット上への書き込みも<アジア・太平洋戦争というのが適正な呼称かなと思います>といった“フラット”な感があるものが多い。しかしこれとても

「『日本が戦った戦争にアジアが含まれる、というより“アジア”がメインであり、日本には日本の主張があった』ということを想起させること自体が“無反省”という見方も少なくないんです」(同前)

もはやどう呼んでいいのか判断がつかないとも言うべき先の大戦。しかし、“大東亜戦争”という呼称を放送禁止用語扱いで過度にタブー視する姿勢が、戦勝国から突然“普段使いの言葉”を禁じられた当時の国民や軍人・軍属の思いを無視するものであるのも事実だ。

「今回Xにポストしたのは陸上自衛隊ですが、彼らが旧海軍主導の太平洋戦線しか説明していないようにも受け取れる“太平洋戦争”という言葉を使いたくない、という気持ちも理解できないこともありません」(同前)。

物議を醸した今回の第32普通科連隊の投稿。しかし、先日取り上げた陸自第1師団創立62周年、練馬駐屯地創設73周年記念行事の開催を告知する「有事だョ! 全員集合」というポスト(現在は削除)に比べればカワイイものとは言えないだろうか。

【関連】「有事だョ! 全員集合」悪ノリ陸自練馬駐屯地が大炎上。謎の「ダサすぎ怪ポスター」を徹底解読

X(旧Twitter)の反応





※本記事内のツイートにつきましては、X(旧Twitter)のツイート埋め込み機能を利用して掲載させていただいております。

image by: 山口県文書館(「大東亜共栄圏地図」「家の光」17巻1号附録) , 外務省外交史料館(『大東亜戦争関係一件』)

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