インド政府を激怒させ、中国から痛烈な皮肉を浴びた米国。長期的な「全体構想」なき国際情勢の行方

07.07.22,Irpin,,Ukraine:,Small,Children,And,Their,Caregivers,Are,Evacuated
 

どれだけウクライナが救いを求める声を上げようとも、ロシアの軍事侵攻を止めることができない国際社会。なぜ欧米諸国が有効な手を打てないままの状態が続いているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、西側諸国が長期的なビジョンとしてのグランドデザインを持ち合わせていないことを、その原因のひとつとして指摘。さらにこのような状況に陥ってしまった理由を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:グランドデザインが存在しない国際情勢

リベラルな秩序はすでに崩壊。自国の利害を最優先する外交のみに終始する国際社会の行き着く先

「アメリカが中国に求めている内容を整理するとこうなる。あなたの一番緊密な友好国を倒すために手助けをしてもらいたい。そうしたら次はあなたを倒しにかかります、ということだ。こんなバカげたことを誰がまともに捉えて、協力するのだ」

これは今週、話をした中国の外交当局の最高幹部が、痛烈な皮肉を交えて話した内容の要約です。

バイデン政権が成立した際、中国政府はそれまでトランプ政権下で冷え切った米中関係が好転する兆しではないかと期待し、アラスカでサリバン大統領補佐官とブリンケン国務長官とのミーティングに臨みましたが、ふたを開けてみたら、頭ごなしに“中国がすべきこと”を一方的に押し付けられただけで、協力というよりは命令に聞こえ、「とてもじゃないが、付き合いきれない」と感じたそうです。

その後、同じような感情と反応は、インド政府を激怒させ、グローバルサウスの国々のアメリカ離れを加速させることになりました。

その要因は一方的に頭ごなしに他国がすべきことを押し付ける姿勢にもありますが、いろいろな意見を集めて整理してみると、【アメリカも欧州の国々もリーダー面しても、世界をどうしたいのかという長期的なビジョンであるグランドデザインを描いていないこと】が各国を失望させていることがあります。

ただこれは欧米諸国に限ったことではなく、日本もそうですし、欧米を非難するグローバルサウスの国々も同じことです。

国際協調を基盤に成り立っていたリベラルな国際秩序はすでに崩壊し、各国はそれぞれの利害に基づいた実利主義に傾倒した外交と交流を行うようになったことで、まとまりが無くなったという印象を受けています。

その結果が、今、私たちが見ているロシアとウクライナの戦争であり、イスラエルとハマスの終わりなき戦いと悲劇の拡大であり、そしてほかの地域で広がる終わらない紛争の激化と、多くの潜在的な紛争の種の発火だと考えます。

しかし、現在進行形で紛争当事者となっている国々・非政府組織については、“グランドデザイン”は、評価が分かれるところですが、それなりに存在し、意識されていることと思います。

キーワードは自身・自国の生存の確保です。

ウクライナについては言うまでもなく、独立主権国家としてのウクライナの存続こそがグランドデザインになると考えられます。

ロシアに占領されたクリミア半島やドンバス州を含む東南部4州の奪還(または返還)を通じた国土のintegrityの回復はもちろん追求すべきゴールですし、当然の権利だと考えますが、ロシアとウクライナの停戦を望む欧州各国とその仲間たちは、必ずしもそれを追求せず、今となっては、戦争をウクライナの領域内で止め、自国もしくは周辺国に戦火が拡大することが無いようにすることを優先しているように見受けられます。

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