インド政府を激怒させ、中国から痛烈な皮肉を浴びた米国。長期的な「全体構想」なき国際情勢の行方

 

「大ロシア帝国の再興」というプーチンのグランドデザイン

国土の保全と回復という長期的なビジョン、そしてグランドデザインを描くのであれば、もしかしたら【すでにロシアの影響下にある東南部を割譲し、中部と西部を維持すべき】とするという案も浮上します。

もちろん、現時点ではそれを受け入れることはできないでしょうし、その受け入れは、すなわちゼレンスキー大統領の求心力が無くなり、政権の打倒もしくはクーデターを誘発することに繋がりかねません。

まあ、それこそがロシア・プーチン大統領が描く“もう一つ”のウクライナ戦争(侵略)の帰結点なのだと思われます。

当のロシアはどうでしょうか?これは再三描いているように、プーチン大統領にとっては自らの手で大ロシア帝国の再興(新ソビエト連邦の建設)がグランドデザインとして存在すると思われます。

しかし、より現実的なラインであり、かつ“友好国”に提示しているビジョンでは、NATOおよび欧州各国の影響範囲を遠ざけ、コーカサス・中央アジアから追い出すというのが“あるべき姿”として示されています。

プーチン大統領は欧州各国を敵に回してでも、欧米勢力をロシアの勢力圏(Sphere of influence)には入れないという強い決意および外交安全保障上の基本ラインがあり、NATOの東進は欧米諸国の裏切りと捉えているため、ロシアの将来像としてのグランドデザインでは【欧米の影響を受けない独自の勢力圏の確立】が掲げられます。

そのためには「親欧米に舵を切ったゼレンスキー政権は打倒しなくてはならない」との確信が存在し、そのためには当初3日間もあれば実現可能と踏んでいましたが、今や“特別作戦”は2年3か月を経過し、戦略上、この戦争をのらりくらりと長期化させ(ただし、ロシア有利の状況のままで)、厭戦機運をウクライナ国内で高めて、内から政権の打倒を図り、その後は親ロシアの政権を樹立して、ロシアのコントロール下に置こうという方向にシフトしているように見えます。

いろいろと分析するとウクライナを物理的に破壊することには関心はさほどなく、ロシアの勢力圏を西に向けて拡げることに重点が置かれていますが、同時にウクライナを、東欧のNATO諸国ににらみを利かせるための前線かつロシアの勢力圏との緩衝地として用いたいという思惑が見えてきます。

西側にウクライナを挟んでプレッシャーをかけ続け、その間に北欧・東欧のNATO加盟国にちょっかいをかけて混乱を引き起こし、NATOの結束を崩すことを狙っていると思われます。

まずは“裏切り者”とロシア政府が呼ぶバルト三国に対して小規模の侵攻を行い、ある程度被害を与えたらさっと軍を撤退させることで、NATO内での議論を活発化させます。

NATOでは憲章第5条に則って対ロ宣戦布告を行うべきかどうかという議論が行われることになりますが、ロシアとの直接的な軍事衝突を恐れるNATOが全会一致で宣戦布告に流れることはなく、恐らく何ら行動できないとロシアは踏んでいると思われます。その上で、他の国々にも小規模の攻撃を加えつつ、戦争犯罪にあたるような行為を行うことで、NATO内で「NATOは結局役に立たない」という感情を引き起こし、NATOの分裂を画策することで、ロシアの国家安全保障の確保に繋がる、というのがグランドデザインでしょう(ついでにアメリカ・カナダと西欧ブロックと北東欧ブロックにNATOを分断し、北東欧ブロックにじわりじわりと圧力をかけて、ロシアの側に引き寄せようという企てもあるようです)。

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