インド政府を激怒させ、中国から痛烈な皮肉を浴びた米国。長期的な「全体構想」なき国際情勢の行方

 

絵に描いた餅と化した欧米諸国のグランドデザイン

これに対して欧米諸国は具体的な策を持ち合わせず、今後の世界をどうしたいのかというグランドデザインも持ち合わせていないように見えます。

グランドデザインが存在するとすれば、それは【自分たちの影響力の維持と拡大】【世界における経済的な利権と支配の維持】【自由という名の下のリベラルな国際秩序の回復と維持】といったものかと思いますが、その背後に隠れているそれぞれの国の利害の衝突と思惑によって、これらの“デザイン”は絵に描いた餅になっていると感じます。

またその理由は、圧倒的な武力と経済力で世界の警察官として治安維持に奔走していたアメリカがその立場と責任を捨て、かつ現実的にその能力を失っていることにあると考えられます。

それは20年にわたる駐留中に国を滅茶苦茶にして放棄したアフガニスタンとイラクの悲劇を引き起こしたことと、現在進行形のイスラエルとハマスの戦いにおいて、頑ななイスラエル擁護を行ったことで、アメリカは自己矛盾の塊であることを世界に印象付け、“国際社会における信頼性”が失墜したからと言えます。

それはNATOの加盟国間にも広がっており、アメリカも西欧諸国も“ウクライナが敗北しない程度”に支援を留める方針を変えないことを見て「自分たちの身は自分たちで守る必要がある」と感じさせて、ロシアの優位が変わらないこととロシアの脅威が拡大するにつれ、北欧諸国も東欧諸国も、そしてバルト三国も「ウクライナが敗北したら次は我が身」との恐れが高まっています。

その証拠にリトアニアやポーランド、そして新規加盟のスウェーデンはNATOの決定を待たずに有志国でのウクライナへの派兵を具体的に議論し始めているようです。

NATOや欧米各国はそれらの国の引き留めと、自由主義陣営のintegrityの維持をグランドデザインにするかもしれませんが、現実的にはその達成は困難になってきているように思いますし、本当にNATO加盟国がそれを真に望んでいるのかは不明ですので、グランドデザインは存在しないと認識しています。

ただし、「ウクライナが敗北したらどんな悪夢が世界に訪れるか?」という恐れは共通の問いとして抱えており、ロシアの勝利を許してはならないという点では団結しているようですが、その戦争も今では“ロシア対ウクライナ”というシンプルな構図ではなく、【北朝鮮・イラン・中国・ロシア】対【欧米諸国とその仲間たち(NATOプラスα)】という構図に替わっているため、対応が非常に複雑化してきています。

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