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安倍政権で起きた“悪夢”の元凶。立憲民主党を歪めた「野田佳彦率いる保守反動派」と“共存不可能”な議員たちが今すべきこと

裏金問題をはじめとした数々の不祥事露呈により、支持率低下にあえぐ自民党。野党第一党の立憲民主党にとってはこの上ない政権交代への追い風が吹く状況ですが、同党内が“一枚岩”ではないこともよく知られた事実です。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では旧民主党の立ち上げにも深く関わったジャーナリストの高野孟さんが、立憲民主党内左派グループ勉強会での自身の講演内容を紹介。その中で高野さんは彼らに対して、野田佳彦元首相を代表とした党内の保守反動派との決別を提言しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:立憲民主党内で“内部矛盾”を上手に激化させる方策について/6月6日サンクチュアリ会合でのスピーチ

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

立憲民主党内で“内部矛盾”を上手に激化させる方策について

6月6日に立憲民主党内の旧社民党系を中心とする左派グループ「サンクチュアリ」の勉強会で講演した。昨年5月にも同グループに呼ばれて講演しており、その要旨は本誌No.1207(23年5月22日号)に掲載した。似たような趣旨の部分もあるけれども、現時点での私の同党への絶望感と、党内リベラル左派として存在感を持つ同グループへの期待感を表しているので、若干の修正・脚色を加えて掲載する。

【関連】立憲の腰砕け。野党第一党が聞いて呆れる「岸田軍拡」擦り寄り姿勢の醜態

私が立憲に萎えてしまう理由

実は1カ月ほど前に、旧総評系労組の平和フォーラムやそれと繋がる市民連合などのコアの方々と、立憲民主党の9月代表選をどうしたらいいか、何らかの提言をし、圧力というわけではないが行動を起こすべきだという話になった。そのためのメモを持ち寄って改めて議論することになり、それからしばらくして私が「さあ、今日一日かけてそのためのメモ作ろうか」と思ったその朝の5月15日付「東京新聞」に出たのが「次期戦闘機条約、衆院通過」という記事だった。

日本とイギリス、イタリアが次期戦闘機を共同開発しそれを第三国に輸出できるようにする条約に、自公と維新だけでなく立憲も賛成して衆院で可決された。戦闘機というのは最強力の大量殺戮兵器の1つであり、それを他国と共に開発すること自体がどうかと思うのに、それを積極的に輸出しようというのは一体どういう魂胆なのか。

この前提として、政府は3月に武器輸出ルールを緩和し、日本から第三国への輸出を解禁することを閣議決定した。この問題を遡ると、何と2011年12月に野田政権が武器の国際共同開発を「包括的に例外化」する方針を打ち出していて、それを受ける形で14年3月に安倍晋三政権が「武器輸出3原則」を撤廃したのだった。

この東京新聞記事では、この他にも、自衛隊の「統合作戦司令部」を創設するための関連法、高市法案と呼ばれ機密保護法をさらに外延化する「重要経済安保情報保護法」などにも、立憲が「相次いで賛成している」と指摘されている。

この記事を読んで、私がこれから9月の立憲代表選に向け何かを提言しようかという気持ちが萎えてしまうのは、仕方のないことだった。

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立憲を歪めた元凶は野田佳彦である

武器輸出解禁に限らず、第2次安倍政権になって起きている悪いことのほとんどは野田政権時代に始まっている。

16年9月に民進党の新代表となった蓮舫が野田を幹事長に指名したことに私は心底驚いて、次のように当時の「日刊ゲンダイ」コラム(同年9月23日付)に書いた。

第1に、安保法制。野田政権の国家戦略会議フロンティア分科会は12年7月、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認めるべきだと提言し、それを「能動的な平和主義」と名付けた。それと連動して自民党もほぼ同時期に「国家安全保障基本法(概要)」を発表して政権交代後に備えた。

第2に、武器輸出。藤村修官房長官は11年12月、佐藤・三木両内閣以来の武器輸出3原則を見直して「包括的な例外協定」案を発表した。それを受けて安倍は14年4月、同3原則を廃止した。

第3に、オスプレイ配備。米国の言いなりで受け入れ、12年10月に沖縄に配備を強行させた。

第4に、尖閣国有化。12年9月、中国への根回しを欠いたまま尖閣諸島の国有化に踏み切り、日中関係が一気暗転、安倍政権の扇情的な「中国脅威論」キャンペーンに絶好の材料を提供した。

第5に、原発再稼働。野田内閣は12年6月、3・11後初めて大飯原発3、4号機の再稼働を決定し、7月から運転させた。また同時に、再稼働の「新安全基準」を定め、それを担う「原子力規制委員会」を設置する法案を成立させた。同委員会は12年9月に発足し、せっせと再稼働推進に取り組み始めた。それを受けて安倍は、全面的な原発復活・輸出路線に突き進んだ。

第6に、TPP。最初に「参加を検討する」と言ったのは菅直人首相だが、野田は11年11月「参加のため関係国と協議に入る」と表明、12年に入り各国に政府代表団を派遣し始めた。それを引き継いで安倍は13年3月、TPPに正式に参加表明、甘利明特命大臣を任命しして交渉をまとめさせた。

第7に、消費増税。野田内閣は12年2月に「社会保障・税一体改革」大綱を閣議決定し、8月に「14年に8%、15年に10%」とする消費税法改正案を成立させた。これをめぐる安倍との駆け引きの中で、やれば負けると分かっている解散・総選挙を打って、同志173人を落選させ、安倍に政権をプレゼントした。

その野田が蓮舫の傀儡師になって、一体どのように自民党と対決して政権を奪い返すというのだろうか。見えているのは「自公民大連立」という悪夢の予兆だけである。――以上が日刊ゲンダイからの引用。

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枝野=立憲の本筋はどこにあるのか

このような野田に代表される立憲内部の保守反動派と、サンクチュアリはじめリベラル派は、もはや共存不能であり、キッパリと決別しなければならないのではないか。

なぜなら、2017年秋、蓮舫の後を継いだ前原誠司代表が突如として小池百合子の希望の党に合流しようという解党路線を提起、あれよあれよという展開の中で、かろうじて枝野幸男が踏み止まって立ち上げたのが「立憲民主党」である。

私は当時、毎日新聞「夕刊ワイド」欄に頼まれて、阿佐ヶ谷駅前と新宿西口での枝野の演説に立ち会ったが、枝野が「私がたった1人で立憲民主党を立ち上げましたぁぁ!」と声を張り上げると、取り囲んだ聴衆から「ありがとぉぉーっ!」という絶叫コールが湧き起こった。見れば、その主力は2015年安保法制反対の国会デモに連日参加したであろうシニア世代。彼らは民進党がなくなったらもう投票する政党がなくなってしまうと絶望しかかっていて、枝野が救いの神に見えたのだ。

その意味で、15年安保法制反対デモと17年立憲立ち上げは直結していて、そこを外したら立憲の存在意義はゼロとは言わないが、どこを根っこに戦って行くのかの原点を失ってしまう。そこに、野田派のほか国民民主や無所属からのバラバラとした合流組との間の大きな矛盾が存在する。

毛沢東『矛盾論』を俟つまでもなく、矛盾には敵対的と非敵対的とがある。敵対的とは和解不能ということで、議論するだけ無駄で、組織としては分裂に行きつかざるを得ない。出来るだけそうなることを避け、あくまでも組織の内部で、お互いの主張を尊重しつつ合意可能な部分は認め合い、共存をすることを追求するのが非敵対的矛盾で、これが組織運営の根本である。そうは言っても、何事においても事を荒立てずに穏便に過ごそうとするのは逆に最悪で、むしろ積極的に議論を盛んにして、どこで一致出来てどこでは一致出来ないのかを常に顕在化させていく「熟議」の術に長けることが、その組織を活性化させるコツである。これが、物事を“内部矛盾”として処理するということである。

そういう観点からすると、リベラル派の大きな塊であるデモクラッツの皆さんはおとなしすぎる。事あるごとに日々声を挙げ、記者会見を開き、公然と執行部を批判し、「我々はこう考える」」「我々であればこうする」という高度の知的オルタナティブを提起し続けなければならない。

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政治とは「矛盾のマネジメント」である

政治とは何かという問いに対する1つの答えは「矛盾のマネジメント」である。

毛沢東に即して言えば、1937年に盧溝橋事件から上海事変へという日本軍の対中侵略の本格化という局面変化を受けて、それまで血で血を洗う泥沼の内戦を繰り広げていた国民党政権と共産党反乱軍が急遽和解・停戦して共に日本の侵略に立ち向かうことに合意した「国共合作」がその鮮やかな一例である。

それ以前は、中国国内における国民党=資本家&買弁勢力と共産党=労働者・農民との間の国内階級矛盾が中国情勢の「主要矛盾」であり、その矛盾の性格は致命的に敵対的=非和解的矛盾であったけれども、日本の対中侵略が本格化すると中国と日本の国家・民族間の敵対関係が「主要矛盾」に成り上がり、国民党vs共産党の対立は「副次的矛盾」に格下げになる。その瞬間を捉えて国共合作の政治工作を仕掛け、中国の持つ全ての力を対日戦争に集中させるというのが、巧みな政治戦略だった。

このように、局面変化に応じた「主要矛盾」の変化、すなわちその局面での主要課題の転換を鋭く察知してそれに応じた戦略方針を機敏に打ち出すことこそ、政治家の仕事であるはずだ。

日本での一例を挙げると、古い話で恐縮だが、1994年の村山政権の誕生がある。93年8月に細川政権が成立し「55年体制の崩壊」ということが言われたものの、後継の羽田政権を含め改革派政権は10カ月しか持たず、自民・さきがけ・社会3党の村山政権が誕生した。私はこれに大反対で、何故ならこの時の政局の主要問題は「どうしたら自民党を引き続き野党の立場に押し込めて塩漬けにし、金権・腐敗体質を徹底的に改変出来るか」であり、従って、その時の日本政治の「主要矛盾」は細川政権与党8派と自民党との間の非和解的矛盾にあった。

が、その当時、社会党の長老グループや伊東秀子ら左派の一部の間には「村山さんと河野さん(洋平=自民党総裁)とでハト派政権を作るんだ」といった言説が飛び交った。これはとんでもない妄言で、その当時、そんなことは現今の課題でもなく、従ってまた国民的関心事でもなかった。そのような村山と武村正義=さきがけ党首の迷妄の結果として、村山政権は次の橋本龍太郎政権に道を開き、以後自民党政権が続いていることを思えば、「矛盾のマネジメント」がいかに難しいかが理解できよう。

そういうわけなので、サンクチュアリの皆様には是非、立憲内部で上手に矛盾を成熟・発現させつつ、党内の保守反動派を克服して立憲をまともなリベラル政党に育てて行って頂きたいと思う。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年6月17日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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