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日本破壊の総仕上げ。利権団体と外資企業に言われるがまま国立公園に高級リゾートホテル誘致を指示した岸田首相の“思い付き経済優先策”

7月19日に開催された観光立国推進閣僚会議で、全国の国立公園の「民間活用による魅力向上事業の実施」を指示した岸田首相。その核として高級リゾートホテルの誘致が想定されているとメディアは伝えていますが、はたしてこの施策は日本経済の起爆剤となりうるのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、首相がこの観光政策を打ち出すに至った背景を考察。その上で、当施策は我が国にとって百害あって一利無しとの厳しい結論を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:首相のお仕事とは?新たに打ち出された観光政策に思うこと

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

国家のグランドデザインが描けているわけでもなし。岸田首相が打ち出した新たな観光政策に思うこと

皆さんは、政府が発信する情報、あるいは岸田首相自身(実際はスタッフ)が発信する情報をどこまでフォローされているでしょうか。

テレビや新聞などで間接的に伝えられる政府の動きや首相の動向に加えて、たとえばX(旧ツイッター)には内閣官房や首相官邸のアカウント、岸田首相のアカウントがあります。もちろん、政府関係のSNSアカウントは山ほどあり、媒体もX以外、フェイスブックやインスタグラムなど多岐にわたりますが、ここでは例として以下の3つを挙げておきます。

Xの内閣官房のアカウント:フォロワー数351,504(2024年8月1日現在)
Xの首相官邸のアカウント:フォロワー数1,566,272(同)
Xの岸田首相のアカウント:フォロワー数840,858(同)

もちろん、これらのアカウントは、政府や首相の活動をアピールするための広報活動を主な目的として設けられているものですが、これらを見るだけでも、いろいろなことがわかります。

一見、政府も首相も日々アクティブに活動しているように見えますが、仕事の優先順位付けはしっかりできているのでしょうか?

あるいは、アピールしている内容は単なる政治パフォーマンスなのでしょうか、それとも実効性を伴うアクションになっているのでしょうか?

さらには、取り上げている活動の裏にある政府や首相の思惑や本音はどこにあるのでしょうか?それらの活動は、国益や国民に資する活動になっているのでしょうか?

また、国民に向けたメッセージの内容は信頼に値するものなのでしょうか、それとも事実誤認や間違いが含まれているのでしょうか?

etc.etc.

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SNS発信を見るだけでも支持する気にはなれない現政権

例えば、昨年の8月、福島原発の処理水を海洋放出するときに岸田首相は以下のようなメッセージを発信していました。

本日よりALPS処理水の放出が始まりました。
福島第一原発の廃炉に向けて歩まなければならない道であると同時に、福島を始めとした被災地復興の新たな一歩です。
今後政府を挙げて、風評対策をはじめ福島や被災地の復興の姿と、日本の食文化の魅力などを、世界に向けて力強く発信してまいります。

しかしながら、この岸田首相のメッセージには、政府の思惑に沿った多くのディスインフォメーションが含まれており、国民に誤った認識を広めるものであることをこのメルマガでも以前に指摘しました。それが公開されたものを以下に再掲しておきます。

なぜ日本政府は「汚染水の海洋放出」に拘るのか?

別件では、たとえば以下のような活動は、首相が時間を割いて行うようなことなのでしょうか。現地視察の重要性は否定しませんが、そもそもこの特定の自治体の活動を視察することは何を目的としたもので、どのような収穫があったのでしょうか。またその結果、国の政策にはこの視察で得た何が反映されることになるのでしょう。

https://x.com/kantei/status/1816790305422946683

以下の活動についても真意が不明です。北方領土問題に関しては、安倍元首相の時代に、ロシアのプーチン大統領と計27回にも及ぶ首脳会談を実行しておきながら、大きく後退したまま返還の目途はまったく立っていません。岸田政権になってからは、ロシアとは完全な敵対関係になって状況は悪化しており、その現状を踏まえると、ここでの子供たちへのメッセージにはまったく何の意味もありません。

https://x.com/kishida230/status/1818250196628959557

いくつか、最近これらのSNSアカウントに上がっているものをピックアップしてみましたが、切りがありませんので、皆さんもそれぞれの視点で政府や岸田首相が本来日本国として、あるいは日本国トップとしてやるべきことをやっているのか、お盆休みなど時間があるときに一度確認してみてはいかがでしょうか。このようなSNS発信を見るだけでも、私はこの政権を支持する気にはまったくなれません。

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あまりにも思い付きレベルで杜撰な岸田政権の観光立国政策

最後に、最近岸田首相が打ち出した新たな観光政策について一言。

かつて「科学技術立国」を標榜していた我が国ですが、今や「観光立国」を国策とする国になってしまいました。しかしその観光立国政策にしても、あまりにも思い付きレベルで杜撰な政策に過ぎず、オーバーツーリズムの問題も深刻化していますが、対策は各自治体に丸投げ、という印象です。

● 関連記事:国民生活より「インバウンドが優先」の亡国政策

この6月、日本を訪れた外国人旅行者は推計で3,135,600人となり、1ヶ月の人数としては過去最高になりました。また、今年上半期に訪日した外国人旅行者数は1,777万人と、これも過去最多を更新しています。その結果、今年のインバウンド消費額は、過去最高だった昨年の5兆3,000億円を大きく上回って、8兆円に達する可能性もあると報道されています。

そのような中、7月19日に総理官邸で開かれた観光立国推進閣僚会議において、岸田首相は突如「国立公園制度がはじまって100周年を迎える2031年度までに、全国35カ所の国立公園のすべてを対象に、世界水準のナショナルパーク化を実現すべく、民間活用による魅力向上事業を実施してください」と閣僚たちに指示しました。日本を訪れる外国人観光客の地方滞在を後押しするのが目的なのだそうです。背後に、観光利権団体や外資系企業の働き掛けがあることは明らかです。

岸田首相は、外資を含めた高級リゾートホテルや大型複合施設の誘致を想定しているのだと思いますが、まさに利権団体に言われるがまま、といったところなのでしょう。

環境省のホームページには、「国立公園は、世界にも類のない美しい自然を日本の宝として未来に引き継ぐ役割を担っています。そのため、自然環境を保護・保全する姿勢を忘れずに国立公園を訪れ、四季折々に変化する日本の美しい自然を満喫してください」とあります。今回、岸田首相が表明したことは、この国立公園の役割を否定することにもなりかねません。長らく自然保護活動に取り組んできた公益財団法人日本自然保護協会は、早速、岸田首相と伊藤信太郎環境大臣宛てに「保たれていた自然環境が危険に晒される可能性が高い」などとした意見書を提出しています。

そもそも、ヨーロッパなどに比べて環境規制の緩い我が国では、すでにいたるところで自然が破壊され、海岸線はコンクリートやテトラポッドで固められ、山林は方々で切り開かれて太陽光パネルが敷き詰められ、鉄塔や電線も目立ちます。街並みも計画性がなく、どこに行ってもゴチャゴチャしていて、立て看板なども乱立しており、お世辞にも美しい国とは言い難いと思います。

外国人観光客も今はただ円安が寄与して安く旅行ができるからという理由で訪日している人たちが多いとすると、今後この状態がいつまで続くのかはわかりません。外国人富裕層を当て込んだ京都の高級ホテルなどでは、稼働率が想定したほど上がっていない、という話も聞きます。

今回の「国立公園改造計画」についても、思い付きの経済優先策として進めてしまうと、従来の国立公園としての観光価値をただ破壊して、閑古鳥が鳴くようなリゾートホテルが乱立し、いずれ廃墟化していくということにもなりかねません。

少しでも長く首相の座に留まることにしか興味のない岸田首相は、明確な国家ビジョンを持ち合わせているわけでも、国家のグランドデザインが描けているわけでもありません。そのような人が、円安効果でのインバウンドブームや利権団体の口車に乗せられて打ち出すこのような観光政策は、我が国にとってまさに百害あって一利無しと断言してよいのではないでしょうか。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年8月2日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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