9月の自民党総裁選に向けて、あの小泉進次郎氏を担ぎ出す動きが活発化している。小泉純一郎元首相、森喜朗元首相、中川秀直元官房長官、ジャーナリストの田原総一朗氏らの会食では「絶対に進次郎がいい」の発言も。自民党の重鎮たちが進次郎氏を推す目的は党の腐敗と堕落から国民の目をそらすことにありそうだ。元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:小泉進次郎氏を総裁選に出馬させたい長老たちの思惑
どこか不自然な「小泉進次郎推し」自民長老らの思惑は
ジャーナリストの田原総一朗氏が小泉純一郎元首相、森喜朗元首相、中川秀直元官房長官と7月中旬に会食をした。その席で、9月に迫る自民党総裁選に話題が及んだ。
森、中川両氏が「絶対に進次郎がいい」と口々に言うと、小泉氏は「そこまで言われるなら、本人がやると言ったら反対しない」と応じた。
8月2日、岸田首相に会いに来た田原氏が官邸詰めの記者たちにそう話し、それがニュースになった。
なにか妙だ。純一郎氏がいるから進次郎氏のことを話す。酒席における軽いノリのやり取りだったかもしれないが、田原氏がそこにいる。外に言いふらされるのはわかっていたはずだ。
わずか2か月前、小泉純一郎氏は、総裁選出馬に意欲を燃やす石破茂氏にエールを送っていた。
5月14日、石破氏のほか山崎拓氏、武部勤氏、亀井静香氏と会食したときのこと。小泉氏は総理をめざす心構えを説いたうえで、石破氏に「進次郎に50歳になるまで立候補せずに時の首相を支えよと諭している」という趣旨の話をした。これもまた同席した石破氏の思いをわかったうえでのリップサービスではあろうが、進次郎氏の総裁選出馬はまだ早いと思っていたのは間違いない。
石丸伸二に対抗できるのは小泉進次郎だけ?
相手によって、話す内容も違う。時期によっても変る。小泉純一郎氏の認識が、5月14日と7月中旬で大転換しても不思議ではない。
東京都知事選で、どこの政党の支援も受けずに41歳の前安芸高田市長、石丸伸二氏が165万票を獲得して躍進した“事件”の重みを自民党関係者なら強く感じているはずだ。
選挙に無関心な人々を刺激し、投票率が5.62ポイントもはね上がったのである。それは、古臭い既成政党を拒否し、新しいカリスマを求める無党派層の実在を浮かび上がらせた。
そう考えると、同席した田原総一朗氏がメディアに流すことを想定したうえで、森喜朗氏らが若さと世間的な人気という観点から進次郎待望論をぶち上げたと見ることもできる。
長老が小泉進次郎氏を推していることが広まれば、党内世論を刺激し、若手議員から出馬要請の声が高まってくる。そんな思惑があったかもしれない。
小泉進次郎氏「出馬」なら自民党総裁選に大激震
小泉進次郎という政治家の資質について「定見」を持つのはきわめて難しい。たとえ父親であってもそうだろう。政治・行政の不合理な慣行を改めようとする意気込みはいいが、気取った話しぶりのわりにその内容たるや空疎なケースも数多い。
田原氏の情報をもって、小泉進次郎氏が総裁選に打って出るのではと観測するのは、いささか短絡的ではある。だが、田原氏の発言がニュースとして広がった影響はかなり大きいと見なければならないだろう。
これまで、自民党総裁選については「菅前首相vs麻生元首相」のキングメーカー対決という構図で語られてきた。つまり、菅氏と麻生氏が誰を推すのかを予想し、その強弱をはかるといったことだ。
だが、もし小泉進次郎氏が出馬するとなると、従来の派閥力学によらない動きが出てくるだろう。小泉氏の人気をあてこんで自分の選挙を有利に運ぼうとする議員心理が高まるからだ。
麻生氏にしても、過去のいきさつから石破氏は憎いが、進次郎氏なら乗れないことはないかもしれない。
石破氏は世論調査における人気ナンバーワンだが、党内での評判ははかばかしくないし、古い世代の政治家という印象はぬぐえない。いざ総選挙となった場合の見栄えのよさを考えると、全国の党員らによる「地方票」のみならず、国会議員票も小泉氏に集まりやすい。
石破氏は戸惑っているだろう。総裁選への立候補が確実とされているのだが、おそらく進次郎氏の出馬は想定していないはずだ。石破氏は「地方票」こそ世論に近いためかなり集めそうだが、国会議員票となると、過去の総裁選実績からみても覚束ない。
そこで、頼りにしていると思われるのが、菅義偉前首相の支援だ。出馬するだけでも20人の推薦人が必要なのだ。
菅義偉氏も「そろそろ進次郎はどうか」お盆明けに動くか
菅氏はかねてから、河野太郎氏が出馬した前回の総裁選で名づけられた「小石河連合」の面々、すなわち小泉進次郎、石破茂、河野太郎の3氏に期待感を表明してきた。
石破氏は現代ビジネス(8月5日)のインタビューに対し、菅氏との関係をこう語っている。
「菅さんはずっと安倍さんを支えておられたわけで、安倍さんが’12年に自民党総裁になってしばらく野党だった時は、石破幹事長、菅幹事長代行という組み合わせで仕事をしました。安倍政権になってからも、私が幹事長で菅さんが官房長官という組み合わせで1年9ヵ月ともに仕事をしました。そういう一種の同志的な思いもあり、(私自身とは)政策も政治手法も違うけど、リスペクトしています」
では、菅氏はどれほど石破氏に対する思い入れがあるだろうか。
石破氏は2016年8月に自らの意思で閣外に出て以降、安倍政権に批判的な発言を繰り返し、2018年には総裁選で安倍氏と一騎打ちを演じている。必ずしも菅氏と良好な関係を維持してきたとは見えなかった。前回の総裁選で、菅氏が目をかけている河野氏を石破氏が支援したという行きがかり上の蜜月関係にすぎないのではないだろうか。
ポスト岸田の候補として菅氏の意中にあるのは、麻生派の紐がついた河野氏でも、批判はすれど実行のともなわない石破氏でもなく、能力未知数ながら若さはある小泉進次郎氏に間違いない。
今年3月1日夜、菅氏は進次郎氏とともに、かつて菅政権を支えた武田良太氏、萩生田光一氏、加藤勝信氏と会食し、「そろそろ進次郎という選択肢はどうか」と語ったといわれる。
老人天国の日本政界では進次郎氏の若さは弱みと見られていた。その永田町的常識を踏まえた父、純一郎氏の意向もあった。菅氏は慎重に情勢を見極めていただろう。
だが、党の長老的存在である森喜朗氏が進次郎氏を推し、純一郎氏も反対しないということなら話は別だ。お盆明けにも何らかの動きを始めるかもしれない。
好機をうかがう進次郎氏に、文字通りの好機到来か
もちろん、肝心なのは小泉進次郎氏の考えだ。
イケメンで元首相の息子。総理をめざすために生まれてきたようなサラブレッド。それだけに、急ぐ必要はない。じっくり好機が来るのを待っていればいいようなものだが、それはそれで不安がないわけではない。
だいいち、自民党がいつまでも政権党であり続けることができるのかという疑問が湧いてくる。
石丸旋風が示したように、選挙のやり方、資金の集め方もデジタル社会に合わせて変りつつある。時代に乗り遅れると、従来の自民党型政治は崩壊するだろう。
それなら、若い指導者を求める声が強まりつつある今のタイミングが、総理にチャレンジするにはベストという考え方もできる。
岸田首相はいまだに再選をめざして総裁選に出馬するかどうかを決めかねている。つまり、出馬意欲もまだあるということだ。
9月に新しい首相が誕生したら10月にも衆院解散があるのではと囁かれる中、支持率の低い岸田首相のままなら解散をしないだろうという見込みが岸田首相のウリになっているというから、おかしなものだ。
総裁選を巡っては、河野太郎氏も麻生氏に立候補の意思を伝えているし、茂木幹事長も、岸田首相が退陣するならという条件付きで出馬への意欲を示している。高市早苗氏や小林鷹之氏、青山繁晴氏の名前もあがっている。
いまだ総裁選出馬に意欲、岸田首相はどう動く?
目下、岸田首相は政局を左右する実力者らと会食して立候補者の情報を収集し、総裁選に出て勝てるかどうかを見定めようとしているところだろう。
ほとんどの派閥が表向き解散したことになっているが、結局のところ、派閥単位で戦略を練るほかない。自民党とはそういう政党だ。
お盆明け、9月へ向けて一斉に総裁選への動きがはじまるだろう。岸田首相は進退をどう決断するのか。小泉進次郎氏は出馬するのか。キングメーカーたちの動きは……。
党の腐敗、堕落から国民の目をそらすための疑似政権交代イベントを冷めた目でじっくり観察するとしよう。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
新 恭さんの最近の記事
- 萩生田光一が脅える衆院選「落選」後の人生。八王子民も創価学会も敵に回し無職必至の大ピンチ、大相撲パレードも裏目に
- 小沢一郎が「政敵」野田佳彦を立憲代表に推すワケ。小異を捨て自民を倒す「立憲・維新共闘」と政権交代の現実度は?
- 菅義偉が推す「石破茂新総理総裁」誕生で日本はどうなる?自民石破政権が「始まる前から国民を舐めている」ワケ
- なぜ新聞は「鹿児島県警の闇」を正面から報じないのか?盗撮・横領・ストーキング…犯罪隠蔽に加担する大マスコミの末期症状
- 世耕弘成の大誤算。なぜ和製ゲッベルスは自民を追い出されたのか?萩生田と「扱いの差」鮮明、党内政治敗北の深層
- 「石丸新党」が起こす野党再編の大波。石丸伸二氏が「維新に取り込まれる」心配はないと言える理由…橋下徹氏との会話にヒント
- 故・石井紘基氏を殺したのは“誰の自由”か?自民党政策活動費と特別会計の深い闇
image by: 自由民主党 - Home | Facebook