夏休み明けに激増してしまう、いじめを背景とした子供の自死事件。子供たちにそのような選択をさせないため、特にこの時期、親としてどのようなポイントに気を配るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、親が我が子のいじめに気づいたケースを具体的に紹介。さらにいじめが発覚した際の「動き方」も詳細にレクチャーしています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:夏休みのいじめ対策、生きていてください!
夏休みのいじめ対策、生きていてください!
学生は夏休み真っ最中の時期となる。
水の事故、SNSなどでの出会いの危険など、こどもが犯罪に巻き込まれた事件報道などがすでに多くある。一方、いじめ事件は毎日新たな件が次々と報じられるが、報道に上がる件は、ごく僅かである。認知数は60万を切らない件数があるから、単純に日割りすれば1日およそ1,643件発生していることになる。もしも、このすべてが報じられるなら、新聞は週刊漫画誌程度の分厚さになるだろう。
うちの子は大丈夫、うちの孫は大丈夫などうちの子シンドロームにある方は多い。講演会等に呼ばれていくと、「うちの学校は、幸いいじめはないんですけどね」と、だいたいこういう話をされるが、文科省データでもわかるように、小学生から中学生まででいじめの加害被害を経験したことがある児童生の割合は、およそ9割もあるのだ。
こうした調査研究はなぜか途絶えているようだから、2024年現在のものなどは特にはないが、学校環境他、大きく変わったことはないから、こうした発生率などの数値に大きなズレはないだろう。つまり、うちの子シンドロームは、単純に気が付いていないだけなのだ。そして、極めて危機的状況である。
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いじめは犯罪である
「いじめは犯罪である」これが今の世間での常識だ。では前述の、「小学生から中学生まででいじめの加害被害を経験したことがある児童生の割合は、およそ9割もあるのだ」の「いじめ」という単語を、「犯罪」に置き換えてみたらどうだろう。
「小学生から中学生までで犯罪の加害被害を経験したことがある児童生の割合は、およそ9割もあるのだ」
どうだろう。危機的状況であるとは思えないだろうか。しかし、法改正はされず、事実上類似する隠ぺい事件や教師までもがいじめをしたり、児童生徒を狙って性被害が起きるという事件報道が後を絶たない。数年間の放置は当たり前のように起き、その度、専門家は教育委員会の対応不足や法理解の不十分さなどを指摘している。
大臣などの発言も曖昧だし、現場にいる身としては、もはや唖然とする心すら失うほど、期待してはダメだろうという思いに支配されるほどだ。
関心のある人たちや報道にコメント入れる人たちは、法ではこうなっている、ガイドラインはこうだ、こういう通報システムがある、警察などに入ってもらえるよ。など仕組みをアドバイスしてくることが多いが、そうはならないから大変なのだ。
そして、そうした仕組み(法律を背景とした)が運用されなかったとしても、その法律などでは、罰則も責任を誰が負うかも無いのだから、いわゆる公助がいじめにおいて機能するケースは稀だと言えるのだ。
例えば、門真市で起きたいじめ自死に関するニュースでは、ご遺族がこう発言していた。
死亡した男子生徒の母親:(ネットの書き込みで)簡単に警察に届けたらええやんって、たまにちらっと見ると書いてるんですけど、でもやっぱり、動いていただけない。国自体が、いじめが犯罪だということを認識する、警察も、もっと真剣に動いていただけるようになっていただきたいなと強く思います。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月5日放送)
大阪においては、私も別件で被害児童と一緒に警察署に行ったことがある。怖い顔をした刑事に暴力被害を受けた女児が怒鳴られるという事態を経験したことがある。一方、別の地域では、別の所轄から対応に慣れた女性警察官をわざわざ呼んでくれて、懇切丁寧に対応してくれ、サイバー班も動いてネット上の彼是にも対応してくれたことがある。
つまり温度差がすごいのだ。対応する人でも差が出るのではないだろうか。本来そうであってはならないが、それを正してもらうには時間もかかるし、それらを待っている悠長な時間はない。
だから、私は、できる限り正攻法で手続きなどを進めつつ、メインは自助共助で進めざるを得ないのだから、やるべきことを粛々とやることを推奨している。
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夏休み中、相談の急増
夏休み中、親子の時間が普段と比較すると増えるからか、保護者からの大丈夫だろうかという相談は急増する、それと同時にこども本人からの電話相談なども多くなる。
今回は、親側がどういうところでいじめに気が付くのかというところを紹介したい。
最も多いのは、こどもの表情の変化や会話の間、会話の内容だ。
「いつもは友達の名前を言うのに突然言わなくなりました、普段の表情も暗く、ぼーっとしているように見えます」(保護者相談)
「そんなに明るい方のこどもではありませんが、作り笑いというか、無理に明るくしようとしているように思えてなりません」(保護者相談)
いじめの被害を受けると、その悔しさや辛さ、次の被害への恐怖など様々な心の葛藤が生じるため、普段は考え事をしやすいことになり表情が暗く見えたり、会話などの集中できなくなって間が悪くなるなどの現象が起きやすい。
次に多いのがスマートフォン。
こどもたちにスマホや携帯を持たせている家庭が今では大多数だろう、もっていない方が少数派だ。ただし少数派でも安心してはならない。ネットにつながるゲーム機端末や学校のタブレットなどインターネットにつながる端末であればネット上のコミュニケーションは可能になる。
「いつもスマホばかり見ていた子が、今ではスマホを隠すようになって、様子が変です」(保護者相談)
「これまで、スマホを気にする様子はなかった(ルールがあった、食事のときは見ないなど)のに、注意してもスマホに敏感に反応するようになった」(保護者相談)
「ママ友から、LINEグループでうちの子がいじめられていると連絡があった」(保護者相談)
すでにコミュニケーションインフラであるSNSや便利なアプリがいじめの温床になることは多いし、ほぼ全てのいじめで利用されていっても過言ではない。業者も社会問題で株価が下がるほど問題になれば対応もするだろうが、対応するのが当然と考えてはいけない。なぜなら、本気で対応していたら、すでにこのような事態にはなっていないから。
他にも家で遊ぶことなどがあると、物が無くなったり、お金が無くなるということもあるし、恐喝されていて預貯金やお小遣いを切り崩していたこどももいる。
よく観察し、普段との差から変化を読み取るのが基本だ。
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親の心構え
保護者、児童生徒の心構えとして、「いじめは起きる」ということが大前提だ。
起きないというのは奇跡に近いし、起きづらい学校、地域というのは、何らか特別な対策がされているものだ。自然豊かだ、大人との距離感が近いなどはそれらの要因とはならず、単なる大人の自己満足、効果のないおまじないの類いとも言える。
また、いじめ防止対策推進法や文科省が持つガイドラインなど様々な取り決めがあっても、それを実行するのは各自治体であり私学なら学校法人などになる。つまり、その差は明らかにあって、隠ぺいが多発している地域もあれば、訴えても問題提起してももみ消されることが常で、泣き寝入りだらけのところもある。つまり、その学校単位、地域単位での対策に委ねられてしまうということだ。
実際、私が証拠を集め、加害者側の一部が加害行為を認めているのに、学校と教育委員会がいじめを認めないというケースもある。
例えば神戸市は18年間隠ぺい事件と呼ばれるいじめ事件があるが、加害者もいじめを認め、裁判所もいじめを認定している状態の中、神戸市教委のみいじめを認めないという異常なところもあるわけだし、高知県南国市のように、第三者委員会を設置すると大々的にプレスリリースしてやってますアピールをしつつも、およそ5年間、第三者委員会を放置するところもある。
また、加害者の保護者と話せば、きっとわかってくれていじめをしないように指導してくれると思うのは、気持ちはわかるが現実そうはならないことが圧倒的に多い。
加害者側が「債務不存在の訴え」で被害者を訴えてきたり、私や報道機関に訴えるぞと脅してくる悪質なケースもある。被害者の親を挑発して殴らせようと計画をしているような加害親とその友人らの録音などが私の手元にはある。
まずは、こうした現実を知ることが大切だ。
被害を知ったら、受けたら
まずは正攻法通りの担任への相談や学校への連絡は必ずするべきだ。それで解決できなくても、きちんと相談しましたという記録は残る。ただし、誤って削除してしまいましたなど後で都合が悪くなると、証拠が消されてしまうことがあるから、電話相談も直接相談も何もかも会話は絶対録音する。録音は相手に断らなくても別段問題はない。当事者録音といって、会話の当事者が録音する分には盗聴にはならない。
また各学校には「いじめ防止基本方針」が設置されている。いわゆるいじめが起きた場合のマニュアルのようなものだ。公開のものだから、学校のホームページ確認することができることが多い。ホームページに無くても学校に言えば、公開のものだから写しはもらえるはずだ。これ自体どうせ守らないから意味がないという経験者も多いが、結果よりもどういうルールを学校自ら定めたのか知る上では有用だ。
SNSの場合はデータのバックアップと同時にスクリーンショットをするなど証拠化しやすいし、加害者に脅迫されているなら録音がまた有効打になる。殴られたり蹴られたら、すぐ病院に行って診断書をもらったり、警察に駆け込んでもいい。
とにかく記録と証拠を残すのだ。
また公立校の場合は、開示請求が使えるから、個人情報の開示や行政情報の開示を情報開示請求で行うと、学校が教育委員会に報告した内容や詳細調査という調査書などが入手できることが多い。
このようにできる限りのことをまずは行うことをお勧めする。
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加害者が学校を去るべき
Xなどを見ていると、「加害者が学校を去るべき」という意見がたくさんある。諸外国の中では、いじめ加害者が未成年であっても裁かれたり、退学となるという決まりがあるというのも事実だ。
そして、私も学校に残るべきは被害側であって、加害側が何のお咎めもなく学校で普段通り学生生活を謳歌するというのは、結果的にいじめ軽視になると思うし、理不尽であると考える。しかし、罰則も処罰規定もなく、いじめ加害を原因とした加害者の出席停止がほぼ0件という今の現状と隠蔽が横行する環境、法律を鑑み、被害側が隠ぺいをする学校を見限り、転校を選択することは、1つの選択肢としてあっても良いと考えている。それを決めるのは、被害家族であって、誰かに批判されることではないだろうし、転校も十分、重大事態いじめの要件になるから、安全を確保した上で問題提起してもよいと思うのだ。
選択肢はいくつもある
選択肢が限られた地域や環境で暮らさざるを得ない家庭もあろうが、それでも選択肢が1つしかないということはないだろう。いじめられたらどう行動すればいいのか?
きっと誰もが被害側となってはじめて直面することになる。そうしたときに、役に立つのが対応実績の多いプロの存在だ。
はじめて直面した人より、たくさんの事案に関わっているプロの方が圧倒的に選択肢を持っているし、事例を知っている。そして、シチュエーションごとの選択肢の正解を知っているわけだ。
道は一つではないことがわかると、それだけで心理的な不安もかなり軽減するだろう。
国も少しづつ気が付いてきている
8月7日、こども家庭庁の加藤こども政策担当相が記者会見をして、不登校やいじめの重大事態が深刻な状況であることや、採用しているいじめ調査アドバイザーからは、「不登校になっている事案でいじめの重大事態の件数が増えている」といった背景や、「いじめの重大事態が起きた時に学校の中だけで解決しようとする傾向がある」といった実態の報告を受け、いじめを受けたり不登校になった子どもに対して、学校の支援だけでなく地域の支援が受けられる仕組みを8月末の概算要求に向けて検討するよう指示したと各社報道された。
この報道をみて、「ん?」と思ったのは事実だ。さらっと、不登校といじめの関係がかなりあるという内容だが、文科省の統計では、いじめ原因は、不登校の僅か数%にみたず、いじめとはほぼ無関係だと御用有識者や似非活動家はこれまで吠えて、現場にいる我々を非難してきたし、各社報道もそれに同調して、我々を無視してきた。
それが手のひらを返して、やっぱ多いですとなって、学校以外の支援をと始まったわけだから、何をいまさらと思う被害者も多い事だろうが、やっと現実を直視したということはあろう。それがまずはの一歩なのだ。
まあ予算を作るみたいだから、どぶ捨て予算にならないことを祈るところだ。
公助のオプションが増えれば、自助共助のみの自己責任で疲弊する被害者もずいぶん楽になるだろう。しかし、ニュースでは未だに自助で頑張るしかないという現実がある。だからこそ、今いじめられている君、それに気が付いている君には、恥ずかしくないから相談してもらいたいのだ。そして、保護者にあたる方々、こどもたちの夏休みで久々に会う親戚の方、おじいちゃんおばあちゃんなど関係する方々には、いじめ発覚は早い方が、回復が早いことから早く気が付いてあげて欲しいと思う。
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編集後記
記事を編集している間、南海トラフの地震がニュースになっています。できることは、備えをして、家族などで連絡方法を決めるなどの対策ですが、心がざわつきます。
こういう何か落ち着かないときに、例えば、いじめのような向き合うべき事件が身の周りに起きたら、やはり普段よりも冷静に考えることが難しくなったりするものです。
いっぱいいっぱいのときほど、間違った選択肢を取りやすいというのも人間だからあるのだと思うのです。地震など自然災害は人如きではどうすることもできません。
私がすごい悪魔の実を食べて特殊な能力が身についていて地震を止められるならまだしも…そんな能力はないわけで、やれることを粛々とするしかない。
そんなことを考えていると、こういうとき、こどもがいじめを悲観して命を絶ってしまうことも起きやすくなるかもしれないとゾッとしました。特に、夏休み明けは、統計上も子どもの自死が激増します。
本当はゼロになってもらいたい、それが無理なら、1人でも多く、生きていてもらいたい。止めるのは自分でもいいし、誰でもいい。とにかく、生きていてくださいと思っています。
漫画『いじめ探偵』3巻は、かなり多くのシーンで町田市タブレットいじめ自死事件で起きていたことをそのまま描いてもらいました。その上で、私は特にご遺族に、彼女が生きていたら、その姿を見てもらいたかった。生き残り、成長し、何かの言葉を発してくれるとしたら、漫画の中なら、その姿は永遠に残ります。ですので、生きていたらのifストーリーにして、もしも先生がまともだったら、周りの支援者がもっといたら、まともに報じようとする記者がもっといたら、のifも入っています。
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そして、先生方には隠蔽したり保身をする自分の姿が、画中のように醜く写っていることを知ってもらいたい。
話しを戻します。今いじめられている君へ、生きてください。私は東京都中央区の八丁堀事務所に居ます。私の意思を引き継ぐような正義の探偵がこの事務所にはいます。事務員さんだって、君の味方です。メールでも、電話でも、直接事務所に来るのでもいい、助けが必要な時は我々がいます。だから生きてください。
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