旧統一教会の元広報部長を長年務め、最近まで信者だった大江益夫氏の『懺悔録』が8月20日に出版される。著者は朝日新聞元記者で、あの「赤報隊事件」取材チームの責任者だった樋田毅氏。教団側が出版差し止めに躍起になっているのは、真実を暴くこの本が旧統一教会の解散命令請求の行方を左右するからだ。メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』よりジャーナリストの有田芳生氏が、今回の出版をめぐる“暗闘”について詳しく解説する。
※本記事のタイトル・見出し等はMAG2NEWS編集部によるものです/原題:樋田毅『旧統一教会 大江益夫・元広報部長 懺悔録』をめぐる暗闘
日本政府の情報機関から「原稿流失」の怪
私にそのメールが送られてきたのは8月4日だった。
添付されたファイルには「樋田毅さん著書 旧統一教会・白焼き見開き(変更箇所)」とある。8月20日に光文社新書で発売される『旧統一教会 大江益夫・元広報部長 懺悔録』のゲラ刷り(本になる前に著者が加筆や削除を行うための刷りもの)だ。
筆者が訂正をした部分が黄色い文字で示されている。書籍は「初稿」「再校」という作業を経て「校了」となり、印刷所に回され、製本して取り次ぎから書店に配本される。
関係者には衝撃的なこの新書は、8月20日発売だ。一般的には8月10日前に見本刷りができる工程だ。その途中の段階でわずか数人しか関与できない原稿が流失したのだ。ファイルにある「白焼き」は出版業界の専門用語だ。
関係者が「わずか数人」しか関われない根拠がある。私のところに送ってきたのは永田町(国会)関係者だ。その出所をたどっていくと政府の情報機関だとわかった。
出版社は流出を否定している。ならば情報機関はどこから発売前の原稿を入手し、他者に流布したのだろうか。
統一教会信者のみなさんへ。教団執行部や国際勝共連合が躍起になって大江益夫元広報部長の「懺悔録」を否定しています。まずは20日に発売される新書を読んでください。大江さんは文鮮明教祖をいまも「先生」と呼び、日本の教団が韓国から自立することを主張。17歳で入信、いま75歳の思いは貴重です。 pic.twitter.com/ytcDV84OpM
— 有田芳生 (@aritayoshifu) August 13, 2024
この書籍が出るとわかってから、統一教会の動きは激しかった。
私に統一教会関係者から樋田、大江両氏の名前とともに「対談集」が出るのではないかと連絡があったのは5月15日だった。その時期にすでに大江氏は信頼できる信者に自分の気持ちを伝えていたようだ。
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勅使河本部長や勝共連合元会長まで。出版差し止めに動く面々
統一教会信者には「ホーレンソウ」という行動指針がかねてから教えられている。いまでは企業の社員教育でもよく知られている「報告」「連絡」「相談」だ。
大江益夫氏が、朝日新聞元記者で「赤報隊事件」取材チームの責任者だった樋田毅氏と「対談」して本を出すことは、教団指導部にたちまち知れわたった。
京都の山奥に住む大江氏の自宅には10人を超える信者たちが入れ替わりで説得にやってきた。
なかには教団の「顔」でもある勅使河原秀行・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)教会改革推進本部本部長もいた。「原理研究会」初代会長で国際勝共連合元会長もいきなり現れた。
かつての同僚は「第2の副島事件になるぞ」(注:1983年に『文藝春秋』で教団を批判した副島嘉和・『世界日報』編集局長が、雑誌発売前に襲われ、一時重体となった)と心配か脅しかわからないような電話をかけてきた。ちなみにこのときも事前に原稿が流出している。
大江氏は信者だったので、信頼できる仲間に原稿を送ったようだ。教団関係にはただちに広がった。そのことをある元幹部は「上から降りてきた」と表現した。内容が点検され、京都の自宅を訪れた信者たちは問題点を指摘した。
一方で教団本部は7月末に版元の光文社に本の内容が「事実でない」から「出版差し止め」するよう通知書を送っている。だが光文社は予定通り8月20日に発売する。
大江氏は6月29日に「教団を批判した責任を取るため」退会届けを提出した。ところが教団はこの退会届を認めなかった。教団が知ることなく批判を書いたことを理由にせよと大江氏に求めた。こうして退会届けは7月13日に受理される。
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旧統一教会「幻のクーデター計画」
ところがこれで事態は沈静化しなかった。大江氏の退会届が各所に送られたのだ。統一教会と対峙する霊感商法被害弁連の弁護士も入手している。
退会届には大江氏の住所も書かれていた。プライバシーも何もあったものではない。いかにも統一教会の人権感覚を象徴する出来事である。
懺悔録は予定通りに出版されるが、教団側は直ちに出版差し止めの仮処分を申請する可能性が高い。ただし教団が主張する「内容は事実に反する」とは認められないだろう。60年に近い信者としての経験を振り返った内容だからだ。
霊感商法や高額献金への懺悔、自民党政治家への接近、『朝日新聞』阪神支局を襲った赤報隊事件の背景などは、紛れもない事実だからだ。
光文社のHPで新書が告知されたとき、そこには記されていなかった章がある。それは第6章「幻のクーデター計画」だ。
ソ連脅威論が高まっていた時代に自衛隊員を中心としつつ、統一教会信者たちが民間防衛部隊として決起する計画があったというのだ。にわかには信じられないが、大江氏は「答えはイエスです」と答えながら「それほど具体化したものではありませんでした」と語っている。
捜査当局が「赤報隊事件」で統一教会信者をリストアップしていたことは私の『誰も書かなかった統一教会』に書いたが、大江氏の本書第10章「赤報隊事件」とも内容は連動している。
その概要は8月6日に公開された 『smart FLASH』を読んでいただきたい。大江益夫元広報部長の懺悔録は、これからも週刊誌や新聞での報道が続くだろう。
この新書の内容は、統一教会への解散命令請求の行方にも影響を与える。統一教会が深刻に受けとめている理由である。
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※ 本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年8月9日号の一部抜粋です。続きをお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録の上お楽しみください。このほか、1ヶ月単位でバックナンバーもご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
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image by: Sun Myung Moon, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で