韓国でおこなわれ、多くの日本人も参加した「合同結婚式」も話題のカルト教団・統一協会(旧統一教会、世界平和統一家庭連合)。安倍晋三元首相の殺害事件を機に明らかになった、日本の政治へ深く関与している実態と大きな影響力は、私たちの想像をはるかに超えるものでした。去る3月に刊行された『統一協会の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』(扶桑社新書)の出版を記念し、戦う漫画家・小林よしのり氏と有田芳生氏、そして作家の泉美木蘭(いずみ・もくれん)さんをゲストに迎えたスペシャルライブ「オドレら正気か?『統一協会の闇special』」の模様を、テキストで特別公開いたします。
※本稿での世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の表記は、各氏の意向に基づき、小林氏・泉美氏の発言部分は「統一協会」、有田氏の発言部分は「統一教会」としています
有田芳生×小林よしのり 特別対談アーカイヴ
● 有田芳生×小林よしのり Vol.1
● 有田芳生×小林よしのり Vol.2
● 有田芳生×小林よしのり Vol.3
有田芳生×小林よしのり特別対談 (1) なぜ世間に伝わらない? 統一協会への怒りと憤り
司会:それでは「オドレら正気か?『統一協会の闇special』」、本日のゲストの方々をご紹介いたします。「統一協会カルト」の闇を追い続けてきたジャーナリスト、有田芳生さん。続いて、鋭い感性で本質を突きまくる作家の泉美木蘭さん。そして、統一協会に親族を奪われ、オウム真理教から暗殺計画のターゲットにされた戦う漫画家・小林よしのり先生です。それでは小林先生、お願いします。
小林よしのり(以下、小林):わしから? 皆さん、こんにちは。今日は統一協会の問題の闇を、とことん知っておられる有田さんに話をしてもらいます。統一協会の話は、30年前の合同結婚式の時からガンガン盛り上がっていた。わしは自分のおばさんを救出するためにいろんな努力もしたけど、全部失敗した。わしにとって統一協会の話は、単に救出活動をしながら失敗したってだけの話じゃないんです。
自分の親父は、おばさんを福岡まで連れていって、自宅で洗脳を解こうとした。そのために原理講論を一生懸命読み込んで、赤線引っ張って読んで、それで彼女の洗脳を解こうと頑張った。だけど、結局のところ失敗したんです。
わしはその時に自分の親父に対して、あまりよくないことを言ってしまった。そこまでやったところで逃げられたら、おしまいなんだからと。そんななじったような感じになったんですね。ちょっとイラついて。それで親父をものすごく傷つけてしまった。わしはそのこと自体を「あー申し訳ないことしたな」と、ものすごく思っていて、今でもトラウマみたいになっている。
定年退職した後で、親父の最後の自分の存在意義を発揮するための戦いだったはずなんだけど、結局それで失敗しちゃったんだから、わしがあんまり心無いことを言ってしまったために、自分の親父を傷つけてしまった。結局、そのあとはもうどんどん死に向かっていっちゃった感じだったからね。わしの中で嫌な思い出なんですよ。統一協会って。トラウマになってる嫌な思い出なんですよ。なるべく忘れたい感覚だったんですよ。
けれども公安は全然見張っていなくて、野放しにしていた。それどころか政治の中に入り込んで、あろうことか憲法改正の案まで統一協会が出してきていて、それに自民党がだいぶ影響されていたことがもうわかってきた。一体何だったんだ、この30年間は。何をやってたんだと思っちゃったんですね。
それで有田さんと、また久しぶりに会うことになって共同できる形になったのは、まあいいことかもしれないけれども、事態があまりにも進まなすぎる。このままでは、昔の騒動のようにパっと盛り上がって、パっとみんなが冷めていく。でも、統一協会の連中は、ずっと政治に影響を与えようと食らいついて、今でもそういう状態なわけですよ。そうすると、本当に政治の世界から、こいつらを駆逐できるのかどうかものすごく不安。あと30年も経てば、もうわしら死んどるで。もう過去のことを、こうだったという教訓を語ることもできないよ。
それでも若いやつは次から次に生まれてくるよ。カルトは、その若いやつをどんどん取り込んでいけばいいわけだから、もうどうしようもない。新たな信者をどんどん餌食にできるわけだからね。それを政治が許してるわけなんだから、もうこんなこといつまで続けるつもりなんだと、わしはものすごい憤りを感じるんですよ。わしの憤りのものすごいもどかしさと、歯痒さと、腹立たしさは、まだまだ一般国民にもマスコミにも共有されているとは思えない。本当にその辺に腹が立ってるので、今日はちょっと過激にいろんなことを言っちゃうかもしれません。
有田さんはどちらかというと、ちょっと穏やかな人ですから、有田さんの気に食わないことも言うかもしれないけど。それでも言いたいことはガンガン言っとかないと。もう何べんも繰り返されること自体がうんざり。太田光とか、信教の自由を振りかざして、何を信じたっていいじゃないかみたいな感覚になっている。ああいうことで人々に影響を与えてしまったら、たまったもんじゃない。本当に今日は鬱憤が、めちゃくちゃ溜まっていて、それを有田さんにぶつけてみようかと思っています。まだ有田さんの方が常識ありそうな気がするじゃない。
統一協会を知らない若者たち
泉美木蘭(以下、泉美):扶桑社から出版されている『統一協会問題の闇』という本は、もう読んでる人もいるでしょうけど、この帯のところに小林先生が書いた似顔絵のイラストが載っていまして。さっき小林先生がおっしゃってて初めて気がついたんですけれども、小林先生の顔は影の入った悪人っぽく描かれているんですけど、有田先生の方は、すごく日が当たっていて、先生曰く「善人っぽく描いた」っておっしゃってまして。対比されていますよね。
『統一協会問題の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』
(小林よしのり・有田芳生 共著、扶桑社新書)
小林:有田さんは美しく、光の当たる白っぽいピンクっぽい肌で、どこから見ても善人みたいな感じに描いてある。わしはサタン。統一協会が一番嫌がっているサタンだっていう感覚で、これを描いてるわけですよ。この本はテレビとかで全然言ってない一番踏み込んだところまで書いた本なんだよ。これAmazonからでもどこでもいいよ。もうすぐさま買わなければいけない。しっかりキープしておかなければいけない本です。
泉美:私も読んでいて、めちゃくちゃ驚いたことが次々と語られていたんですけども、いきなり序盤で驚いたのが、有田さんが統一協会のことで発言をし始めたら、テレビに出られなくなってしまったって話。結構、その時点でもう驚いたんですけど、今もその状態が続いているんですか?
有田芳生(以下、有田):橋爪大三郎さんという東京工業大学の先生だった方と1995年のオウム事件のときに「サンデープロジェクト」でご一緒したことがあるんです。そのとき以来、ついこないだ橋爪さんが集英社新書で『日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す』という本を出して対談したんですよ。橋爪先生には「オウムのとき以来ですね」とZoomで話してたら、有田さんとお話しするときは、オウムの事件とか、今回の統一教会の事件とかばかりで、それがいいのか悪いのかっていうことをおっしゃっていました。
小林さんとお会いしたのは、忘れもしない1992年のことです。山崎浩子さん、桜田淳子さんたちの合同結婚式の問題が起きて、テレビのワイドショーで僕が発言をしていて、あのときは今とは全然違って、テレビ局や週刊文春に「うちの家族を何とか助けてほしい」という手紙が、何百通も来たんですよ。お父さんお母さん兄弟からすれば、霊感商法なんかをやる統一教会を辞めてほしいという思いは当たり前です。
それでいろんな相談事が来たときに、僕が関わってた新宿の西教会で打ち合わせをしてた狭いエリアを開けると、左の方から何か見た人が来たなと思ったら、小林さんだった。小林さんのおばさんが統一教会に絡め取られてしまって、それをなんとか脱出させたいということで相談に来られた。
その後は、93年に文藝春秋の『マルコポーロ』っていう雑誌で、僕が小林さんに取材をさせていただいてインタビューの原稿を出して、それ以来、会っていない。空港で1回お会いしただけなんですよ。だからこうやって対談もして、今ここにいる。これも統一教会問題があるから。幸か不幸かって、不幸な縁ですよね。
小林:そうですね。