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岸田政権から“何らかの圧力”があった?NHKが「広島平和記念式典」で“あの国”の駐日大使の顔を映し続けていたウラ事情

イスラエル駐日大使の式典への招待をめぐり「一悶着」あった、長崎の平和祈念式典。米英を含む主要6カ国の大使が欠席しましたが、その裏にはどのような事情があったのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、長崎市の「イスラエル不招待、パレスチナ招待」にアメリカの駐日大使が激怒した理由を解説。さらに到底本気で核軍縮を目指しているとは思えない岸田首相の姿勢を厳しく非難しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:岸田首相のなんちゃって核軍縮

米国の脅しに屈せぬ長崎市長と「なんちゃって核軍縮」でごまかす岸田首相

「八月や六日九日十五日」という俳句があります。8月の3つの日付を並べただけの句ですが、日本人であれば誰でもすぐにその意味が分かると思いますし、これらが決して忘れてはならない重要な日であることも知っているでしょう。

ちなみにこの句は「むいかここのか・じゅうごにち」というフレーズがちょうど五七五の七五になっているため、俳人であれば誰もが思いつくパターンであり、実際、複数の作者がいます。まだ、この句が世に知れ渡っていなかった頃に、前例があると知らずに複数の俳人が偶然、同じ句を詠んでしまったのです。

このような場合、通常であれば最初に発表した人の作品となりますが、この句に関しては「誰の作品か」ということよりも、複数の俳人が同じ思いでこの句を詠んだ、という事実を大切に考え、一般的には「詠み人しらず」の作品として人口に膾炙(かいしゃ)しています。

さて、今年も8月6日と9日が過ぎ、明日15日に「終戦記念日」を迎えるわけですが、今年は9日の「長崎平和祈念式典」に長崎市の鈴木史朗市長がイスラエルを招待しなかったことで、スッタモンダがありました。しかも、3日前の6日に行なわれた「広島平和記念式典」にはイスラエルが招待され、ギラッド・コーヘン駐日大使が出席したのです。

広島市の松井一実市長が「ロシアによるウクライナ侵攻の長期化やイスラエル・パレスチナ情勢の悪化により、罪もない多くの人々の命や日常生活が奪われています」と述べている間、NHKのカメラがずっとギラッド・コーヘン駐日大使の顔を映していたので、覚えている人も多いと思います。

同じような式典なのに、イスラエルを招待するかどうかで市長の判断が分かれたのは、広島が「平和記念式典」なのに対して長崎は「平和祈念式典」だったから?…などという揚げ足取り的な見方をした人もいましたが、そもそもの話、広島の式典の正式名称は「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」なのです。

明日8月15日も、正式名称は「戦没者を追悼し平和を祈念する日」ですが、一般的には「記念」という表記を用いて「終戦記念日」と呼んでいます。広島が「平和記念式典」という略称を用いているのも同じことで、実際の内容は「祈念」なのです。

しかし今回は、並列する2つの式典で、広島市がイスラエルを招待した一方で、長崎市が招待しなかったことで、長崎市の鈴木史朗市長に批判が集中しました。鈴木史朗市長は「不測の事態が起きるリスクがあるとの判断でイスラエルを招待しないと決めた」と説明しましたが、イスラエルのコーヘン駐日大使は「私が長崎へ行っても公共秩序に何の支障もない。長崎市長は自分の政治的動機のために、でっち上げの理由で式典を乗っ取ろうとしている」とナナメ上から批判しました。

ま、イスラエルだけが文句を言うのなら理解できますが、あたしが驚いたのは、アメリカのエマニュエル駐日大使の激怒ぶりでした。エマニュエル駐日大使は「式典が政治化された!」と激怒し、自身の出席を見合わせると発表したのです。それどころか、すでに7月19日の時点で、アメリカの主導によって、日本を除くG7の6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使らは、イスラエルを招待国から除外した場合、ハイレベル(高官)の式典への参加を見合わせる可能性があるという書簡を長崎市長に送っていたのです。

しかし、そんな脅しには屈せずに、鈴木史朗市長は7月31日、イスラエルは招待しないと発表しました。その結果、アメリカを筆頭に複数の国々が駐日大使の出席を見合わせ、代わりに、アメリカは在福岡首席領事のチュカ・アシーケ氏、イギリスは政治部公使参事官のヘレン・スミス氏など、複数の国々がランクを下げた出席者に変更したのです。

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アメリカの駐日大使が何よりも問題視したこと

ここまで反発されても、自分の判断を変えなかった鈴木史朗市長は、最後まで「決して政治的な理由でイスラエルを招待しないわけではなく、平穏かつ厳粛な雰囲気の下で式典を円滑に実施したいという理由だ。苦渋の決断であったが、そういう考えで決定した。判断に変更はない」というタテマエを述べていました。実はこれ、2年前に岸田文雄首相がロシアとベラルーシを招待国から除外した時の理由の丸パクリなんですけどね(笑)。

しかし今回、アメリカのエマニュエル駐日大使が何よりも問題視したのは、鈴木市長がイスラエルを招待しなかった一方で、パレスチナを招待した点でした。「反イスラエル、親パレスチナ」では、完全にアメリカの敵国になってしまうからです。ちなみに、駐日パレスチナ常駐総代表部は広島の式典に招待されなかったことについて「ダブルスタンダードだ」と広島市を批判しましたが、広島市は「日本に大使館のある国にのみ招待状を送っている」と回答しています。

でも、そうであれば、日本に大使館のあるロシアやベラルーシに広島市が招待状を送らなかったのは、何故なのでしょうか?ちなみに、長崎市も送っていません。これは、岸田首相による「ロシアとベラルーシは平和式典には招待しない」という2年前の判断によるものです。

2022年2月、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことで、アメリカを始め西側諸国は一体となり、ロシアへの批判とウクライナへの支援を開始しました。そして、日本も右へ倣えでアメリカに従いました。2023年6月、バイデン大統領は演説の中で「日本がウクライナへ多くの支援金を搬出しているのは、私が日本のリーダーに強く働きかけたからだ」と自分の手柄をアピールしました。

そして、バイデン大統領による岸田首相への働きかけの中に、これも含まれていたのか、岸田首相は2022年、広島と長崎の平和式典にロシアとベラルーシを招待しないようにと、外務省を通じて両市の市長に指示をしたのです。岸田首相のように「検討」ばかりで決断力が皆無の人物が、果たして自分の判断だけでロシアとベラルーシを除外するようなマネができるでしょうか?すでに外務省が両市に指示をしたことは既報ですが、あたしはその前にバイデン大統領から岸田首相への指示があったと推測しています。

日本が広島と長崎の平和式典にロシアとベラルーシを招待せず、その一方でイスラエルを招待すれば、ロシアにダメージを与えるだけでなく、アメリカが支援しているイスラエルによるガザでの大虐殺を正当化することに繋がるからです。多くの国々から批判されているイスラエルの戦争犯罪に、広島と長崎の平和式典というオブラートを被せることで、イスラエルを支援し続けるアメリカへの批判を一定レベルで鎮静化することができるとでも考えたのでしょう。

広島の式典の中継で、NHKがイスラエルのコーヘン駐日大使の顔をずっと映していたのも、「平和の式典に出席しているイスラエル大使」という画(え)を流すようにと、政府からの要請があったのかもしれません。中立公正が基本のNHKが、その場の判断だけであのような特異な映像を流すとは思えません。あたしは岸田政権からNHKに何らかの圧力があったと見ています。

そして、広島市は「ロシアとベラルーシは招待せず、その一方でイスラエルは招待する」という岸田政権の望んだ通りの式典を行ない、「ロシアがウクライナに対してやっていることと、イスラエルがパレスチナに対してやっていることは、まったく違う」というアメリカの思い通りの演出に加担させられました。そして、広島市は複数の国々から「ダブルスタンダードだ」と批判されました。

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岸田首相は去年の原稿を使い回したような内容を棒読み

しかし、長崎市は違いました。ロシアとベラルーシを招待できない以上、ロシアと同じことをしているイスラエルも招待すべきでないと判断したのです。「ダブルスタンダードか否か」という観点だけで比較すれば、長崎市のほうが正しい判断です。しかし、これは長崎市の本意ではないのです。そして、広島市の本意でもありませんでした。

本当なら、広島市も長崎市も、ロシアにもベラルーシにもイスラエルにもパレスチナにも招待状を送り、戦争している当事国がすべて参加した状態で、真の平和を訴えたかったのです。広島や長崎の平和の式典は、戦争加害国を吊し上げる場でもなければ、核兵器を使用したアメリカを非難する場でもありません。核兵器の恐ろしさ、戦争の残虐さを再確認し、二度と広島や長崎のような不幸を繰り返さないために、各国が平和への意識を共有するための場なのです。

2年前の2022年、岸田首相が広島と長崎の平和式典からのロシアとベラルーシの排除を指示し、両市の市長が受け入れざるを得なかった時、ロシアのガルージン駐日大使は公式SNSで「とても恥ずべき措置である。平和式典の主催者は拒絶を選択した」と厳しく非難しました。そして、ガルージン駐日大使は、広島の式典の2日前の8月4日、広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に参拝、献花したのです。

ロシアと同じく式典への招待を見送られたベラルーシのイエシン駐日大使は、ひと足早く7月21日に広島市を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に参拝、献花しました。そして、イエシン駐日大使は「ベラルーシへの招待中止は極めて残念だ」と述べました。

岸田首相は、おそらく今年で最後になるであろう広島と長崎の式典で、ほとんど自分の言葉は使わずに、まるで去年の原稿をそのまま使い回したような内容を棒読みしました。相変わらず「核兵器のない世界の実現に向けて努力を着実に積み重ねて行くことは、唯一の戦争被爆国である我が国の使命です。核軍縮に向けた国際社会の機運を高めるべく、国際社会を主導してまいります」などと繰り返しましたが、広島市の松井一実市長からの「核兵器のない世界の実現に向けた現実的な取組として、まずは来年3月に開催される核兵器禁止条約の第3回締約国会議にオブザーバー参加し、一刻も早く締約国となっていただきたい」という呼びかけに対しては、完全スルーでした。

自分で「唯一の戦争被爆国である我が国」と言っておきながら、核兵器禁止条約を批准せずにオブザーバー参加すらしない岸田首相。すでにオーストラリア、スウェーデン、フィンランドを始めとしたアメリカの同盟国や、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ベルギーを始めとしたNATO加盟国の多くが、核の抑止力に頼りながらもオブザーバー参加しているのに、アメリカの顔色をうかがってオブザーバー参加から逃げ続けている岸田首相。ああ情けない。

こんな人物が、一体どのクチで「核軍縮に向けて国際社会を主導してまいります」などと言っているでしょうか?そもそも岸田首相は、あたしと同じく東京の渋谷区で生まれ育った生粋の東京っ子で、選挙の時に現金をバラ撒いて票集めする時しか広島へは行きません。もともと広島に対する思い入れなど1ミリも持ち合わせていないのです。

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唯一の戦争被爆国である日本にしかできないこと

それに、本気で核軍縮や核廃絶を目指すのであれば、ロシア抜きでは一歩も前に進まないことなど小学生でも分かります。それなのに、何から何までアメリカの言いなりになり、戦争の当事国同士が同じテーブルにつくことのできる数少ない広島と長崎の平和式典から、ロシアとベラルーシを排除してしまった岸田首相。

2014年、ロシアはウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合したことでG8から排除されましたが、岸田首相はこれと同じことを平和のためのテーブルでも強行したのです。もはやこの時点で、岸田首相が連呼する核軍縮は、広島での集票のための「なんちゃって核軍縮」だと透けて見えました。

その上、岸田首相は、今年の広島の式典で「ロシアによる核の威嚇等により核軍縮を巡る情勢は一層厳しさを増しています」などと、ロシアを名指しで批判しました。ここまでアメリカの飼犬に成り下がれるのか?…と思えるほどの腰抜けぶりです。確かにプーチン大統領はウクライナに対して戦略核の使用をチラつかせましたが、それを「威嚇」と言って批判するのであれば、どうして日本に対して核を実戦使用したことについて、謝罪もせずに「戦争の早期終結のため」などという詭弁で正当化し続けるアメリカを批判しないのでしょうか?

プーチン大統領が使用をチラつかせている戦略核は、広島型原爆の5~10倍の威力があり、仮に東京に撃ち込まれたら、首都圏は一瞬で壊滅します。これを「脅威」と捉えるのなら、日本はアメリカの飼犬となってロシアを排除するのではなく、広島と長崎の平和のテーブルにロシアやベラルーシも招待し、イスラエルやパレスチナとともに、核の脅威と恒久平和について意識を共有する方向へ進むべきだと思います。そして、これこそが唯一の戦争被爆国である日本にしかできないこと、日本のすべきことだと思います。

(『きっこのメルマガ』2024年8月14日号より一部抜粋・文中敬称略)

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