MAG2 NEWS MENU

自民総裁選後の日本に2つの選択肢。自国連立政権で玉木雄一郎「新総理」誕生か、枝野幸男内閣成立か?10月解散風もう止まず

“ポスト岸田”をめぐって候補が乱立している自民党総裁選挙。小泉氏、石破氏、河野氏、茂木氏、上川氏、高市氏、小林氏など多くの名前が挙がっているが、そもそも「10月以降も自民党総裁が総理大臣であり続ける可能性は30%」と冷静に分析するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。10~11月に行われる可能性が高い解散総選挙で自公が過半数を確保するのは難しいことから「自国連立政権、玉木雄一郎新総理」シナリオが浮上。いっぽう選挙結果次第では、「枝野(または野田)内閣」が成立する可能性もゼロではないと指摘する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:突如スタートした自民党総裁選、注目点は何か?

突如スタートした自民党総裁選、注目点は何か?

ある程度想定されていた範囲とはいえ、岸田氏の退陣表明は意外と早く少々驚きました。ですが、これをもって政治家としての決断力があるというのは過大評価です。AとBのうちから政策を選択するのには、世界観も事実把握も必要ですが、ここまでボロボロになった中で辞めるという判断は、そんなに厳粛なものとも思えないからです。

それはともかく、アメリカだけでなく、日本も政権選択の季節となってきました。これから様々な動きがあると思いますが、メディアの報じ方は極めて短期的で表層的な話題に限定されています。そこで、今回はやや箇条書き的な整理になりますが、注目すべき観点を列挙してみたいと思います。

いずれにしても、今回の自民党総裁選挙ですが、とりあえず11名が名乗りを上げています。ですが、現在の情勢からは10月以降も自民党総裁が総理大臣であり続ける可能性は30%ぐらいです。また、自民党と立憲が二大政党という構図も変化の可能性があります。

そんな中では、具体的な予想をするのは難しいだけでなく、ほとんど意味がありません。とにかく、注目点をしっかり定めて見てゆくことにしたいと思います。

解散総選挙のタイミング~任期満了の可能性はほぼない

解散総選挙のタイミングについてですが、現在の衆議院は任期がまだ1年あるわけです。ですから、解散がなければ現職の議員たちはあと1年はバッジを付けていられます。

ですが、この任期満了まで引っ張る、あるいは来年の2025年7月に参院選があるので、そこでの同時選まで引っ張るというのは、ほとんど可能性はないと思います。

理由は2つあります。1つは、仮に新しい総理総裁を選んでも10ヶ月とか11ヶ月「持つ」可能性は低いからです。数ヶ月でコミュ力のないことがバレて人気を落とし、5ヶ月ぐらいすると中長期の政策のないこともバレてしまいます。そんな中で、閣僚や総理自身の「身体検査漏れ」なども見つかるかもしれません。

とにかく、時間が経過するとボロが出るし、有権者も飽きて支持率は下がってくるわけです。とにかく、9月末に新総裁を選び、新政権と新内閣を作れば「刷新感」が出て、ある程度の支持率は稼げます。そこで解散総選挙をやれば、議席減は少なくて済む、多くの議員はそのように考えているのだと思います。1年早く衆院議員をクビになるリスクは、1年議員生活を継続できても1年後にクビになるリスクより低いという計算です。

もう1つは、この前提に基づいて既に各選挙区の選挙マシーンは動き出してしまっています。いわゆる解散風というもので、カネは使い始めると減っていきます。減ったカネは、裏金批判のご時世ではそんなに簡単に新しく集めて穴を埋めることはできません。ということは、今回の解散風は通常よりも止めにくいと考えることができます。

つまり、今回の9月末に選出される自民党総裁はほとんど「選挙管理内閣」と言っていい位置づけになります。勿論、自公で過半数を取れば選挙以降も続投できる、それは今回もそうです。その場合ですが、新総理の合格ラインは自公で過半数という一番低いハードルになると思いますが、今回の状況では恐らくそれも難しいでしょう。

政界再編の可能性~ダイナミックな動きは想定しにくいが不確定要素も

さて、現在の政局の中心にある問題は、何と言っても自民党の裏金問題です。このように「政治とカネ」で問題がここまで深刻になったのは、20世紀末にはまずロッキード事件(1976年)があり、その際には保守新党として新自由クラブが登場しました。更にリクルート事件(1988年)の際には、自民党から離党者がどんどん出て、最終的には細川政権の発足に至りました。

特にこの細川政権というのは、既成政党の公明民社と社会党に加えて、小沢グループ(旧田中派)、日本新党、さきがけ(武村正義など)といった保守系の「脱自民党」のグループが参加していって大きな勢力になったわけです。

ちなみに小沢グループというのは、小沢一郎、奥田敬和、渡部恒三、羽田孜といった元田中派、元竹下派の政治家で「竹下派7奉行」に数えられていた面々が先導していました。彼らがどうして離党に踏み切ったのかというと、彼らは金丸信に近く、そのために小渕、梶山、橋本の3人衆と仲が悪かったという理由もあったようです。

それはともかく、今回の自民党の窮地は「ロッキード」「リクルート」に匹敵する状況です。だったら、思い切って自民党を捨てて新党を立ち上げるような決断をする議員がいてもおかしくないわけです。それはギャンブルかもしれませんが、そのまま何もしないと選挙に落ちてしまいます。これを避けるためには離党して「自分は自民党ではない」という「看板の掛け替え」をするのは合理的です。

そうなのですが、今回はそのような動きは限定的です。理由は極めて具体的なものです。まず、衆院の多くは小選挙区です。その場合は自民党の現職は野党と対決して勝っています。前回負けた相手は同じ候補者であろうと、新人であろうと「今度こそスキャンダルまみれの自民党の議席を奪おう」と必死です。そんな中で、離党して無所属になっても、あるいは旧自民党系で新党を立ち上げても「悪しき元自民党の候補」というイメージは消せません。

昔は、特に細川政権発足までの選挙は中選挙区でしたから、同じ選挙区に自民系と離党組がいれば、離党組はスキャンダルのイメージのついた自民系から票を奪うことは可能でした。ですが、現在はそうした効果はないということになります。

また、今は政党を軸とした公営選挙ですが、その政党交付金は1月に出るようになっています。また、直近の国政選挙の結果でカネは計算されます。ですから、この夏に新政党を立ち上げても10月に総選挙があっても、交付金は出ません。あるいは来年の7月でも9月でも、その場合は25年の1月時点で政党はあっても、国政選挙での集票の成果はないのでやはり出ないわけです。ということは、急いで新党を立ち上げても既成政党には敵いません

ただ、仮に総裁選の動向で自分たちが不利となった場合には、裏金問題が軽微である旧茂木派と旧岸田派の場合は、少し違います。例えば議席を死守するために中道政党(国民民主など)に走って小選挙区で勝ち抜くという選択はあると思います。勿論、これは選挙区事情によります。

もう一つは、維新の問題で、万博でここまでケチをつけてしまった中では、東京維新が逃げる可能性というのはあると思います。どのような格好になるかは分かりませんが、維新が分裂してミニ再編になるということです。そうではあるのですが、20世紀の状況とは違って、政界再編で新政権というようなダイナミックな動きとなる可能性は低くなっています。

連立の可能性~総理大臣の椅子に一番近いのは玉木雄一郎か

そこで出てくるのが、連立政権です。まず、自民党の新総理が10月に解散したとして、自公で衆院(定数465)の過半数を割ったとします。まず「負け方が少ない」場合には、国民民主党(現在衆院7議席)、それでも足りない場合は前原G(現在衆院4議席)辺りとの連立になると思います。

そうなると、村山政権の組成と同様のディールとなって玉木首班という可能性が濃厚です。といいますか、次回総選挙後に総理大臣の椅子に一番近いのは、玉木雄一郎だという考え方はテクニカルに成立します。

ただし、前述した東京維新が逃げ出してくると、国民より議席数が多くなる可能性があるので、音喜多首班などという事態もあるかもしれませんが、音喜多だと自公サイドに抵抗があるかもしれません。いずれにしても、自公プラス保守系の連立ということでは、自公の負け方が少ない場合は色々なバリエーションがあると思います。

しかし、別のストーリーも考慮しなくてはなりません。それは、自民が大敗、維新も万博でケチをつけて伸びない、そんな中で立憲が枝野もしくは野田復帰(9月15日の代表選挙次第ですが)で意外と議席を伸ばすというケースです。

まず、共産党との連立はさすがに成立しません。立憲の左派と共産で過半数を取らない限りはないからです。ですが、立憲と国民民主だけでなく、公明が自公連立から離れることは十分にあり、そうなると枝野(または野田)内閣という可能性もゼロではありません。ただ、可能性としては少なそうです。

自民党の派閥はどうなる~総選挙後に復活も

今回の総裁選は派閥が「ないことになっている」中で、ある程度はガチンコの戦いになるのだと思います。ですが、組織に派閥はつきもので、例えば立憲に関しては、旧民主党の時代から、いや社会党の時代からイデオロギー別の派閥というものがありました。

自民党もイデオロギー別の派閥にしたらいいという考え方もあるのですが、今に至るまでこれは成立していません。というのは、長老の指導力、集金力、各自の選挙区事情といったテクニカルな要因のほうが、政策やイデオロギーに優先するという構造があったからです。

議院内閣制というのは、議員を通じて民意を反映させる二重の間接民主制ですが、同時に議員という物理的な存在の集合離散が総理総裁を作るという構造はどこまで行ってもついて回ります。

ですから、今回の「異例な総裁選」のあとは、何らかの形で派閥的なものが復活してゆくのだと思います。それがどのような形になるのかは、今回の総裁選ではまだ浮上してこないのだと思いますが、次回の総選挙後には様々な動きが出てくるのだと思います。

そもそも政策上の争点はあるのか~もしトラ、もしハリ、中国問題etc.

本当に腹立たしいのですが、今回の総裁選では政策上の争点が報じられていません。各候補はそれなりに主張があるのかもしれませんが、メディアの低次元な扱いにも困ったものです。報道機関の中には11名の候補について「経験」「刷新感」「外交力」「世論支持」「議員支持」の5項目でポイントをつけて比較しているようなものもあります。

いわゆる統治能力ということかもしれませんが、やはり政策論争がなければ民主国家の政治プロセスにはなりません。少なくとも以下の点についてぐらいは、しっかりと論戦をしてもらいたいと思います。

(1)外交については、まず「もしトラ」について、最悪の場合に更に防衛負担を求められる、かつ台湾防衛に消極的、北朝鮮の現状承認、ロシアの全千島支配の確定などを迫られたらどうするか?

(2)次に「もしハリ」で、難民受け入れ、女性活躍の加速などの外圧を食らったらどうするか、排出ガス抑制に消極な姿勢を批判されたらどうするか?

(3)中国問題について、サプライチェーンをどこまで切り離すのか?半導体、ガソリン車、EVの3分野での現状の協業を続けるのか?

(4)金融政策については、日銀の専管事項だが、妥当な為替レートの範囲はどの程度か? 円安になると物価高、円高は多国籍企業の決算破壊、金利高は国際の支払い金利の暴騰で財政破壊という中で、どこが最適解なのか?

(5)多国籍企業の連結決算が日本経済だという経団連思想を、どこまで許容するのか? 空洞化を抑制する施策はあるのか? 大卒5割で主要国内産業が観光業というのは間違っていないか?

(6)国内の生産性低迷の打開策は何か、DXと準英語圏化をどのようなロードマップで進めるのか? 労働規制の緩和はどうする?

コミュ力チェックをどうする~岸田総理の過ちを繰り返すな

今回の総裁選もそうですが、自民党の総裁に上り詰めるまでは、密室でのコミュ力が重要です。ところが、総裁になって総理になった途端に「国民に対して自分の言葉で話す」という能力が求められます。

ところが、総裁選挙のプロセスでは、このスキルチェックがされないのです。ですから、このスキルがないのに、総理として登壇して見事に失敗する例が繰り返されています。歴代総理の中でも多くの短命内閣に終わった例はそうですし、今回の岸田氏は「自分に自分の言葉などあるわけはない」という居直りを3年続けて自爆したわけです。

とにかく有権者に向けて国の方向性をどうするかを話すこと、ガチンコの質疑応答対応力を確認できる場に出てくること、この2つは相当の場数を踏んでいただきたいと思います。現政権が3年続く中で、ハードルが下がったと考えるのであれば勘違いも甚だしいわけで、とにかくこの点を確認しないで総理総裁を据えるのは危険極まるし、本人にも不幸なだけと思います。

具体的には、全国各地を回っての討論集会を9月末の投票日までにしっかり実施する、その際に本当にガチンコの対応力を試せる場を設けることが求められます。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年8月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。読者Q&Aの「自動翻訳は日本の活路になるか?」もすぐ読めます

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む


初月無料購読ですぐ読める! 8月配信済みバックナンバー

※2024年8月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、8月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
2024年8月配信分
  • 【Vol.548】冷泉彰彦のプリンストン通信 『自民党総裁選の注目点』(8/20)
  • 【Vol.547】冷泉彰彦のプリンストン通信 『解消すべき五輪の闇』(8/13)
  • 【Vol.546】冷泉彰彦のプリンストン通信『株安は日米の物価対策の副産物』 (8/6)

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2024年7月配信分
  • 【Vol.545】冷泉彰彦のプリンストン通信 『日本経済を壊した3つの空洞化』(7/30)
  • 【Vol.544】冷泉彰彦のプリンストン通信 『米大統領選、激変した構図』(7/23)
  • 【Vol.543】冷泉彰彦のプリンストン通信 『トランプ暗殺未遂の影響』(7/16)
  • 【Vol.542】冷泉彰彦のプリンストン通信 『ハリス擁立へ動く民主党』(7/9)
  • 【Vol.541】冷泉彰彦のプリンストン通信『米大統領選、仕切り直しの可能性』(7/2)

2024年7月のバックナンバーを購入する

2024年6月配信分
  • 【Vol.540】冷泉彰彦のプリンストン通信 『東京都知事選の論点整理』(6/25)
  • 【Vol.539】冷泉彰彦のプリンストン通信 『大都市NYの変化を考える』(6/18)
  • 【Vol.538】冷泉彰彦のプリンストン通信『自動車型式指定問題の本質』(6/11)
  • 【Vol.537】冷泉彰彦のプリンストン通信『敗北を認めて製造業の改革を』(6/4)

2024年6月のバックナンバーを購入する

2024年5月配信分
  • 【Vol.536】冷泉彰彦のプリンストン通信『トランプ支持層の各グループ』(5/28)
  • 【Vol.535】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本の政局を考える』(5/21)
  • 【Vol.534】冷泉彰彦のプリンストン通信『「日本の緩慢な破綻」を考える』(5/14)
  • 【Vol.533】冷泉彰彦のプリンストン通信『米大の学生がデモに走る理由』(5/7)

2024年5月のバックナンバーを購入する

image by: 玉木雄一郎(国民民主党代表)(@tamakiyuichiro) – X

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け