TSMC熊本 半導体バブルの盲点。日本大復活にあと1つ足りぬピースとは?白亜の工場が本邦経済の墓標となる恐れも

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「我が国の半導体産業の栄光と凋落、その過程で味わった屈辱を思うと、私にはTSMC熊本工場が日本経済の墓標に見えてならない」と述懐するのは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』著者で米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんは「TSMCの新工場が、我が国半導体産業の反転攻勢の契機となる可能性はゼロではない」としながらも、日本が本当の復活を遂げるには失われた30年の敗因分析が欠かせないと指摘。岸田総理が第1工場の開所式に寄せたコメントには「漆黒の絶望しか感じない」とした上で、今後の課題を俯瞰的に解説しています。

TSMC熊本工場は、日本経済の希望か墓標か

半導体の受託製造(OEM)メーカー台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が2月24日、熊本県菊陽町に建設していた工場の開所式を行いました。TSMCは、この第1工場に続いて、第2工場の建設も決定。熊本は、その経済効果に湧いていると言われています。

ですが、私はこの白亜の工場が、日本経済の墓標に見えてなりません。

日本の半導体産業のかつての栄光とその凋落、凋落の過程で見せた様々な悪戦苦闘と判断ミスの数々、そして悲惨とも言える現状。そうした負の歴史と現状を思うとき、どう考えてもこのピカピカの新築の巨大工場は墓標です。

もちろん、日本の半導体産業の将来はゼロだとは言えません。また今回の新工場がその反転攻勢の契機となる可能性もゼロではありません。

ですが、仮に今後の日本の半導体産業が、そして日本経済が攻勢に転ずるのだとしたら、やはりこの30年の日本経済の迷走と、敗北に次ぐ敗北の歴史を正視して、そこから修正を行うしかないのです。

その意味で、今回の開所式にあたっての政治家の発言には漆黒の絶望しか感じません。

岸田総理は「TSMC社の世界戦略の中に日本が重要な拠点として、しっかりと位置づけられることを歓迎します。2号棟についても支援を決定しました」と開所式に寄せたビデオメッセージで述べたそうです。その支援についてですが、日本政府はTSMCに対して補助金として1兆2千億円を投入するそうです。

「日本の屈辱」の象徴としてのTSMC熊本第1工場

では、なぜこのTSMCの白亜の工場が日本経済の屈辱の歴史の象徴なのか、2つの工場に分けて考えてみましょう。

まず今回、開所式が行われた「第1工場」ですが、これは最先端の半導体を製造する工場ではありません。チップの中にどれだけ多くのトランジスタなどを詰め込むかという「集積度」は大きくなく、つまりは半導体として旧世代に属します。

また、その多くは汎用品、つまり発注主が細かく設計仕様を指定してくるのではなく、あらかじめ多くのニーズに応じることができるように設計されたものです。

こうした旧世代の汎用品は、その多くが自動車に搭載されるマイコン用です。この分野では、数年前までは日本は世界をリードしてきました。リードするというと、格好良すぎるのですが、とにかく世界ではトップのシェアを維持していたのです。

そんな中で、東日本大震災による工場被災などで、日本での汎用半導体の生産に色々な問題が出るようになっていました。世界的な半導体不足とか、そのために起きた新車の供給不足といった問題はこのためでした。

実は、日本の汎用品メーカー(ルネサスなど)はシェアは獲得していたものの、決して経営状態は良くありませんでした。

これは、力関係として買い手、つまり発注をする自動車メーカーのほうが強く、半導体メーカーとしては価格交渉などで屈辱的な状態に置かれていたからでした。

シェアがトップで、ほぼ独占状態にありながら、どうして価格で強気に出ることができないのかというと、それは半導体メーカーの株を自動車メーカーや、自動車の部品メーカーが握っていたからでした。

それだけではなく、自動車産業は半導体メーカーに役員を送り込んでおり、経営陣の多くは自動車産業の出身だったのです。

株を握られ役員まで送り込まれていては、強気の価格交渉などできるわけがありません。テクノロジーは旧世代の汎用品ということもあり、自動車産業はこうした半導体メーカーを下請け、コストダウンの対象としか見ていませんでした。

そもそも頑張っても付加価値にならないのですから、これではイノベーションが進むはずはありません。

問題は勿論分かっており、現在では経産省も後押しする形で、こうした日の丸半導体メーカーは、もっと高度な仕事にシフトするように動いています。

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