TSMC熊本 半導体バブルの盲点。日本大復活にあと1つ足りぬピースとは?白亜の工場が本邦経済の墓標となる恐れも

 

外資企業TSMCへの巨額補助金はペイするのか?

政府は、とにかくTSMCの稼働と拡大により、建設需要、製造機器など設備投資の需要、そして従業員の衣食住、交通インフラなど幅広い経済効果を期待しているわけで、その意味では必死だと言えるでしょう。

これに加えて、理系人材の雇用創出といった効果も期待しているのだと思います。

ですが、どんなに経済波及効果が莫大なものであっても、TSMCは外資です。利益が出ればそれは台湾本社の利益になります。

台湾本社が100の売上で、そのうち熊本工場を管理する日本の現地法人から60で買うのであれば、日本のGDPへの寄与は100ではなく60になります。

勿論、その60に対するコストである人件費、エネルギー費用、建設費や製造機器など設備投資の多くは日本に落ちますが、仮にコストが大きくて日本法人の利益が少なければ、日本へ落ちる法人税は限られたものになります。

そして、最終的に最先端の製造技術は英語だけの世界で、世界から来る多くの人材がそこで活躍してまた別の国に戻っていくのであれば、日本にはノウハウの核心部分は残りません。

かつて、日本のメーカーの多くは「自分たちの製造技術は世界一」だという自信から、世界中に工場や研究施設を展開した際に、そのノウハウをホイホイ現地人材に教えていましたが、TSMCはそんなことはしないでしょう。

もちろん、それでも中堅人材が育てば、そしてやがて民族資本の企業がどんどん復活すれば、そうした人材は日本のGDPにフルで貢献する可能性はあります。

それでも経産省は「遠回り」を選ぶしかない

経産省はそこまで理解しているのだと思います。どう考えても、1兆2千億などという金を外資に渡すのは不自然であり、そんな巨額の金は民族資本の育成に使うべきです。

ですが、経営陣にスキルがなく、中堅技術者が語学の壁を抱えている中では、現在の世界の半導体戦争の戦場では、今のままの日本勢は戦いようがないわけです。

ですから、猛烈な迂回をする格好ですが、とにかく外資を入れて、息の長い戦略で日本の半導体産業を回復基調に戻したい、そんな戦略を経産省は取っているのだと思います。

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