自動車の「型式指定」不正問題で、トヨタ本社の検査を行うスーツ姿の国交省職員たちの“勇姿”が報道されている。だが彼らは本当に「不祥事企業を査察する正義の味方」なのだろうか。トヨタは衝突試験で、日本基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用した。世界ではEV車の比率が高まっており、重量2000キロ前後のクルマが猛烈な勢いで増えている。にもかかわらず、なぜ日本は旧態依然とした基準を金科玉条としているのか?トヨタ・業界団体・国交省それぞれの問題点を米国在住作家の冷泉彰彦氏が解明する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自動車型式指定問題の本質を考える
型式指定「不正」の本質と「本当の大問題」3つ
日本では各自動車メーカーによる型式指定の際のデータ不正問題が連日報道されています。このニュースについては、私としてはやや単純化した議論をしていたこともあり、読者の方からお叱りを受けました。貴重なご意見ですので、Q&Aコーナーではなく、ここで取り上げようと思います。
いつも興味深く拝読しています。しかし今回の配信(メルマガ6/4号)のうち、「トヨタなどの認証不正を叩くな」には異議があります。
冷泉さんの主張のように、今回は「この『不正』は100%『形式』です。それよって、安全性に影響はなく、従ってリコール修理などは必要ありません。とにかく、日本独自のルールでの『検査基準』から微妙にズレていただけの話」であったとしても、自動車メーカーが勝手に「安全性に影響はない」と判断する先には、必ず安全性に影響する問題が生じます。「ヒヤリハット」のように。
たとえ形式的規定に過ぎなくとも、法規に違反しているのであればそれに応じて批判され罰を受けなければなりません。でなければ、法が当事者の「顔」や事情に応じて恣意的に運用される(それは、刑が決まった上での情状酌量とは異なります)事になり、法秩序の信頼性が下がります。
また当事者も、これが大丈夫なら次はこれぐらいでも…と、倫理観が低下していくものです。ここ10年来そのような考えの元で、三菱自動車に始まり何件、自動車主要メーカーやその有力下請けによる(実害が伴う事もある)不正が続いたことでしょう。
トヨタはリーディング・カンパニーなのですから、なおのこと厳しく扱われるべきです。彼らは、日頃から下位企業に対して一方的に決めた規則の遵守を求め、形式的あるいは形骸化した事柄に対する少しの違反にさえ厳しい指導を行い、“100%の品質保証”という非現実的な要求さえ課しています(つまりは、購入部品に対する自らの責任をも下請けへ全て転嫁)。であれば当然、自らも「ルール」に従うべきです。それがトップの矜持と責任と云うものです。
会長の「謝罪」会見を見るに、謝罪よりも利己的な言い訳に力を注いでいる印象を受けました。その姿は、かつての三菱のそれに重なります。甘やかしてはいけません。でないと、きっとまたやらかします。
この中で、とにかく大切なのは「法秩序の信頼性が下がります」という部分です。トヨタをはじめとする、メーカー側を是として、国交省を否としてしまうという議論では、ご指摘の通り日本の法秩序を否定することになってしまいます。これは議論としては無責任です。
同様の議論としては、6月10日に配信された弁護士の郷原信郎氏の指摘があります。郷原氏は「コンプライアンスとは、『定められた法令や規則に違反しないように行動すること』を意味する『法令遵守』ではなく、『組織が社会の要請に応えること』だとしています。立派な定義だと思います。
そのうえでコンプライアンスの重要な要素として「法令と実態との乖離」への取組みが決定的に足りなかったと断罪しています。そのうえで、6月3日、国土交通省に不正の報告を行ったことを受けての記者会見で、豊田会長は、「(認証制度と実態に)ギャップがある」と語りました。また、同じ会見でトヨタの本部長からは「より厳しい条件の試験」をしていたという発言が繰り返されたことが紹介されています。
にもかかわらず、今回、国交省から要請を受けるまで、トヨタにおいて、それを自主的に調査して、「法令と実態の乖離」を把握することも、その問題を明らかにして解決をしようとする努力も、郷原氏は「行われた形跡はない」と断罪。厳しくこれを批判しています。
今回の読者の方からのご指摘、そして郷原氏の指摘というのは、非常に重たいものであります。このまま「より厳しい試験だからいいじゃないか」「トヨタは被害者だ」「監督官庁は形式主義だ」という単純化をしては、確かに法治国家も何もあったものではありません。
従いまして、今回はもう少し詳しい議論をしたいと思います。3点、問題提起をさせていただきます。1つは、不正の内容についてです。2点目は、どうして検査基準をグローバルで標準化できなかったのかという問題、3点目は日本発の「外電」の問題です。