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「消去法で小泉進次郎」に日本は耐えられるか?自民総裁選劇場がひた隠す「経済政策」マシな候補とヤバい候補の実名

自民党総裁選(9月12日告示・27日投開票)は候補者がほぼ出揃い、すでに実質的な戦いがスタートしている。マスコミは連日、この“総裁選劇場”の混戦ぶりを伝えているが、“刷新感”や人柄に偏った報道が多く、肝心かなめの「経済政策」が見えてこないのは問題だ。本記事では米国在住作家の冷泉彰彦氏が、各候補者の経済政策を3つの類型から分析・評価していく。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:政治の季節と経済政策を考える

自民総裁選でまともな議論なし、各候補の「経済政策」を評価する

自民党の総裁選が事実上スタートしました。また、立憲民主党や日本維新の会でも、前後して代表選挙が行われます。さらに、岸田氏が退陣した後、新総理総裁の下で速やかに総選挙が行われる見通しです。アメリカだけでなく、日本でもこの秋は政権選択の時期となります。

そこで気になるのが経済政策です。高度成長期からバブルの時代の日本は、ひたすら国際化をスローガンに経済成長を進めていました。島国で国内市場には限界のある日本は、市場を国外に求めて輸出立国を国の方針とすることで、経済成長を遂げてきました。

ところが、70年代後半から80年代にかけて、アメリカとヨーロッパは日本の「集中豪雨のような輸出」に強く反発して貿易摩擦が発生しました。良品を廉価で提供しているから勝てただけで、相手国の消費者には歓迎されたものの、相手国の雇用を奪っているという非難には対抗できませんでした。

そこで、自動車や家電など多くの製品で現地生産化が進められました。そして、経済メディアも日本政府もその現地生産化を後押ししました。トヨタの生産台数が世界一になれば喜び、川重や日立などが海外の高速鉄道や地下鉄の車両を大量受注すると喜ぶという習慣は今でも続いています。

ですが、こうした空洞化の結果、国内の製造業は弱体化しました。もちろん、公害を嫌う世論があり、エネルギー供給の不安定がある中では仕方がないものの、今では日本の自動車産業の国内生産比率は10%台に落ち込んでいます。本当は、中付加価値の製品の生産拠点を他国に譲った分だけ、国内ではより先進的で高付加価値な産業にシフトすれば良かったのです。ですが、教育改革が進まず、モノに縛られた価値観や高齢男性の守旧派があらゆる改革を潰す中では、先端産業の競争力は育ちませんでした。

現在の日本経済は、そうした結果として、前世紀後半の繁栄は見る影もなくなっています。そんな中で、ネットを中心とした世論は守旧派を批判し、イノベーションを潰してきた歴史を恨み、何とか産業の構造改革を行いたいという議論をしてきます。つまり、テクノロジーの深化と、ビジネスにおける準英語圏入りなど必要な改革を進めて生産性と競争力を回復しようという訴えです。

ですが、この種の議論は結局のところ多くの世論を動かすことはできませんでした。終身雇用に守られた階層は、改革のリスクを取る場合のリターンより、取らない場合のリターンが上回る場合があるというのが一因と思います。また、非正規雇用など厳しい環境で働く階層には、構造改革を進めた場合の一時的なショックには耐えられないかもしれないという直感があるからなのかもしれません。

そんなわけで、今回の政治の季節の中では経済政策は「まともな議論」にはなっていません。そうではあるのですが、とりあえず経済政策のバリエーションはあるようです。イメージ的なものを含めてお話するとすると、次のような「分類」ができそうです。(敬称略)

第1類型=クラシックな守旧派

●茂木敏充:旧平成研(元竹下・田中派)の流れから、個々の既得権益擁護から脱しきれていないのでは。元々はマッキンゼーで日本新党経由だが、改革色は自分で消してしまったような印象。

●野田聖子:郵政民営化に反対した経歴を考えると、土着の既得権益を代弁する政治姿勢が中心か。ただし、子育て世代の政策には理解がありそうだが。

●林芳正:山口の土着利権との関係は深そう。父君(芳正氏)の流れで、財務省的な保守系財政規律にも近そう。

●石破茂:地方活性化の基本政策をこの人から聞いたことがありません。ブツブツと知的だが後ろ向きの愚痴に、鉄道オタク的なパーソナルな味を加えても、何も浮かび上がってきません。自衛隊の国軍化なども、大真面目の軽武装論とセットで考えているようですが、その核心も届きそうにありません。

●加藤勝信:六月センセイの養子にしては、垢抜けていても、とにかく厚労相時代の官僚組織防衛に特化した姿勢は異様そのもの。理念とか、国民の利益というような概念そのものを、そもそも理解していないイメージ。

●上川陽子:法務官僚の上げてくる死刑執行案に乗り、外務官僚が上げてくるウクライナ支援に乗りという中で、原理原則とか、未知の事態における判断力は全く不明。基本は加藤勝信的な組織防衛が中心か。

第2類型=グローバリズムと瓶中ナショナリズムの腹下しセット

どういうわけか、グローバル経済にフレンドリーな政治家に限って、瓶の中のナショナリズム、つまり在日米軍に蓋をしてもらっている中での国内向けネトウヨ迎合というセット定食が数多く見られます。その中には、第1類型の守旧派も混じっており、なかなか見分けがつきません。

●高市早苗:政策の理解力は、かなりクエスチョンなのと、この類型の典型。経済安保で民業圧迫することは、米国の安全保障に悪しき迎合をしつつ結局は競争力を削ぐ危険性があるが、どこまで認識しているのか疑問。

●コバホーク(小林鷹之):現在の40代が政治的理由で靖国賛美するというのは、流石に不気味。どう考えても守旧派と結託している可能性は濃厚。そもそも官僚出身で構造改革など「無理」だと骨の髄まで叩き込まれている感じも。

第3類型=何らかの改革は意識内に辛うじてあるかも

●小泉進次郎:環境相の際の迷走は仕方ないにしても、農政部会長時代に農協と対決した経歴は評価。農協も農林中金も、進次郎改革を拒否した後にボロボロになったという事実は重い。ただし、お父さんの悪い癖の影響で、中国との実務的関係修復は依然やりそうもないのと、原発消極策で電源どうするのかは疑問。

ただ、農業改革もしっかりGDP擁護の観点からであったかは疑問が残ります。それにしても、子育て奮闘中という話題にヤフコメ爺連から猛烈なネガティブが飛んでくるのはどういうわけでしょう。この点で中央突破、いや守旧派を完全撃破してくれると、少子化対策には大きな前進になるかも。しかし43歳で早すぎるとか言われているのも謎です。

●河野太郎:突破力もかなり錆びついたし、構造改革の本丸に切り込む迫力も感じなくなりました。ですが、依然として昭和のファンタジーではなく、2024年現在の同時代的感性を持っているのは貴重。

●齋藤健:全体が把握できている政治家というのは珍しい中で、大将のイメージではないという考え方も。こういう人が誰かを担ぐことで回せる政権が生まれればとも思います。

しかし、どう考えても、この11人は政策論争ではなく統治能力のイメージで競っていくのでしょう。もっと言えば、直後の総選挙の「顔」としての効果だけで選ばれるわけです。

ただ、面白いのは、当面の総理総裁は選挙向けの人気優先で選ばれるにしても、仮に選挙で生き延びてしまうと、その政権が強化されるわけです。そこに、不思議なパラドックスがあります。

立憲と維新が接近、「野田=音喜多連合」も?

ところで、本欄の予想した立憲の右派が、東京維新へ接近という動きが出てきているようです。背後で小沢が動いているのかは不明ですが、野田=音喜多連合というのは東京限定でも選挙戦術としては有効性があると思います。

そこで改めて不思議に思うのは、泉健太という人の発想法ですね。乃木神社に抵抗なく参拝できるほど、乃木という人の危険性に無知である一方で、共産党と組めるのも同じ無知からなのかもしれません。そうした前提知識の欠落というのは、良いことなのか悪いことなのかというと、やはり決定的にダメなんだと思います。

ところで、立憲といえば、塩村彩夏参院議員が「議員が妊活などとんでもない」という圧力に屈したなどと暴露していましたが、その場合の加害者は「採決に欠席されると困る党幹部」だと考えるのが妥当です。仮にそうならば、政党、あるいは政党の幹部の持っているそういう悪質な体質についてはもっと明らかにしていく責任がメディアにはあるのではと思います。

それはともかく、経済政策ということですと、立憲の枝野幸男の「人間中心の経済」というスローガンも意味不明です。具体的な8項目はそんなにハズレではないのですが、さらに具体的な内容に行くと、総花的でかなり守旧的な内容が入っています。これはしっかり吟味して賛否両面から検討が必要であると思います。

ところで枝野氏というと、社会党系というイメージがありますが、スタートは日本新党で小池百合子、茂木敏充などと一緒なんですね。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年8月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。メインコラム「ハリス指名受諾演説を評価する」もすぐ読めます

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image by: 小泉進次郎 公式Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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