700円台でトンカツの定食が食べられるチェーン店「かつや」。庶民には大変助かる値段ですが、なぜそこまで安く提供することができるのでしょうか? 無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』の著者で、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、その秘密と「値段だけではない」かつやの魅力を詳しく紹介しています。
「かつや」が売れている理由。調理は高効率化! サービスは泥臭く!!
カツ丼 560円。
いつの時代かと錯覚するような低価格で、カツ丼や豚カツを提供しているお店。それが「かつや」。
物価急上昇の折、庶民には非常に有り難い存在です。
全国にある豚カツ専門店の多くが、客単価1000円を超える中で、「かつや」は700円台で定食が食べられるのです。
なぜ、これほど安く提供できるのでしょうか。
豚肉の仕入れ先を厳選しているのはもちろんですが、調理のプロを必要としないシステムを導入しているからでもあります。
「オートフライヤー」という機器を使っており、衣をつけた豚肉を入れると、時間や温度が自動で管理され、揚がるとベルトコンベアにのって出て来るのです。
その時間は3分。お客さまを待たせることはありません。
豚カツを揚げるのは、長年の経験と勘を必要とします。
そんな料理人を雇うのは、賃金がかさみ、商品の価格に影響します。
この部分を自動化すれば、大きな経費削減になります。
ビジネスで一番大きな経費は、人件費です。
「かつや」では、その中でもっとも高額な人件費である、料理人を省いたのです。
ならば、「かつや」のお店では、他の店員さんも少ないのでしょうか。
いいえ、そうではありません。
牛丼屋さんやファミレスなどと比べれば、倍ほどの人員を配置しています。
最近のこの手のお店では、注文はタブレットを使い、会計は自動精算機となっています。
しかし「かつや」は、メニューを見て、店員さんに声を掛け、店員さんは伝票に手書きし、厨房にオーダーを通します。
会計は、店員さんに伝票を渡し、お金を手渡しで支払いをします。
ひと昔前の光景が、まだ残っているのです。
調理は効率化しているのに、なぜかサービスは泥臭いまま。
それは、商売人としてのサービス精神を大切に考えているのではないかと推察します。
新しい機器の苦手な人や高齢者は、タブレットや自動精算機を躊躇してしまいます。
昔ながらの店員さんとのやり取りに、安心するのです。
また、テイクアウトの注文も、ネット注文はできますが、電話でも受けつけています。
会計時には、次回使える「100円引き券」を手渡ししています。
電子決済もできるのですが、ポイントや電子チケットではなく、紙の割引券なのです。
この割引券の使用率は50%以上となっています。
つまり、リピート客が多いということです。
元々安い上に、毎回100円引きとなれば、リピート客が多くなるのも当然のことです。
リピート率が高い理由はそれだけではありません。
商品のラインアップにも秘密があります。
たとえば、一番安い「カツ丼」。「松」「竹」「梅」があり、豚カツの大きさを選ぶことができます。
安く済ませたい人も、ちょっとだけ贅沢を楽しみたい人にも、選択肢を用意しているのです。
カツカレーも「松」「竹」「梅」。
ソースカツ丼、ヒレカツカレーには、「竹」と「梅」。
また、豚カツ定食には、「ロースカツ」と「ヒレカツ」があり、それぞれに大根おろしがのった商品もあります。
さらに、チキンカツや海老カツ、メンチカツ、から揚げなども用意されています。
定食以外に、「海老フライ」「メンチカツ」「カキフライ」などが、単品でも注文できるようになっています。
そして、定食には「とん汁(小)」がついてくるのですが、これが美味しいと大人気となっています。
(小)となっていますが、一般的な普通サイズで、野菜がたっぷり入っています。
人気が高いので、豚カツをサブメニューにし、とん汁を(大)にした「とん汁定食」も誕生しています。
このとん汁には、豚肉、大根、人参、玉ねぎ、じゃがいも、こんにゃく、ネギが入っているのですが、野菜を納品する企業に加工してもらった上で、各店に配送しているので、ここでもお店での調理が省けます。
徹底した高効率化です。
安くするための工夫に脱帽です。
厳しい社会情勢の中、贅沢を我慢している人には、非常に有り難い存在です。
束の間の幸せを感じさせてくれます。
しかし、サービスは効率化せず、アナログのままで利用しやすくなっています。
大袈裟かもしれませんが、庶民想いの優しいお店です。
良く考えられた、素晴らしいビジネスモデルだと言えます。
このまま進化させず、いまのお客さまを大切にして欲しいと思います。
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