“発掘”され続ける手塚治虫。単行本未収の「学年誌向け作品」と『火の鳥』“欠片”から見えた情熱と執念

2025.02.28
by gyouza(まぐまぐ編集部)
©️TEZUKA PRODUCTIONS©️TEZUKA PRODUCTIONS
 

今も「漫画の神様」 と呼ばれて愛され続けている漫画家・手塚治虫。かつて学年誌などのために描き下ろしていた幻の「単行本未収録作品」を“発掘”して掲載した『手塚治虫ディスカバリー・コレクション』(玄光社)と、手塚の代表作のひとつ『火の鳥』の雑誌版と単行本版の違いを見比べることができる『火の鳥 ミッシング・ピーシズ 《望郷編》』(立東舎)の2冊がこの2月に発売されました。どちらも、今まで発売された単行本に未収録の作品ばかりを収めた貴重な書籍ですが、なぜ手塚作品は死去から36年あまりが経った今もたくさんの原稿が“発掘”され続けているのでしょうか。そこからは、生涯で15万枚以上の漫画原稿を残したと言われる手塚の「情熱」と「執念」が垣間見えてきます。

すべての作品が「生涯未完」だったのかもしれない“漫画の神様”

「まだあるのか!」。今回の2冊が発売されることを初めて知ったときに、私が心の中でつぶやいた正直な言葉だ。このMAG2 NEWSでは、今までも『ブラック・ジャック』や『三つ目がとおる』で「ミッシング・ピーシズ」(欠片)シリーズが刊行されるたびに記事化してご紹介してきたので、同じような感想を抱いた方も多いことだろう。

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そう、まだまだあるのである。しかも今回は同じ月(2025年2月)に、異なる出版社からそれぞれ別の意味で「発掘」された手塚の漫画原稿を収録した単行本が出るというのだから驚くほかない。

まずは、「小学●年生」などのいわゆる学年誌に掲載されたもののカラー作品が多いがゆえに単行本には収録されなかった手塚作品を“発掘”した、その名も『手塚治虫ディスカバリー・コレクション』。これは、まさにお宝発掘といった言葉がしっくりくるほど、見たことあるようで見たことのない手塚作品ばかりが並ぶ貴重な作品集だ。

『手塚治虫ディスカバリー・コレクション』玄光社・刊 定価4950円(税込) ©️TEZUKA PRODUCTIONS

手塚治虫ディスカバリー・コレクション』玄光社・刊 定価4,950円(税込) ©️TEZUKA PRODUCTIONS

中でも、私が子供のときに見て覚えていたのが『ジャングル大帝』と『ユニコ』だ。『ジャングル大帝』は、さすがに雑誌版のオリジナルの方をリアルタイムで見ていたわけではなく、テレビアニメの再放送で楽しんでいただけだが、『ユニコ』は学年誌の『小学一年生』で読んでいた記憶が残っている。そんな思い出深い『ユニコ』も、学年誌掲載当時のカラーで拝めるのだから、この作品集には感謝しかない。

©️TEZUKA PRODUCTIONS

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また、テレビアニメ版も人気が高い『海のトリトン』は、『サンケイ新聞』掲載(連載当時のタイトルは『青いトリトン』)の方ではなく、幼年誌「たのしい幼稚園」に掲載されたヴァージョンの原画が収録されている。スミ(黒)塗りのムラや、写植の貼り方、水彩のタッチまでもわかる貴重な資料となっている。

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この『手塚治虫ディスカバリー・コレクション』は、こうした学年誌漫画を中心に活動初期から晩年までの単行本未収録作品を数多く収めた拾遺集。単行本ではトレス版で収録された作品のオリジナル原稿や、手塚が自ら単行本用に再構成しながらも未刊行に終わった新発見の原稿など、コアなファンでもほとんど目にしていない貴重な作品をこの一冊に集約している。まさに、ファン垂涎のコレクションと言えるだろう。

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一方、雑誌に掲載された初出版と手塚治虫自身による改定後の単行本版を見比べることができるのが、『火の鳥 ミッシング・ピーシズ 《望郷編》』。

同シリーズは、これまでに『ブラック・ジャック』と『三つ目がとおる』が立東舎から刊行され、それぞれ大きな反響を呼んだ。

今回は同シリーズの一環として『火の鳥』の中でも特に改変の多い「望郷編」と関連作「羽衣編」をコンパイルし、『火の鳥 ミッシング・ピーシズ 《望郷編》』として刊行されたもの。本作品集は、火の鳥の箔押しが美しい特製の化粧箱に2冊組という豪華な造りで、まさに愛蔵版だ。

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火の鳥 ミッシング・ピーシズ 《望郷編》』立東舎・刊 定価19,800円(税込)©️TEZUKA PRODUCTIONS

過去三度にわたって改変された「望郷編」と関連作「羽衣編」は、セリフの変更はもちろん、キャラクターの抹消や絵柄の修正といった細部から、大幅な構成の見直しまで驚くほど大胆に手が加えられており、手塚の創作への執念を感じさせる。

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同書の発売から1週間後の2025年3月7日(金)からは、東京シティビュー(港区・六本木ヒルズ森タワー52階)で『手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-』という展覧会(同5月25日(日)まで)も開かれるため、手塚の「火の鳥」には世間的にも注目が集まっている。

●『手塚治虫「火の鳥」展』公式サイト:https://hinotori-ex.roppongihills.com/

今まで熱心に読んできた手塚ファンでも、すべての修正や改変、セリフの変更を追ってコンプリートすることは難しいだろう。ましてや、大作中の大作『火の鳥』である。今回の『望郷編』の“欠片”を集めた集大成が無事に出版されたことを『火の鳥』いちファンとして素直に喜びたい。

今回ご紹介した2冊も、例によってアンソロジスト濱田髙志の執念ともいえる企画編集と、手塚プロダクションの全面協力により、貴重な初公開資料や作品、複数の初出版差分などをたっぷり収録している。

多作家で知られる手塚の知られざる原稿が、こんなにもさまざまなヴァリエーションでもって発掘され、編集され、一冊にまとまる様子を見ると、手塚治虫という漫画家が、いかに自分の作品に対してその都度「完璧」なものを目指していたかがよくわかる。それは死ぬまで終わることのない“賽の河原”のような作業だというのに。

自分の過去作品を改変・再編集し、挙げ句の果てにはボツにまでした「漫画の神様」は、ある意味すべての作品が「生涯未完」だったのかもしれない。(文中敬称略)

text:MAG2 NEWS編集部・gyouza

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立東舎の手塚治虫特設サイト

image by: ©️TEZUKA PRODUCTIONS

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