予想を超える24%の相互関税を課すとのトランプ大統領の発表を受け、動揺を隠せない日本社会。しかし台湾についてはその数字を遥かに上回る32%とあって、庶民の間にも大きな衝撃が広がっています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、「トランプ関税」が世界経済や各国に与えた影響について詳しく解説。さらに中国を敵視するがあまり対米依存を高めてきた台湾・民進党の「責任」を厳しく問うています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ発「関税爆弾」と梯子を外された台湾・民進党の致命的ミス
炸裂したトランプの「関税爆弾」。梯子を外された台湾民進党の致命的ミス
予告されていたトランプの「関税爆弾」が4月2日、炸裂した。
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、大統領権限で決められた相互関税だ。
輸入品に一律10%の関税を加えた上で、さらに関税障壁を設けていると判断された国をターゲットに個別の関税を上乗せするという内容だ。具体的には中国が計34%、インドには計26%。韓国と日本はそれぞれ計25%と24%。欧州連合(EU)は計20%が上乗せされる。いずれも高関税だが、このほかすべての輸入自動車を対象にした25%の追加関税も発動されるという。
対米貿易黒字を積み上げてきた国々には、まさに「核爆弾並み」(中国のニュース番組)の破壊力である。同時に世界を深刻な混乱へと突き落とす決定だった。
まず敏感に反応したのは市場だ。
翌3日のダウ平均株価の終値は、前日からおよそ4%も下落。S&P500もNASDAQもそれぞれ約5%と約6%と大幅に下げ、およそ5年ぶりという下落幅を記録した。
5年前といえば新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響だが、それと同じ規模の逆風をトランプ政権の周辺の数人が引き起こしたとすれば、恐ろしい「人災」と言わざるを得ない。
ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏が「完全に狂っている」(ニュースレター)と評したのも頷ける。
しかし興味深いのは、相互関税の税率の高低差がそのまま各国の焦りに反映されていないという点だ。一般には中国へのダメージが最も深刻と考えられてきた。しかし慌てているのはむしろ日本や韓国、そしてEUなど同盟・友好国だ。
その理由は「想定よりはるかに高い関税だった」(前出・クルーグマン)ことや同盟・友好国にかえって厳しい内容であること。そして準備不足という点が指摘される。
想定を上回る税率という点では、「当初は最大でも一律20%程度」(金融ジャーナリストのロン・インサナ氏)と見込まれていたというから、市場が驚愕したのは無理からぬところだ。
また同盟・友好国への配慮のない課税という意味では、これもトランプ自身が「友好国も敵国も皆アメリカを利用してきたが、多くの場合、友好国の方が敵国よりも悪質」と評したのだから、ある意味既定路線だ。
準備不足については、やはり同盟・友好国としての甘えが抜けなかったという話だ。
身構えていた中国が即座に「アメリカからのすべての輸入品に対し同じ34%の追加関税を課す」と発表したのは、備えていたからに他ならない。
日本や韓国に比べて中国が落ち着いて対応しているように見えるのは、例えばここ数年を見ても、貿易における対米依存を着実に減らしてきた点からも明らかだ。これが一定の自信につながっていることは間違いない。
その上で中国は長期戦を覚悟している。それは、トランプの「製造業を関税だけでアメリカに回帰させる」という政策が、非現実だと現政権が悟るまでの期間のことだ。
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半導体生産の台湾優位をいつまでも許すはずはないトランプ
これに対して日本や韓国は、どこかで「交渉で切り抜けられる」と高をくくり対米依存体質を見直すことを怠ってきた。
とくに日本はアメリカのために半導体関連技術を中国に輸出しないという輸出制限を率先して行い、アメリカからの温情を得ようと動いてきた。
しかし、その結果はどうだろうか。
輸入自動車は今後すべてのルートで25%の関税を避けられない。関税のコストがすべて価格に転嫁されるわけではないとはいえ、競争力に影響が及ぶことは避けられない。買い替えサイクルの鈍化も考慮すれば、産業に吹く逆風は計り知れない。
翻ってもう一つの巨大な自動車市場、中国での見通しはさらに絶望的だ。日中関係が好転しない問題を横においても、日本企業の新エネルギー車への転換の遅れが大きく響いているからだ。
虎の子の自動車産業が窮地に陥るとすれば日本の未来はどうなるのだろうか。
かつてキッシンジャー元国務長官は「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることはもっと致命的だ」と語ったが、まさにこの教訓を軽視した結果だ。
こうした視点で見ていったとき、日本以上に重傷だと思われるのが、実は台湾だ。
相互関税の税率からも、その意味は伝わってくる。
税率の高い順にアジアの国々を並べてみると、カンボジア(49%)、ラオス(48%)、ベトナム(46%)、ミャンマー(44%)、タイ(36%)、インドネシア(32%)、ブルネイ(24%)、マレーシア(24%)、フィリピン(17%)、シンガポール(10%)となる。
全体としてアジアに厳しい税率だと分かるが、台湾はこのなかではインドネシアと同じ水準の32%となる。半導体製品は除外されたとはいえ、決してアメリカの配慮が働いたわけではない。
台湾の半導体については半導体受託製造企業のトップ・台湾積体電路製造有限公司(TSMC)がアメリカへの巨額の投資を表明していて、その総額は1,600億ドルにも達する。
もし台湾域内に同じ額を投資し、工場を建設していたら、台湾経済にどれほど大きな貢献があったかを考えれば、大きな貢物であったはずだ。しかしこうしてすり寄ってことも完全に無視されたようだ。今後は、わざわざコストの高いアメリカに投資した意味も問われてくるだろう。
台湾のTSMCは、米インテルへの協力も求められていて、アメリカが本気で半導体を自国内で生産しようとしていることがうかがえるのだ。
パナマ運河やグリーンランドどころか、カナダさえ呑み込もうというトランプが、半導体生産での台湾の優位をいつまでも許すはずはないのは当然かもしれない。
台湾の民進党はここ数年、中国という敵を作り出すことで追い風を吹かせることに拘泥してきた。
中国を敵視すればするほど対米依存と妥協を繰り返してきた。そうやって対立を激化させた結果、台湾は何を得たのだろうか。頭を冷やして考えるときがきているのではないだろうか。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年4月6日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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