我慢比べの持久戦に持ち込んで絶対に負けないことを目指す中国
日本がトランプに急いで擦り寄って目先の災難を切り抜けようとする軟弱姿勢であるのに対し、カナダは原理原則を立てて毅然と対応している。そのカナダよりもさらに用意周到に準備された戦略に沿って慌てず騒がずの態度を示しているのは中国である。その戦略とは次の4点である。
第1に、トランプの脅迫作戦には決して乗らず、「脅しの下では交渉せず」の姿勢を貫く。トランプは盛んに「電話をしてこいよ」と誘いかけるが、断固としてこちらから掛けることはしない。但し、トランプ個人を非難することは慎重に回避し、いざというときに直通で話ができる余地は残しておく。
当然、何をするか分からないトランプのことであるから、最悪の被害が、しかも長期にわたって続くこともあり得るけれども、それは最初から覚悟の上で「我慢比べの持久戦に持ち込んで絶対に負けないことを目指す」のである。
持久戦論は、毛沢東が抗日戦争を指揮するに当たっての戦略の軸とした考え方である。
- 最初は強大な日本帝国主義が戦略的に優勢を占め中国は守勢に追い込まれるが、
- 長引くにつれ日本の脆弱性が露呈され、その中で中国が反攻準備を開始し、
- やがて機を捉えて中国が戦略的に反攻に出て日本は退却に追い込まれる。
この1.と2.の段階では、「もうダメだ」と戦いを諦める「亡国」論や、「すぐに決戦に打って出よう」とする冒険的な「速勝」論のどちらにも傾くことなく、持久戦を戦い抜かなければならないとした。
抗日戦が始まって1年後の1938年5~6月に延安で行った講演で、その前年の『実践論・矛盾論』と共に中国における政治・軍事の初級教科書の双璧。その『持久戦論』が「いま中国でバカ売れ」と米ワシントン・ポスト紙が書いてクーリエ・ジャポンが翻訳紹介したのは2019年1月のことである。
つまり、米国からいかなる攻撃を仕掛けられようとも、相手が脆弱性を曝け出して自滅していくまで耐え抜くのだという国民的意思統一はその頃から始まっていたのである。
● 1938年出版「毛沢東の教え」の復刊版がバカ売れ中 米中貿易戦争、中国のバイブルは“抗日戦争”を勝利に導いた『持久戦論』(クーリエ・ジャポン)
また中国は、貿易総額の中に占める米国の割合を2017年の14.2%から24年の11.1%まで減らし、ほぼその分を東南アジア向けにシフトしている。さらに米国国債保有国として日本に次ぐ第2位の中国が、対米報復関税の実施と並行して少しずつ売却し始めているのではないかとの憶測が金融界に広がっていて、4月7日には30年物、10年物を中心に活発な売りが出て利回りが急上昇した。
全て、用意周到に組まれている。「亡国」屈服でもなく「速勝」冒険でもなく、「持久」雌伏して機を窺うのである。
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