すでに習近平に一本取られてしまっているトランプ
第2に、トランプが10%から始まって34、54、125、145%と、日替わりのように口先だけで税率を吊り上げた上に、一転、その追加関税分の実施を90日間延期してみたり、一人ジタバタしているのに対し、中国は125%に達したところで一方的に「はい、もはやこれまでとしましょう」と言ってそれ以上の吊り上げ競争に応じないことを宣言した。これは賢明な態度で、100%を大きく超える関税など実際には意味がないことは分かり切っている。
しかも面白いことに、中国は実は、その言葉の通り、4月10日から米国からの輸入品に対して125%の関税を賦課し始めている。ところが米国の方は、大統領の言うことが日替わりすることも禍して現場の態勢が追いつかず、一文の積み増し関税も徴収できていない。中国は無言実行、米国は有言不実行で、すでにこの段階でトランプは一本取られてしまっている。
第3に、中国は問題を2国間関係のディールに押し込めておくことの愚を悟っていて、これを世界大の外交展開に結びつけて米国の孤立化を図ろうとしている。
(1)4月11日にはスペインの社会労働党政権を率いるペドロ・サンチェス首相が過去2年間で3度目の訪中で習近平主席、李強首相と会談、スペインが仲立ちしてEUと中国の関係強化に努めること、中国の自動車及び同部品メーカーのスペイン投資を促すことなどを話し合った。ベッセント米財務長官はテレビでこれを「スペインの自殺行為」と苛立ちを露わにした。
(2)習近平は4月14日から17日まで、ベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪、各国トップと「自由経済態勢とサプライチェーンの安定を共同で守ろう」「包容的なアジアの価値観で弱肉強食ルールに対抗したい」などと話し合った。とりわけ、トランプから一際高い46%の関税を突きつけられているベトナムとは、中国南部とベトナム北部をつなぐ鉄道建設プロジェクトはじめ45件もの新規案件について合意し調印した。
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