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トランプ関税で不動産不況に。中国よりヤバいアメリカが住宅問題解消に必要なのは「関税戦争からの名誉ある撤退」

6月5日に行われた米中首脳の電話会談。しかし両国の報道は、トランプ大統領が中国に関税戦争を宣戦布告して以来初となる会談にも関わらず極めて静かなものであったと言います。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、その原因を分析。さらに中国が苛立つ様を見て彼らの「焦り」を指摘する見方が誤っている理由を解説するとともに、中国に比してより深刻なアメリカ国内の政治の混迷ぶりを紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:恩赦に続いて歳出法案でも逆風にさらされるトランプ政権は、「反中」に活路を求めるのか、関係改善に向かうのか

「反中」か関係改善か。国内の問題山積で逆風にさらされるトランプの進む道

米中首脳が電話会談を行った。

といっても華々しい報道も、高揚感もない静かな会談であった。

報道陣にも会談に関する事前情報は制限されていたようで、アメリカ国内の反応も鈍いと感じられた。

印象に残ったのは、米ABCテレビに出演したケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長が「今週にも米中の首脳同士が電話で話し合う」と漏らすと、番組のキャスターが驚いて何度も「いつですか?」と訊き返したシーンだ。

つまり突貫工事の電話会談だったのだ。

なぜ、そうなったのかは明らかだろう。要するに、会談の成果を事前に見積もることができなかったのだ。

ハセットと同じくテレビに出演したスコット・ベッセント財務長官は、中国との交渉について訊かれ、「若干難航している」と認めざるを得なかった。

トランプ政権側の反応に歯切れの悪さがつきまとうのは、中国の対米強硬姿勢に変化が表れないからだ。そうした中国をドナルド・トランプ大統領は「中国は関税の合意に違反している」とSNSでけん制した。これを受けメディアも中国がレアアースの輸出規制を修正していないと批判した。

だが、中国側の言い分はそれとは真逆だった。違反しているのはむしろアメリカ側だと強い調子で反論したのだ。

典型例として挙げたのは、中国に対する半導体の輸出規制だ。

トランプ政権下での対中国輸出管理はこれまでのところ緩和と強化が繰り返されてきているが、5月末には商務省が中国に対する航空機部品および半導体技術の輸出許可を一時停止し、中国側の反発を招いた。

同じ時期、マルコ・ルビオ国務長官が、「中国共産党とつながりのある中国人留学生のビザの取り消しを始める」と宣言して火に油を注いだ。

こうした中国への攻勢は、政権の共通した意思の下で行われているのか。はたまた「船頭多くして船山に上る」といった現象なのか。それともバイデン政権時にも中国を悩ませた「言行不一致」というアメリカ外交の宿痾が原因なのだろうか。

いずれにせよ中国側も電話会談での成果にはほとんど触れていない。

中国中央テレビ(CCTV)の『新聞聯播』は、米中首脳の電話会談のニュースを、トップではなく「チベットのパンチェン・エルデニ(パンチェン・ラマ)が習近平国家主席に謁見した」というニュースの次に短く伝えた。

では習近平は米中の現状をどうとらえたのか。会談ではまずスイス・ジュネーブでの協議を「重要な一歩を踏み出した」と評価したが、その一方で「舵をしっかり握り、正しい方向を定める必要がある」と、苦言を忘れなかった。

「あらゆる妨害や破壊行為を排除することが極めて重要だ」とやんわり批判もしている。

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明らかに苛立ってはいるが焦ってはいない中国

トランプは前述のように「中国側が合意に違反した」とSNSで発信したが、習近平の認識はこれとは真逆だ。

「中国人は一貫して『一度言ったことは必ず実行し、実行する以上は必ずやり遂げる』ことを重んじている。合意に達した以上、双方はそれを順守すべきだ。ジュネーブ会談の後、中国側は合意を厳粛かつ真剣に履行している」と述べたという。

中国は明らかに苛立っている。ただ、だからといって中国が焦っているととらえるのは誤りだ。

理由は中国の国内が比較的落ち着いているからだ。それに反しアメリカ国内の政治の混迷は深刻だ。

先週も取り上げた「恩赦」の問題をめぐって大きな批判にさらされ続けるトランプ政権は、関税発動の権限をめぐっては司法との間に緊張関係を生じさせた。

【関連】習近平は動かず。トランプの「ハーバード大留学生資格取り消し」という人材確保の好機に中国が手を出さぬ奇妙

加えて大統領自身が「大きくて美しい法案」と呼んだ税制・歳出法案をめぐり、かつての盟友で大富豪のイーロン・マスク氏と激しい舌戦を繰り広げた。

マスクの不満は、「この法案が政府の債務をさらに膨らませ政府効率化省(DOGE)の仕事を台無しにする」こととされたが、実際、5月29日に放送されたABC『ワールドニューストゥナイト』では、議会予算局の試算でとして「今後10年間で、政府債務は3.8兆ドルまで膨らむ」との予測も紹介された。

関税をめぐる米中対立では、すでにこのメルマガで予告したアメリカ経済への逆風の兆候がいくつも確認され始めた。

6月4日放送の米ABCテレビは、「ウォールマートで商品の値上がりが始まった」として、「3月には34ドル97セントだった赤ちゃんの着せ替え人形が、現在は49ドル97セントになり、お絵描きボードも5月時点で14ドル97セントだったのが、現在は24ドル99セントに値上げされた」と報じた。

ここ数年、日本では中国の不動産不況から中国経済の不振が連日のように取り上げられてきたが、住宅問題はアメリカでこそ深刻だ。

アメリカ公共放送PBSの『ニュースアワー』は6月4日、住宅問題に取り組むために超党派での対策が進んでいることを、二人のゲストを招いて紹介した。

番組の冒頭、キャスターが「ホームレスの人の数が過去最高に達するなかトランプ政権は賃貸住宅の家賃補助を削減しようとしている」と懸念を示すと、番組に出演したユタ州クリアフィールドのM・シェパード市長は、「いま全国でおよそ400万戸の住宅が不足している」と応じた。

住宅問題に超党派で取り組む彼らが目指すのは安価な住宅を提供することだが、もしトランプ関税が固定化されれば、「それによって、すでに高い建設コストがさらに上がる」(カリフォルニア州ロングビーチのR・リチャードソン市長)ことが懸念されるという。

住宅建設の費用がかさめば家は売れない。家が売れなければ消費は停滞する。

経済再生を期待されたトランプはそれでよいのだろうか。

関税戦争でも、やはりアメリカは「名誉ある撤退」が必要なのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年6月8日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: miss.cabul / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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