スペインをはじめ、南欧諸国で猛威を振るう山火事。スペインでは沖縄本島の約3倍、ポルトガルでは東京都とほぼ同面積の山林が焼失しましたが、未だ鎮火の見通しが立たない状況にあります。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、住民までもが消火活動に当たっているという現状を詳しく紹介。さらに猛暑と熱波だけではない「収束への足を引っ張っている要因」を白日の下に晒しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:戦争も山火事も政争の具
使えるものはすべて使う「政治屋」の卑しさ。戦争も山火事も政争の具
今、日本で報じられている海外ニュースと言うと、最も多いのが「ドナルド・トランプ、ノーベル平和賞への道」とでも名付けたくなる愚か者の自作自演の茶番劇に関する一連の報道ですが、海外メディア、特にEUに目を向けてみると、連日報じられているのは、スペインを始めとした南欧諸国の大規模な山火事のニュースなのです。
山火事と言えば、日本でも今年2月に岩手県大船渡市で過去最大規模の火災が起こりましたし、翌3月にも岡山県の金甲山や愛媛県今治市の長沢などで発生しました。以来、日本では大きな山火事が発生していないため、被災者以外の日本人の多くは「喉もと過ぎれば」の状態になっていると思いますが、スペインを始めとした南欧では、今、この瞬間も大変な状況なのです。
現在、スペインでは、2週間以上も続く猛暑と熱波の影響で、北西部のガリシア州を中心に、全土で山火事が多発しています。特にガリシア州のオウレンセ県、レオン県、サモラ県、カセレス県などの被害が深刻で、40件を超える大小の山火事が猛威を振るい続けており、もはや「制御不能」の状況だと報じられました。少なくとも3万人以上が避難しており、すでに複数人の死亡が報じられています。
EFFIS(欧州森林火災情報システム)によると、スペインではこれまでに34万4,400ヘクタール以上が焼失しており、これは地中海に浮かぶスペインのマヨルカ島の大きさに相当するそうです。ちなみに、マヨルカ島の面積は、イタリアのシチリア島の7分の1…なんて言っても分かるわけないので、沖縄本島の約3倍です。
ペドロ・サンチェス首相は先週、消火活動の支援のため軍の兵士500人を追加して3,000人体制に増強し、軍の航空機50機も配備して対応していますが、あえて不適切な表現を使わせてもらうと、現時点では「焼け石に水」のようです。それは、連日の猛暑と熱波が消火活動を阻み続けているため、「山火事を一定エリアに封じ込める」という鎮火への第一歩が、ほとんど進んでいない状況だからです。
山火事が迫るガリシア州ビジャルデボス村の住民は「消火剤を撒くための航空機がこの村の上空を通過して行くが、この村には来てくれない」と嘆き、住民らが自力で消火活動を続けています。しかし、給水ポンプを稼働させるための電力が来ていないこの村では、手動で水を汲み上げ、バケツリレーで消火活動をしていると言うのです。「山火事にバケツリレー」って「B29に竹槍」と変わりません。
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国内のほぼ全域で山火事の危険が急上昇する可能性も
ここまで人手が足りないのなら、お隣りのポルトガルに救援要請をすればいいのに…と思うかもしれませんが、お隣りのポルトガルでも、今、中部から北部にかけて計8件もの大規模な山火事が発生しており、数千人の消防士が命がけで消火活動を続けているのです。
この8件の山火事のうち最大規模のものは、観光客に人気の風光明媚な山岳地帯ピオダオ付近で発生したのですが、こちらも封じ込めが進まずに拡大し続けているようです。また、北部トランコソで発生した別の山火事も、すでに10日近くも猛威を振るっており、飛び火した別の火災で住民が命を落としたと報じられました。
ポルトガルでは先週末までに約21万6,200ヘクタールが焼失したと発表されましたが、これは過去20年間の山火事による年間焼失面積の4倍を超えるそうです。ポルトガルでも複数の死者が出ている上、現在も山火事は広がり続けているのですから、被害はさらに増えるでしょう。
話をスペインに戻しますが、スペインの国立気象機関AEMETは、先週末の8月16日に、南部の都市コルドバで気温44.7℃を記録したと発表しました。そして「このままではすぐに45℃を超える。そうなると国内のほぼ全域で山火事の危険が急上昇する」と警告しました。すでに「記録上最悪」と報じられているスペインの山火事は、先週末の時点で、ピコス・デ・エウロパ山脈の南斜面にまで達しようとしています。
ここには、フランスからピレネー山脈を超えて、聖ヤコブの遺骨が埋葬されているスペイン西端のサンティアゴ・デ・コンポステーラ市まで続く「カミノ・デ・サンティアゴ巡礼路」があります。巡礼者は流れて来る山火事の煙を吸わないように、マスクを着用して歩いていましたが、いよいよ山火事が近づいて来たため、政府はスペイン内の巡礼路を50キロに渡って閉鎖しました。
また、アニメ『アルプスの少女ハイジ』のブランコが日本人観光客にも人気のレオン州リアニョでは、山火事が及ばないようにと住民らが先週から周辺の草刈りを始めました。ビジャルデボス村のバケツリレーしかり、リアニョの草刈りしかり、もはや住民らが自力で何とかするしかないのです。
先週末、緊急対策局のバージニア・バルコネス局長は「来週の火曜日から気温が少し下がると予想されているが、現時点での気象条件は最悪だ。ここまで気温が高いと消火活動がほとんど進まない」と述べました。また、マルガリータ・ロブレス国防相は「気候変動による巨大な熱波が原因で、われわれは今、過去20年間に一度も経験したことがない規模の山火事と対峙している」と述べました。
でも、複数の現地メディアの記事に目を通してみると、スペイン政府も手をこまねいているわけではありませんでした。今回の南欧の山火事では、スペインとポルトガル、次いでギリシャが大きな被害を受けていますが、スペインでは現在までに、フランス、イタリア、オランダ、スロバキア、ドイツ、チェコなどから支援を受けていると報じられました。
しかし、その支援内容までは報じられていないため、もしもこれらの国々の支援が日本の得意技の「支援金」であった場合、目の前の山火事の消火活動には直結しないことも事実なのです。
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収束の足を引っ張っているスペインの複雑な政治状況
さらには、現在のスペインの複雑な政治状況も、収束への足を引っ張っているのです。昨年6月までのスペインの政権は、ペドロ・サンチェス首相率いる中道左派の社会労働党(PSOE)が最大の議席数を持ち、連立する左派政党との揺るぎない与党が、かつての日本の自公政権のように牛耳っていました。
しかし、昨年6月の欧州議会選挙で、中道右派の最大野党、国民党(PP)が社会労働党を超える議席を獲得し、第1党へと大躍進したのです。その上、極右政党ボクス(VOX)も得票数を5割も伸ばし、第3党へと躍進しました。まるで、日本の国民民主党と参政党のようですが、これは、アメリカのドナルド・トランプ大統領の「アメリカ・ファースト宣言」に端を発した欧州の右傾化の一部と見られています。
ペドロ・サンチェス首相は、連立によって何とか過半数を維持し、そのまま政権の座に残ることができましたが、社会労働党としては野党第1党の国民党に議席数で負けているのですから、何をするにも国民党の顔色を窺わなくてはいけません。
一方、アルベルト・フェイホー党首率いる国民党は「マジで政権交代する5秒前」の状況ですから、歯に衣着せぬ勢いでサンチェス首相を攻撃し続けています。今回の山火事でも、国民党は「ここまで被害が拡大したのは政府の対策が不十分だからだ」とサンチェス首相を批判し続けています。
そして、今回の山火事の最大の原因が「気候変動による猛暑と熱波」という報告を受けたサンチェス首相は、8月17日、与野党すべての政党に、気候変動に関する国家協定を締結するように促しました。ま、厳しい言い方をすれば「国民へ向けたやってる感アピール」ですが、これに対して国民党は「そんなものは単なる気休めだ」と毒を吐いて突っぱねたのです。
国民党としては、被害が広がれば広がるほど政権与党を批判する口実になるのですから、こうした対応も分からなくはありませんが、保身に必死なサンチェス首相と、政権交代しか考えていないフェイホー党首、あたしから見ると完全に「どっちもどっち」です。そして、何よりも気の毒なのが、今、この瞬間も、自分の村を守るために必死にバケツリレーを続けている国民たちでしょう。
自国で発生している大規模な山火事まで「政争の具」にしてしまうスペインの愚かな為政者たち。
ま、他国の戦争まで「政争の具」にしている世界一愚かなあの人よりはいくぶんマシですが…。
(『きっこのメルマガ』2025年8月20日号より一部抜粋・文中敬称略)
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