「国家の威信」と「人命」の落差。原潜とボロ木造船が炙り出す“二つの北朝鮮”

 

一方、「北朝鮮漁民の人権の実態に関する報告書」では、「2」安全権の侵害:脆弱な船舶と装備」の中で、「潜水作業も北朝鮮漁民の安全権を侵害する代表的な事例である」(同書18ページ)と紹介されている。以下、報告の一部を紹介する。

〇潜水に必要な重要装備であるコンプレッサー(空気圧縮機)は高価なため購入できず、漁民は廃車置き場から自動車用のシリンダーや圧縮機を?ぎ取って改造し使用する。ホースとマスクは主に中国製低価格製品を密輸入して使用しており、専門潜水装備がないために人民軍の防毒マスクを改造して使用する場合も多い。

〇酸素ボンベも北朝鮮国内では入手困難なため、漁民はブタンガスのボンベを改造して潜水用酸素ボンベにしている。溶接で圧力を高め、空気を充填して使用するが、潜水中に装置が停止するとわずか1分も持たない。仮に水深30mで空気供給が遮断されると、窒息するだけでなく、いわゆる潜水病に恐れが極めて高い。

〇北朝鮮漁民の潜水作業は、「中潜水(スクーバ式潜水)」と「軽潜水(ホース接続式潜水)」の二つに区分される。中潜水は金属の潜水服(銅制ヘルメット)を着用して重りを付け、水深40~50mまで潜水する方法であり、軽潜水はホースで 空気を供給し、比較的簡単な装備で潜水する方法である。

しかし、専用の潜水服と装備を確保できない多くの漁民は、中国製の下水道清掃用ゴム服を潜水服の代わりに着用し、手袋も家庭用ゴム手袋を改造して着用するなど、深刻な安全上の危険を抱えている。

「本来は30m以上は潜ってはいけないと言われます。つまり、中潜水は……スクーバ式潜水ですが、銅製ヘルメットをかぶって、片方の靴に約30?重りを底に付けます。腰にも付けます。そう装着して約40~50mを潜ります。水圧があるので潜水服に空気を注入して潜ります。でも、軽潜水の時は何を使うか知っていますか。潜水服はですね、中国の人が下水道の掃除に使うあの服を使います。ゴムが紙数枚分の暑さしかありません。4枚くらいの薄いゴムの服です。潜水服じゃなくて、中国人が上下水道の掃除をする時に使うものだそうです。家で皿洗いする時に使うゴム手袋がありますよね。それを付けて(着けて?)使います」(インタビューC)。

〇「潜水作業員の死亡率は10%ほどです。船が100隻あれば、そこで10人ほどが死にますね。潜水病は30~40%程度です」(インタビューC)。

原子力潜水艦と潜水夫の比較話であるが、4~5年前までは北朝鮮からの、木造漁船が日本海側の海岸に漂着して、無残な姿をさらけ出していたが、あの風景も一つの「風物詩」であった。

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