決算書で一番わかりやすいのは売上高や当期純利益です。しかし、それだけを見て会社が順調かを判断するのは危ういとメルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』の著者である吉田さんは話します。吉田さんは今回、営業利益こそが最も重視すべきとしており、なぜ中小企業こそ「営業利益」を最重要視すべきなのかについて、実務の視点から掘り下げています。
「営業利益」を、もっと意識すべし
我が国の会計基準には、大きく分けて5種類の利益があります。
・売上総利益 (俗に言う粗利)
・営業利益 (本業で出た利益)
・経常利益 (本業だけでなく、配当や利息など、会社の経常的な取引を含めた利益)
・税引前当期純利益 (上記に加えて、臨時的に発生した特別利益や特別損失を含む)
・税引後当期純利益 (法人税等を引いた、いわゆる最終利益)
会社勤めの営業マンは、粗利をよく意識します。
銀行マンは、経常利益をよく意識します。
税務署は当期純利益でしょうか。
そして我々事業再生コンサルやM&A業者の多くは、営業利益を意識します。
もう少し突っ込んで解説しましょう。
売上総利益(粗利)は、業種によって大きく事なります。
たとえば、婦人服小売業の粗利率は4割前後(言い換えれば原価率6割前後)、
飲食店は7割前後(原価率3割前後)、卸売業は1-2割、
製造業も意外と低くて2-4割(なぜなら製造原価の比率が高いから)、
占い師や弁護士やコンサルは9-10割……。
業種やビジネスモデルによって粗利率は大きく異なるのが当然なのです。
いっぽう、営業利益は業種を問いません。
たとえ粗利1割の薄利多売でも、販売費一般管理費を低く抑えれば、しっかり営業利益を取ることはできます(これが企業のあるべき姿といっていいでしょう)。
たとえば、「業務スーパー」で有名な神戸物産の2025年10月期売上高は5517億円でしたが、営業利益は399億円でした。
売上高営業利益率は、7.2%ということになります。(←「率」が大事)
消費者金融のアコムは、貸金業にとどまらず銀行カードローンの信用保証も拡大しており、2025年3月期の営業収益(売上高のようなもの)は3177億円、営業利益は585億円、営業利益率は18%というとんでもなく高い利益率を計上しました。
貸金業は法定金利が18%程度まで下がっており、単に貸し付けるだけでは儲からない業界ですが、銀行の信用保証業務は、薄利とはいえ管理コストが低めですし、貸金業のほうも実店舗が減ってスマホやATMでの取引が多くなっていますから、総じて販売費一般管理費が低く抑えられているのでしょう。
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中小企業の場合、営業利益率「5%~」を、まずは目指すべきかと思います。
業種を問いません。
売上高1億円なら、500万円以上の営業利益ですね。
これがひとつの目安だと思います。
上場企業ならこのくらい当たり前と言ってもよさそうですが、中小企業、とりわけ事業再生の局面に立たされている会社の多くは、営業利益率がとにかく低いのです。
私のところに相談に来られる会社のおよそ8割は、営業利益率が2%を切っています。それどころか、営業損失(営業利益ベースで赤字)もかなり多いのが実情です。
営業利益ベースで赤字ということは、本業で採算が取れていないことを意味します。
支払利息も税金も含んでいない利益ですから、これで黒字にならないようでは、きつい言い方をすれば、「事業として成り立っていない」という見方もあります(特に3期以上連続で営業赤字の場合は)。
極論すれば、経常利益や当期純利益はあまり気にしなくても構いません。
経常利益は、雑収入や支払利息などの要素が加わります。
補助金でゲットした収入によって、にわかに経常利益がハネ上がるようなこともあります。
あるいは、高金利で借りたり、手形割引に依存していたりすると、せっかく営業利益が黒字でも、吸い取られて赤字になったりもします。
これらは比較的容易に改善できる余地があります。
当期純利益は、過年度の繰越赤字の有無や、突発的に発生した利益や損失(家事で工場が焼けたとか、店舗を売却して利益が出たとか)を含みますので、経営体質とはまたちょっと異なるものになります。
そんなこんなで、とりわけ中小企業の場合、営業利益が最も大事という結論になると、私は昔から考えています。
ついでに言えば、M&Aの現場などにおいても、たとえどんなに黒字を出していても、その内訳が本業以外の助成金収入や固定資産除却益などによるものであれば、あまり高く評価されません。それよりも、本業で稼ぐ力(営業利益)のほうが重視されるのが普通です。
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