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【大炎上】鳩山クリミア訪問に同行したジャーナリストが明かす、現地の実情

先日、突如クリミアを訪問し、国際的に問題視されているという「ロシアのクリミア編入問題」について肯定的な意見を述べたことをマスコミに大批判された鳩山元首相。しかしクリミアに同行したジャーナリストの高野孟さんは「むしろ国益に沿う」と言います。

異論を許さない嫌~な国柄へ

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175より一部抜粋

3月10日から12日まで、ウクライナから独立を遂げて1年目のクリミアを訪問した。前後にモスクワに一泊したので計5日間の久しぶりのロシアへの旅だった。

発端は、新右翼団体「一水会」の木村三浩代表が昨年8月と9月にクリミアを訪れて、現地幹部と親交を結んだことから、百聞は一見にしかずだから是非とも鳩山由紀夫に現地を訪れて実情を見て貰いたい、と私に働きかけてきたことにある。私はかねてより、一昨年11月以来のウクライナにおける市民デモがたちまちにして武装反乱に発展して政変、そして内乱に至ったプロセスに、米国の表と裏の勢力が関与してきたという大いなる疑念を抱いていて、以下の本誌各号でもそれを主張し続けてきたので、この提案に賛同した。

▼14-03-31 No.725 「プーチン=悪者論で済ませていいのか?/ウクライナ、クリミア争乱の深層」
▼14-08-11 No.744 「ウクライナ:膠着の下で続く米欧vs露の我慢競べ/「ガス供給停止」カードを握るプーチンがやや優位に?」
▼14-10-20 No.754 「プーチン主導で進むウクライナ危機の収拾/「カラー革命」をめぐる攻防」
▼15-02-16 No.772 「薄氷を踏むかのウクライナ停戦合意/その裏で忘れ去られた?クリミア問題」

これらのエッセンスは先週発売の「友愛ブックレット」第4弾『ウクライナ危機の実相と日露関係』(花伝社)にも収められているので、ご覧頂きたい。

鳩山や木村にはそれぞれの思いがあったには違いない。が、ジャーナリストである私としては、昨年来のウクライナ危機をめぐる日本における報道や論評が、米欧の観点に無批判に追随するばかりで実相から余りにもかけ離れてしまっていることに強い違和感を抱いてきた立場から、実際にクリミア現地に行って実情を確かめつつ、過剰かつ不当と思われる西側の対露経済・個人制裁の妥当性を問い直し、その解除の条件を探り、日露関係の改善のための方策を見出したいとの思惑があった。そして現実に現地を見て、クリミア共和国やロシア政府の幹部と懇談し、また人びとの生の声にも接することを通じて、少なくとも複眼的に、西側の言いぶりだけでなくロシアやクリミアの側の見方も斟酌して、この事態の打開策を考えなければならないとの思いをますます強くした。

ところが、我々がクリミアに行くのを察知した外務省からは、出発当日の午前3時までロシア課長が芳賀秘書に電話をかけて「行くな」と制止しようとする異様なまでの圧力がかかった。日本政府としては、ちょうど1年前のクリミアのウクライナからの独立とロシアへの編入は、武力による領土の変更であり到底許容することができないという、米欧の立場を支持して対露制裁に加わっているので、そのクリミアに足を踏み入れることはその政府方針を妨げ、ロシアの立場を支持することに繋がると言うのである。

そんなことはなくて、その対露制裁そのものがどれほどの根拠があってなされたものであるのかをこの時点で検証し、どのような条件が整えばそれを解除できるかを模索することは、まことに「国益」に沿うことである。本来は政府としても、建前では制裁を続けつつも、裏では日露関係を解きほぐして正常化するための工作を積み重ねなければならない正念場であるはずで、それが外交というものだが、日本は建前だけで突っ張らかって、ロシアが膝を屈して詫びを入れて来るまでいつまででも制裁を続けるかの態度をとっている。そのような時に、鳩山が元総理であり日ソ共同宣言を成した一郎の孫でありながら今は一民間人であるという利点を活かして、この膠着をほぐす糸口を探ろうとするのはごく当たり前の「民間外交」である。

ところが、日本政府・外務省の立場に屈従するばかりの日本のメディアは、鳩山は「日本人ではない」「国賊」「パスポートを取り上げろ」といった口汚いキャンペーンを繰り広げ、これを一個のスキャンダルに仕立て上げた。つい先々週まで、ウクライナ危機の本質にも、クリミア併合問題の実体にも、日露関係の行方にも、何ら興味を持つことすらなかったメディアが、モスクワの街中や空港で彼を追い回し、成田の空港でも待ち構えて「元総理としてどう責任を取るんですか」「クリミアに亡命するって本当ですか」「ひと言お願いします」と絶叫してマイクを突き付ける有様は、亡国的としか言いようがない悲惨さである。こういうメディアのはしたない幼稚さを通じて、政府方針に逆らって異論を唱える者は「国賊」であるという社会的な雰囲気が深まって行くのが恐ろしい。

もちろん、このような挙国一致=大政翼賛的な風潮に対する反発は湧き出ている。3月15日付東京新聞の「こちら特報部」は「痛い文化」という面白いテーマを取り上げていて、「痛い」とは「他人の的外れな言動や勘違い・場違いな発言を批判的に評する若者言葉」なのだそうだが、それはともかく、その特集の末尾に「牧」署名のデスクメモがありこう書いている。

「ネットを見ると、鳩山由紀夫さんが『痛い人』になっていた。理由は先のクリミア訪問だ。ウクライナの極右の所業などを考えると、同国とロシアのどちらが善で、どちらが悪かは決め難い。そんな場合、双方にパイプがあることが肝要だ。米国のカーター外交の例もある。むしろ、非難の理由が痛くないか」

これが正常な感覚である。

あるいは、東洋経済オンライン3月14日付で中村繁夫は「鳩山由紀夫元首相は、宇宙人か馬鹿か天才か」と題した論評を掲げ、次のように言っている。

▼どのニュースでも、コメンテーターが鳩山氏の行動を一斉に非難している。だが、大の大人が、一見軽率にみえる行動を、鬼の首をとったかのような表現で責め立てるのは何とも大人げない気がする。……今回のクリミア訪問は決して思い付きではないと思う。あえて言えば、「確信犯」である可能性が高い。ロシア側の意見や見方が、日本のマスコミには伝わらないから、日本人が信じている「一方的な情報」にあえて「一石を投じた」という見方もできなくはないのだ。

▼由紀夫氏はおおまかにいって、(1) クリミア半島が元々はロシア固有の領土であること、(2) クリミアに住む国民が選挙で圧倒的多数でロシアに帰属させるべきだと投票をした事実を評価、(3) ロシアとウクライナは兄弟のような関係だから、他国の干渉を受けず、双方で平和的な解決を模索するべきだ、との意見を述べている。……筆者に言わせれば、必ずしも大きく外れたことは言ってはおらず、理路整然とした意見を言っているように見える。

▼ロシア=ウクライナ問題のような重要案件については、マスコミたるもの「きちんと掘り下げて、表面的ではなくフェアな立場で事実を報道すべきだ」ということだ。そもそも、ウクライナ問題を語れる評論家は少ない。現場の一次情報はほとんど日本に入ってきていない。主に「欧米のフィルター」がかかったニュースが、お茶の間に報道されているのである。それゆえ、あたかも欧米のニュースが国際世論であるかのように見える。だが注意深く観察すると、実際には米国の息のかかった偏った一方的意見であるとの見方もある。

▼なぜなら、NATO加盟国以外の世論は、といえば、実は中立の立場でウクライナ問題を扱っているからだ。米国の「内政干渉」によるウクライナの混乱に対して、NATO加盟国以外の世界の世論は、中立の立場である。中立の立場とは「米国の意見も聞くし、ロシアの意見も聞く」という、子供でもわかる理屈である。今批判されている由紀夫氏の考え方は「ロシアの意見も聞く」という当たり前の意見を言っているにすぎない。

▼「クリミアはロシア固有の領土であり、北方領土は日本固有の領土である」。由紀夫氏がクリミアに対して表明した正論は、実は北方領土問題にそのままあてはまるロジックであることを、日本国民の大半は気づいていない……。

的を射た発言である。中村はレアメタルのビジネスで知られた人物でロシアとも関わりが深いだけに、この狂騒事態の核心を的確に捉えている。15日の「サンデー・モーニング」を観ると、大宅映子や寺島実郎がまさに中村が言う「大人げないコメンテーター」を演じていて深く失望する。

クリミア現地に行って真っ先に体感するのは、ロシアによる実効支配はすでにあまねく行き渡っていて、1年前の住民投票が合法であるか否かについてウクライナ・米欧とクリミア・ロシアとの間に論争は残るけれども、現実にクリミアが再びウクライナの下に戻る可能性は絶無だということである。

池上彰は週刊文春の連載コラムの3月5日、12日両号で「クリミア半島はいま」を書いていて(最近行ったような書き方をしているが、ロシア側に確かめると行ったのは昨年夏頃のようで、その時は外務省はどう対応したのだろうか?そして、今になってこのコラムを書いて彼はどうしてスキャンダルの血祭りにあげられないのだろうか?答えは簡単で、彼は「鳩山」でないからだ!)、その中で、

▼クリミア半島はいまはロシアが実効支配していて、平穏である。

▼公共事業が増えて失業率が低下した。給料も平均で3倍になり、インフレはあるが、生活は前より楽になった。

▼一番変わったのは医療保険で、ウクライナ時代は治療費がほぼ全額自己負担だったのに対して、現在はすべて無料になった。高度な医療が必要な重病患者が出た際には、モスクワの医療機関に運んで治療が受けられるようになった。

▼小学校5年生のクラスで「ロシアになって良かったと思う人」と問うと、1人を除いて30人が挙手した。

──などの事実を伝えていて、その通りだろう。因みに、給料だけでなく年金もロシアの制度に組み替えられて、支給金がウクライナ時代の少なくとも2倍になった。

この「平穏」ということには特別の意味があって、私が接した何人かの人たちがそれを強調した。1年前のキエフの政権崩壊後、ウクライナ東部が血みどろの内戦に突入して行く中で、クリミアにも親米欧派の武装勢力が侵入してクリミア駐在のウクライナ軍部隊や反ロシア派のタタール人指導者たちと連携して反露争乱を引き起こそうとしたが、プーチンの素早い決断で自警団(及びロシアの覆面部隊)による予防措置が徹底され、その下で住民投票実施によるロシア編入が決行された。それを、「ロシア軍の軍事侵攻による力をもってしての領土変更」と見るか、「住民の自発的意思による独立、そしてロシア編入の選択」と見るかは、それこそ見方が分かれるところではあるけれども、少なくともクリミアの圧倒的多数の人びとが「クリミアが血みどろの内戦に転がり込まなかったのはプーチンのお陰」と心底思っているのは事実である。

実際に首都シンフェローポリでもヤルタやセヴァストーポリでも、治安は東京並みに行き届いていて、街中や街道筋はおろか政府関係の建物でも銃を持った警備兵など一人もおらず、警察官の姿さえほとんど見かけない。何よりも人びとの表情が平安で、武力による威圧の下で一方的にロシアに編入されたというキエフや米欧の捉え方には何の根拠もないことが分かる。

この状況で米欧や日本が「クリミアはロシアに武力制圧された」というキエフ政府の虚構にいつまでもしがみついていると、永遠に制裁解除は出来ないことになり、それはロシアのみならず西側の利益にもならない。多くの人がクリミアにも、また内戦が収まるに連れてキエフやウクライナ東部にも入って実情を我が目で確かめ、現実に即した解決策を大いに議論すべき時である。

 

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.177より一部抜粋

【Vol.177の目次】
1.《INSIDER No.776》
一体何なのか、鳩山クリミア訪問を巡る狂騒
──異論を許さない嫌~な国柄へ

2.《FLASH No.090》
「農協潰し」は安倍政権の政治的怨念

3.《CONFAB No.175》
閑中忙話(2015年03月08日~14日)

4.《SHASIN No.153》付属写真館

『高野孟のTHE JOURNAL』

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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