東電の自浄作用は期待薄
東電は2015年2月24日に、福島第一の排水路(K排水路)を流れる雨水の汚染が雨のたびに上昇し、高いときには排水口の出口付近でベータ線を出す放射性物質が1500ベクレル、放射性セシウムが約1000ベクレル検出されていたことを発表した。
東電は、K排水路の水の分析を2014年4月から継続的に実施していたが、数値はもちろん、分析を続けていることも明らかにしていなかった。海に出していい法定濃度限度は、1リットルあたりセシウム134が60ベクレル、137が90ベクレル、ストロンチウム90は30ベクレルだ。
おまけに前述した数値は昨年夏のもので、東電が早い時期に、雨水が源とはいえ極めて高い濃度に汚染された水が、排水路を通じて海に流れ出ていたことを把握していたこともわかった。
東電はまた、2号機に隣接する大物搬入口建屋屋上の水溜まりから、ベータ線を出す放射性物質が5万2000ベクレル、セシウム134と137の合計で2万9400ベクレル検出されたため、この水溜まりが排水路の汚染源だと説明した。
このような情報隠蔽としか見えない東電の姿勢に、福島の地元や県議会、漁業関係者は一斉に反発。とくに福島県漁業協同組合連合会は、サブドレンからくみ上げた地下水を浄化して海に放出するという東電の計画について協議を続けている途上で、発表の翌25日に開かれた説明会では「信頼関係が崩れた」「漁業者を甘く見ているのか」(2月25日共同通信)など、厳しい言葉が続いた。
一方、このような反発の声に対する政府、原子力規制委員会の反応は鈍かった。2月25日に開催された規制委の定例会合では、K排水路の件が明らかになる前の日に別の排水路で原因不明の汚染濃度上昇があった件については議論したものの、情報隠しのようなK排水路については触れなかった。田中俊一委員長は会見で、規制庁が流出防止策の徹底を指示していないことについて、「監視評価検討会でもそういう話をしているのだから、放置していたとは思っていない」と回答し、規制委/規制庁の責任は否定した。
しかし特定原子力施設監視・評価検討会に東電が提出してきたK排水路の資料は濃度の低い時に測ったものばかりだった。一部の委員にデータ不足の認識はあったものの、「データを整理してから」という常套句でグズグズと1年間も提出を先送りした東電に、指示を徹底することはできなかった。
経産省資源エネルギー庁は、2月26日に実施した中長期ロードマップについての記者レクで、私を含む複数の記者から指摘を受けて、昨年のうちに東電がK排水路でデータを採っていることを認識していたこと、しかし情報を公開するという意識はなかったことを認めた。
こうした経緯を振り返ると、今回のK排水路を巡る騒動は、東電の責任はもちろん、東電に情報を出させることができなかった資源エネ庁、厳しい姿勢で対策を求めなかった原子力規制委/規制庁にも問題があったいえるだろう。
菅義偉官房長官は2月25日の会見で改めて「状況は完全にコントロールされている」と述べたが、政府はまず、東電を完全にコントロールすべきだ。このような情報隠しが続くのでは誰の信頼も得られず、事故収束作業もスムーズに進まなくなる。
著者/木野龍逸(フリージャーナリスト)
自身のブログ「キノリュウが行く」で東電原発事故を中心に情報を発信中。「ハイブリッド」(文春新書)など著書多数。メルマガには福島第一原発事故の現状について、また原発以外の話題についてもブログやツイッターでは読めない話題が。
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