下町の職人魂が世界を変えた。墨田区の金型職人・岡野雅行の執念

 

日本に生まれてよかった

岡野さんの会社は儲かっているから、社員旅行も25年前から家族連れの海外旅行だ。しかしハワイとかグアムのような観光地ではなく、ボルネオとかニューギニア、スリランカ、タイやフィリピンといった発展途上国に行く。

20数年前、フィリピンのミンダナオ島に行ったときのことである。従業員の家族を含めて総勢20人くらいで、ジープに分乗してバナナ農園に見学に行った。ゲリラが出没する土地で、危ないから現地の案内役をつけたほどだった。

バナナ農園で、ちょっと形の悪いバナナをたくさんもらって、またジープで戻ってきて、そこいらにいる漁村の子供たちに一房あげると、すぐに奪い合いのケンカを始めた。すると漁村の村長らしき人が出てきて、子供たちからバナナを取り上げ、並ばせて順に配り始めた。

現地の子供たちはバナナなんてたくさん食べていると思っていたのだが、彼らにとっては高級品で「バナナなんか食べたことがない」と言う。当時のミンダナオ島はそれくらい貧しかった。

泊まったホテルでも工場でも、フィリピンでは人が余っているから、みなクビにならないように本当に一生懸命働いている。こういう姿を見て、日本に帰ってくると皆「日本に生まれてよかった明日からまた頑張って仕事をしよう」と思う。

あきらめずに挑戦し続ければ最後にはできる

日本でも少し前までは、みな真面目に働いていた。

よく親父が俺に言っていた。「おまえらの時代は運がいいんだ。みんな不真面目なやつらばっかりだからちょっとやれば儲かる。俺たちの時代はみんな真面目だから儲かりゃしないんだ」と。今の時代もそうだと思う。

 

今の若い人たちに言いたいのは、何しろ「手に職をつけろ」ということ。何か一つ、得意なことがあればそれをずっと努力して練習して伸ばしていく。そうすれば絶対に食いっぱぐれない。

 

その「得意なこと」を伸ばしていくためには、目先の利益を考えたり、誰でもやれるような事をやっていたのではダメだ。誰もやらないような仕事に挑戦して、失敗を積み重ね、その中から自分だけの技術を生み出していく。

 

途中であきらめてしまうから本当の失敗になる。あきらめずに挑戦し続ければ最後にはできる。「もうダメだ。やめた」。これが本当の失敗。でも、やめないで続ける。いくつも材料を無駄にする。でも、そのうちできる。絶対できる。これは失敗ではない。

今、日本は我慢のしどころなんだ

バブル崩壊後の日本が元気を無くしたのは、安易な利益に溺れて、難しい仕事に挑戦する気風がなくなったからではないか。岡野さんのように、一途に自分の仕事に取り組む人がどれだけいるかで一国が元気かどうか決まる。岡野さんは言う。

中国だっていつまでも上り調子じゃないよ。日本も昔はいいときがあった。今、日本は我慢のしどころなんだ。失敗を繰り返すのを我慢するんだ。我慢していれば必ずまたきっと上り調子になる。…

 

上り調子になるまでの間は、技術を蓄積して、いつか来るチャンスに備えておくことだ。絶対にいいときがまたやってくる。

文責:伊勢雅臣

image by: Shutterstock

 

Japan on the Globe-国際派日本人養成講座
著者/伊勢雅臣
購読者数4万3,000人、創刊18年のメールマガジン『Japan On the Globe 国際派日本人養成講座』発行者。国際社会で日本を背負って活躍できる人材の育成を目指す。
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