何が鶴見辰吾を変えたのか? 失っていた「ジブンの時間」の大切さ

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働き盛りの3、40代ともなると、仕事や育児に忙殺され「ジブンの時間」を持つことはどうしても難しくなります。そんな忙しい日々を送るオトナになっても新しいジブンを発見することはできるのでしょうか? オトナになって失った「ジブンの時間」を復活したくても、どうすれば「ジブン」を再起動できるのか分からない…ならば再起動できた人に聞いてみよう。というわけで、MAG2 NEWSでは趣味に仕事に忙しい日々を送っている俳優の鶴見辰吾さんに、「ジブン時間」をどうやって取り戻したのか、悩めるオトナたちに向けてエールを送っていただきました。

何が俳優・鶴見辰吾を変えたのか?

仕事、育児、年齢的問題。様々なことに追われ、生きる上での新鮮さをなくしたとき、人はどのように“再起動”すればいいのだろうか。そのヒントを掴んだ人物がいる。“芸は身を助く”を地でいく俳優鶴見辰吾(52)だ。40代から始めたロードバイクを皮切りに、バンド活動、スピードゴルフ、マラソン…と趣味を挙げたらきりがない。その多趣味ぶりが俳優業はもとより、生き様にも大きな影響を与えている。海外作品挑戦もその一つ。現在公開中の韓国映画密偵では、ソン・ガンホ、イ・ビョンホンら人気韓国人俳優と肩を並べてBAD GUYぶりを発揮。韓国では750万人がその熱演を見届けた。趣味は、鶴見の一体何を変えたのだろうか。

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何事もやってみなければわからない

ハリウッド進出も果たしたキム・ジウン監督が、約6年ぶりに韓国映画界にカムバックした『密偵』は、日本統治下にある1920年代の韓国が舞台。鶴見は独立運動団体・義烈団の撲滅を目論む朝鮮総監府警務局部長ヒガシを演じている。『密偵』は韓国で大ヒット。第89回アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表作品にも選出された。

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海外作品への挑戦を後押ししたのは、趣味から得た力も大きい。「自転車は40代半ばから始めました。ある時、都内から沼津の現場まで自転車で行ったことがありました。それは明らかに滑稽な行動なんだけれど、そんな自分がいることもやってみて初めてわかった。それがあって、前だったらやらなかったことも、やってみなければわからないからやってみようという考え方に変わった」と実感を込める。

俳優業だけに固執せず、バラエティ番組に顔を出すスタンスもそこからきている。「テレビドラマや映画に出ているだけでは、俳優というのは案外名前を憶えてもらえないもの。ヒットした作品の役名や印象では残るかもしれないけれど、名前を憶えてもらい、認識してもらうためには、趣味を磨いたり色々な場所に出たりしてどんな人間なのかを知ってもらうことも必要」と芸歴40年目にして辿り着いた境地を口にする。街で若者に見かけられた際には「いつも自転車に乗ってる人だよね、と思ってもらえたらそれで十分」と余裕の笑みだ。

鶴見にとって趣味とは「自分の意外性を発見させてくれるもので、その意外性は可能性にも繋がり希望や新たな挑戦へのモチベーションになる。自分の物事に対する態度や考え方を積極的に前向きにさせてくれた」もの。次なる新たな趣味にしようとしているのは、韓国語だ。「韓国映画界の熱量に刺激を受けまして、『密偵』のキャスト・スタッフに再会したときのために勉強しようかと。でも50歳を過ぎての語学習得は本当に苦しい! 半年くらいやりましたが、今は仕事が忙しくてちょっと挫折中」と頭を抱える一方で、新たなる挑戦に生き生きとしている。

新人になった気持ちで挑戦

韓国映画は2011年の『マイウェイ 12,000キロの真実』以来2度目。鶴見が出演した日本映画『DEAD OR ALIVE 犯罪者』『レイクサイド マーダーケース』、大河ドラマ「軍師官兵衛を気に入ったジウン監督からの直々のオファーだった。「内容が酷かったり、外国映画にありがちな偏った日本人像を描いていない限り、海外映画出演にも前向き。それに外国映画だと“鶴見辰吾”というネームバリューは通用せず、実力が試される。リフレッシュという意味も込めて、新人になった気持ちで挑戦しようと思った」と二つ返事で出演快諾。

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撮影地は韓国。スタッフ・キャストも韓国勢というアウェーな状況。だが映画作りに国境はなかった。「ジウン監督は細かい演出はせず、俳優に任せるタイプ。じっくりと観察しながら、何かあるとボソッと言う人で、照明部、録音部、演出部の雰囲気や風貌、立ち振る舞いも声を聞かなければ日本とほぼ同じように思えた。国も文化も違うのに、こと映画作りおいてはどうしてこうも変わらないのかと驚いたほど。現場に慣れてくると韓国語が日本語に聞こえるくらいでした」と目を丸くする。

日本映画界も見習うべき慣習

撮影現場の様子は日本とほぼ変わらなかったが映画に対する熱量は大きく違った。韓国での完成披露試写会後の打ち上げには、200人ほどが集まったそうだが「そのほとんどが『密偵』に関わっていない映画監督や俳優なんです。そういった人たちがわざわざやって来て映画の完成を祝福する。ライバルとして戦うところは戦うけれど、お互いのいいところは認め合い褒め合い高め合う。韓国映画界全体にそういった風潮があって、映画に対する愛が凄い。そこは日本も見習うべきだと思いました」。質の高い作品が生まれる理由の一端を垣間見た気がした。

東京の出張から帰ってくるお父さん

義烈団撲滅のためならば、拷問も厭わぬ冷血非道な男を不敵に演じきった鶴見だが「韓国という異国の地に一人で行って、韓国人スタッフに囲まれながら韓国人俳優を痛めつけるわけですから…演技といえどもドキドキしましたよ! とくにハン・ジミンさんは舞台挨拶で僕のことを気遣ってくれるようないい方なので…。本当に申し訳なかった!」と役柄とは裏腹に恐縮しきり

敵対したのはカメラの前でだけ。「女性スタッフも多かったので、僕が日本から韓国へ戻るときにはロイズの生チョコをたくさん買って差し入れて喜ばれたりしていました。ジウン監督からは鶴見さんは東京の出張から帰ってくるお父さんのようですね』と言われたりして」と照れ笑い。直属の部下を演じたガンホとはアルコールで意気投合。「最近の韓国ではチャミスルのブーム以来、度数の低い焼酎が人気で、ガツン!とくる焼酎が少ないんです。ガンホさんは見た目同様にガツン! とくるような焼酎好きなので、日本の焼酎を持って行くと『日本の焼酎は最高だ!』と大喜び。キリンビールも好きなんです」と劇中の緊迫感がウソのようだ。

取材・文・撮影:石井隼人

source:密偵

石井隼人

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