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中銀と市場の攻防【フィスコ・コラム】

脱コロナのオーストラリアで、金融引き締めへの思惑をめぐり中央銀行と市場の攻防が繰り広げられています。来年にも利上げ開始との市場観測の熱を豪準備銀行が冷却する「化かし合い」は当面続きそうですが、豪ドル高を抑制できるか注目されます。

豪準備銀行(RBA)は3月2日に開催した定例会合で、政策金利と豪3年債利回りの誘導目標0.1%の据え置きを決定。ロウ総裁はその後の記者会見で、政策金利を2024年まで現行水準に維持する可能性を示唆するともに、3年債利回りについても誘導目標の変更を否定しました。中銀の政策決定で示された今後の方針を受け、豪ドルは失望感からいったんは値を下げる展開となりました。それには伏線があります。

2月25日に発表された昨年10-12月期の民間設備投資は前期比+3.0%と予想の+1.0%を上回りました。予想外にサービス業の設備投資が膨らみ、前期比+3.0%(予想+1.0%)はサプライズに。指標を受け早期正常化期待が高まり、翌26日の取引で豪10年債と5年債の利回りが上昇。RBAは3月1日に国債買入れを増額したため、市場がさらに踏み込んだ対応を期待したことが政策決定後の失望感につながりました。

しかし、豪政府が新型コロナウイルスのまん延を抑え込んだことから、市場関係者の間では来年にもRBAが政策金利の引き上げに踏み切るとの見方が根強いようです。昨年10-12月期の国内総生産(GDP)は前期比+3.1%と、市場予想の+2.5%を大幅に上回りました。先の設備投資の改善を裏付けた格好で、やはり目先0.1%の誘導目標に変更を加えると先読みした投機筋は、空売りを仕掛けます。

対するRBAは投機的な動きを封じようと、3年債の一部を空売りする際の貸出し料を大幅に引き上げました。RBAのこうした措置は市場に対する強力なメッセージとなったもようで、その後豪3年債利回りは過去最低水準に落ち込みました。ただ、豪ドルの上昇を抑制するにはなお不十分のようです。やはり豪米金利差から豪ドルが対ドルで底堅い値動きは目先も続くでしょう。

3月16-17日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、昨年12月時点よりも利上げ時期が前倒しされる可能性を感じ取ることができます。が、予想よりもハト派色の強いトーンと市場に受け止められたことから、米長期金利の低下でドル売りに。その直後に発表された豪雇用統計は顕著に改善して豪ドル買いに振れ、またしてもRBAのスタンスが注目される状況になっています。

専門家は豪労働市場では余剰生産能力を解消するのに数年を要するとの見方から、RBAが主張しているように目先も政策金利の据え置きを予想しています。ただ、原油高の影響も加わり、豪ドル買いは縮小しそうにないのが実情と言えそうです。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

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