政府は首都圏1都3県に出されている緊急事態宣言について、21日で解除することを正式決定しました。感染防止策は「打つ手なし」の状況で、宣言延長後の人出はむしろ増えています。国民は自粛疲れか、宣言慣れしたか、はたまた政府の「お願い」を無視する静かな反乱が起きている状況で、これに政府が対応できなくなったともいえます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
宣言延長しても打つ手がない
政府は18日、新型コロナウイルス対策に関する諮問会議を開き、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県に対する緊急事態宣言を21日の期限をもって解除することを諮問、了承されました。
表向きはすでに新規感染者数が減り、病床のひっ迫度合いも改善されたので、経済に負担となる宣言を解除する、ということになっています。
しかし、実態は時短要請を伴う緊急事態宣言を延長しても、感染抑制につながる手が打てず、行き詰まり感が強まっていました。
現に、首都圏の4都県では、宣言延長後の人出がむしろ増えていて、国民が自粛疲れか、宣言慣れしたか、はたまた政府が有効な改善策を打ち出せない中で、国民にだけ自粛を要請することに、静かな反乱がおき、これに対処できなくなったともいえます。
抑制効果なき「時短要請」
実際、夜8時を過ぎても営業を続ける飲食店の前には長蛇の列ができ、まじめに時短に協力している店よりもはるかに「繁盛」しています。
東京都はこれら企業の一部に時短命令を出し、その中から課金を求める動きが始まりました。しかし、これらの企業はたとえ30万円の課金を払っても、従業員を雇ううえでは営業を続けざるを得ないとの事情を話しています。
これらは、政府に打つ手がないのではなく、政府が現実を踏まえた適切な対応をしていないために、政府の要請にこたえられない企業が多く、これを支持する客が多いことを露呈しました。
米国からは「科学的に」行動するよう求められ、超大型コンピューターで飛沫の飛び方を解析していながら、科学的とは言い難い時短要請と一律6万円の協力金で「お願い」しているだけでした。
Next: やることをやらずに「打つ手なし」? 欧米と比べても対応が甘すぎる
感染防止無策を露呈
新型コロナウイルスの感染者、死者の数でみると日本は欧米よりも少なく、「うまくやっている」ように見えます。
しかし、一部の人が指摘するように、政府も東京都知事も実は感染防止に何もせず、国民の不安を煽って国民自身が自粛した成果が出ただけ、といいます。
実際、日本で行われたことは、飲食店に協力金付きの時短を要請し、国民に不要不急の外出自粛を「お願い」するだけでした。
素人目に見ても、夜8時以降の飲食は感染リスクが高く、日中や夕方の飲食は安全という保証はありません。昼間からマスクを外して飲食し、大きな声で話をすれば感染しやすいことはコンピューターのシミュレーションでもわかっていたことです。
欧米の対応は合理的?
その点では、欧米の対応と大きく異なります。
例えば、米国では公衆衛生規則があり、飲食店、オフィスを問わず、6フィート・ルールが設けられています。感染の状況に応じて、つまり感染が急増している時期には、屋内での飲食を禁じ、屋外のテラスのみの営業となり、状況が改善すると、屋内営業を認めながら、客同士の間隔を6フィート(1.8メートル)以上とるよう求めています。
これはオフィスにも適用され、従業員がオフィスワークをする際にも、6フィートの間隔をとらねばなりません。テレワークが増えてオフィスに通う人が少なくなれば、そのスペースがとれますが、テレワークが進まない業務では、より広いスペースと換気の良いオフィスに移らねばなりません。
またニューヨークのマンハッタンでは、感染リスクの高い公共交通機関の利用を避け、自転車や徒歩通勤を勧めています。それでも自転車専用レーンが限られているため、皆が自転車通勤をすると、大きな道路に自転車があふれてかえって危険になるリスクもあります。日本では自転車通勤の体制もできていません。
日本ではテレワークをお願いするものの、実際にはテレワーク比率は2割台にとどまり、通勤電車の混雑はあまり緩和されていません。路線によっては収益の悪化から運行便数を減らしているために、結局混雑が緩和されなくなっています。これらについても日本は具体策をとっていません。混雑緩和のために客が減っても営業が維持できるよう、公共交通機関への支援が必要です。
そして台湾、ニュージーランド、オーストラリアなど、日本と同じ海に囲まれた国では、徹底した水際対策と、検査の徹底で、感染者の入国を抑え、感染者を検査でいち早く見つけ出し、隔離する政策を徹底したことで、日本よりもはるかに安全な状況を作り出し、経済への負担も小さくなっています。
やることをやらずに「打つ手なし」とは、責任逃れ以外の何物でもありません。
Next: 感染防止する気がない?政府の「お願い」を無視し始めた日本国民
感染防止する気がない?
政治家に医療の専門知識がないのはやむを得ないとしても、それを補う「専門家を集めた委員会」を立ち上げ、彼らの意見を聞きながら対応していることになっています。
それがこの様ということは、専門家が本当の意味での専門家ではなく、政府の言いなりになる人が集められたか、専門家がものを言えない環境にあるか、いずれにしても専門家の知恵が生かされていません。
国民から見れば、政府に感染防止をする気があるのか、はなはだ疑わしく見えます。
政府にその気がなく、あるいはうがった見方をすれば、感染をある程度放置し、欧米のワクチンメーカーの商売に協力すべく、あえて国民の感染不安を煽っていると言いたくなります。日本のワクチン開発体制は遅れ、抗ウイルス薬があっても、未だに承認されません。
政府ははなから徹底した水際対策をとらずに、「集団免疫」獲得を目指し、国民の多くが感染して抗体を得るか、ワクチンを接種して人工的に抗体を得る方向を選択したようです。
政府は欧米のワクチンメーカーから価格交渉もせずに、必要な回数分を確保をしたと「成果」を訴えています。しかし、そのワクチンも何時・どれくらい入ってくるのか目途が立ちません。
年内に集団免疫を獲得して経済社会が正常に戻ることはほぼ不可能となりました。国民は絶えず命の不安を抱えてコロナと対峙しながら、不自由な生活を余儀なくされることになります。
静かな反乱が始まった
もはや政府の緊急事態宣言はただのお題目になり下がり、国民は反政府デモこそ行いませんが、政府の「お願い」をほぼ無視して行動しています。
何もできない政府に、国民が静かな反乱を起こし始めたと言えます。
かつて財界の雄、石坂泰三氏が「もうあんたには頼まない」と頼りない政治家を切り捨てましたが、今や国民が頼れない政府に見切りをつけようとしています。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年3月19日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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