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LINE問題で株価下落、親会社Zホールディングス株は割安か?2事業がお荷物、成長拡大の条件とは=栫井駿介

LINEの個人情報を中国や韓国で管理していたということが問題になりました。これは果たして、親会社・持ち株会社である「Zホールディングス」への投資のチャンスになるのでしょうか。ビジネスの観点から、投資の是非について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

Zホールディングスの株価下落、投資チャンスか?

今回はLINEについて解説したいと思います。LINEの個人情報を中国や韓国で管理していたということが問題になりました。これを受けてLINEの親会社・持ち株会社であるZホールディングスの株価はこのように値下がりを続けています。

Zホールディングス<4689> 日足(SBI証券提供)

これは果たして、Zホールディングスへの投資のチャンスになるのでしょうか。

ビジネスの観点からこの投資の是非について議論したいと思います。

個人情報を韓国で保管、中国から覗き放題だった

まずLINEの何が問題だったのか、そもそもいったい何が起きたのかということから入らなければなりません。

中国で個人情報が見られる状態であったということに対して、多くの人が危惧していまして、政府や自治体などはLINEの使用をやめるというようなことにも動き出しています。

LINEというと8,000万〜9,000万人弱の国内スマホユーザーがほとんどダウンロードしているものなので、多くの人がこれに対して非常に敏感になっています。

中国と韓国という国が出てきますが、LINEは主に日本で使用されているのですが、実はこれらの国々で外部委託のような形で運営しています。中国に関しては、オープンチャットなど誰でも外から見られるようなやり取りをする場所があるのですが、そこに対して不適切な内容の投稿があった場合に、これを通報する仕組みがあります。その通報されたものが本当にいけないものなのかどうかということを監視するために、モニタリングを中国の大連というところで行っていました。

これによって、そのテキストをそのまま見ることができるので、要するに中国からそこのオープンチャットなりにアクセスして、そこに書かれている情報を読むことができたということです。

また韓国に関して言えば、画像などをいったんサーバーに保管することになるのですが、そのサーバーが韓国に置かれていたということです。

LINEで送った時には相手だけに送られていると思われるかもしれませんが、インターネット回線を通じている以上、やはりそういったデータは一度どこかを経由して、そこに蓄積されていくということになります。

利用者はこのようなことを常に頭に置いておかなければならないのですが、LINEも最低限の注意は払っていて、例えば電話番号だとかそういった個人情報は国内のサーバーに保存していたと言いますし、またお金に関する決済関連、LINEペイなどありますが、そういったものの管理はすべて国内で行っていたようです。

したがって、この中国に関してもそのチャット見たからといって、すぐさま個人を特定できて情報を見られたとか、あるいは韓国に関しても韓国のサーバーを弄られて情報が抜き取られるといった状況ではなかったということが考えられます。

何が問題だった?

では、何が問題だったのか。

まずこの中国に関して、中国への委託というのは実は珍しいものではなくて、多くのIT企業が中国の中でもより人件費の安い大連に外部委託することによって、コストを引き下げて企業として利益を出そうとしています。

多くの企業がやっているのですが、LINEはとにかく利用者が多いということで、これが今まで明るみに出ていなかったところが出てきたということで、問題になっているということになります。

ただし、それを見逃していいかというと必ずしもそうではなくて、中国は法律で中国国内にあるサーバーはすべて中国政府が監視できるという形になっています。

したがって、やはり中国でインターネット回線に繋いで何かをやる時には、すべて政府の監視下に置かれているという風に考えた方がいいと思います。

そういったことを知っている人もいると思いますし、中にはかなり誇張して考えられている方もいると思うのですが、ただ間違いなく言えることは、中国での情報の取り扱いにやはり最大限の注意が必要であるということを、LINEはそこまで気を使っていなかったところはあると思います。

また、このLINEというと主に日本で事業を行っている会社なんですが、元々韓国のネイバーという会社が立ち上げた会社ですので、そのサーバーが韓国にあるというのは何ら不思議ではありません。むしろ自然なことと言えます。

後述しますが、LINEとヤフーが経営統合したのですが、その持ち株会社であるZホールディングスの株主として、このネイバーは未だに残っています。その点は重々知っておいて下さい。

しかも、個人情報ではなく画像などを保管していたということですが、中国とは違って、韓国にあるものがすべて政府の監視下にあるとか決してそんなことはなくて、法律上のたてつけは基本的には日本に置いているのと変わらず、ちゃんと外に漏れないようにはなっているということdせう。

とはいえ、やはり日本ではないということも不安がありますし、何よりこういった情報を海外で保管しているということは利用規約の中で述べられていたのですが、それを具体的に韓国といった国名を挙げることはありませんでした。

これを意図的に隠したかどうかは定かではないのですが、利用者に対して説明が十分ではなかったのではないかということが考えられます。

いずれも意図的に個人情報が漏れていたとか、そこまで悪質なものではないという風に考えています。

LINEもこれを受けて世の中の反応が思いの外大きいので、この中国への委託もやめるということにしていますし、サーバーも今年にかけて全て日本に移すというようなことを言っています。

したがって、経営上致命的なものになる可能性は低いのではないかということが考えられます。すべて突いていったら、何も引っかからないという会社はほとんど無いのではないかと思います。

Next: 世間の反発がすごかった。株価下落は投資チャンスと言えるのか?



投資のチャンス? Zホールディングスを分析

それほど悪質ではない不祥事ということになりますと、今の株価下落というのは、この親会社である「Zホールディングス」への投資のチャンスになるのではないか?と、我々のようなバリュー投資家は考えてしまいます。

しかし、このZホールディングスは必ずしもLINEだけではなくて、ヤフーと統合したので、インターネット業界における様々なビジネスを行っています。

なので、その全体を見ることで、LINE、ヤフー、またZホールディングスの今後の未来を見通して、投資できるかどうかということを考えなければなりません。

では、そのヤフーとLINE、すなわちZホールディングスの現状について見ていきたいと思います。

いま資本構成が非常に複雑になっているのですが、皆さんが株を買えるのは、この「Zホールディングス」ということになります。

このZホールディングスという持ち株会社の傘下に、100%子会社としてヤフーとLINEが入っているということになります。

ただ、現状で買えるZホールディングスの株というのは34.7%しかなくて、残りの65.3%はAホールディングスという会社が持っています。そして、Aホールディングスの株を保有しているのがソフトバンクとNAVERで、それぞれ50%ずつ持っています。

これはいわゆる中間持ち株会社ということで、中身がないものです。したがって、このZホールディングスの株主構成は、一般株主34.7%、そして携帯会社のソフトバンクが32%、それからNAVERも32%というような持ち株比率となっています。

さらには、このソフトバンクの親会社としてソフトバンクグループがいますが、このソフトバンクグループがソフトバンクの40%を持っています。

したがって、いずれもソフトバンクグループの孫正義さんの傘下にあると思っていて下さい。どんどんこの「ソフトバンク帝国」が拡大しているという風に見て取れます。

ましてこの日本最大のポータルサイトである ヤフーと、日本最大のチャットツールであるLINEが統合したということで、もはや私たち日本人は「孫正義帝国」から逃れることはできないでしょう。

帝国拡大も業績は伸びていない?

さて、このヤフーとLINEですが、様々なビジネスとサイト運営を行っています。

メディアという意味では、ヤフーのポータルサイトを中心に、天気とかニュースとかファイナンスといったものを様々やっていますし、ローカル情報、特に最近力を入れているのがコマースです。ショッピングとかヤフオク、PayPayといったところです。それからトラベル関係、さらに今後に伸びることが期待できるのはフィンテック関連です。ジャパンネット銀行がありますが、これはPayPay銀行になる予定です。したがって、この辺はぜんぶPayPayでまとめられてくるという話になりそうです。

これに、スマホとして国内で最大のプラットフォームである「LINE」が加わるというのは、もはやプラットフォームとしては、Zホールディングスに勝るものはないということになります。

その業績ですけれども、プラットフォームの拡大に伴って伸びているかというと、実は必ずしもそうではない側面があります。

Zホールディングスとその前身のヤフーの業績の推移ですが、青で示されている売上高は順調に右肩上がりに伸びています。これはロハコとかZOZOなんかも買収したりしているので、それに伴って一気に伸びている年もあったりで、右肩上がりに伸びています。

一方で赤の折れ線グラフで示した営業利益に関しては、2016年3月期をピークに見事に右肩下がりになっています。直近ではピークのところから半分近いところまで下がっているという状況です。

また、LINEに関しては単独で上場している時から思っていたのですが、ビジネスが上手ではないという風に私は思っています。国内で約9,000万に近いユーザーを抱えながら、売上高に関しては2,000億程度です。そして、直近2019年12月期に関しても赤字だったりするわけです。この赤字は後ほども説明しますが、LINE Payだったり、そのQRコード決済事業に関連するものだったりします。

いずれにしてもLINEは皆無料で使えてしまいますから、なかなか収益化の場所が無かったりして、やりようはいくらでもあると思うのですが、そこまで上手くできていないというのが現状です。

Next: 気になる赤字。囲い込みのために広告宣伝費をかけ過ぎた



囲い込みのためのキャンペーン・広告宣伝費をかけ過ぎた

ヤフーもLINEもなのですが、直近で大きく赤字が起こっているというところがあって、その要因として、2年ぐらい前にPayPay20%オフとかお金が当たるみたいなことをガンガンやっていたのを覚えていますでしょうか。当然、この「お金あげる」とか「20%ポイント還元」といったことはすべて費用となります。

とにかくQRコード決済で覇権を取ってしまおうと思ったが故に、各社どんどん広告宣伝費というような形でお金をつぎ込んで行ってしまいます。それが当然、利益にはマイナスという結果になっています。

またヤフーに関して、もっと大きなのが出店料無料です。実はヤフーのショッピングというのは楽天やAmazonの後塵をかなり拝しています。そこで、なんとかここでシェアを奪うためには……ということで、出店料を無料にしました。

出店料無料で確かにこのヤフーショッピングを使うお店というのは増えたのですが、ただ無料ですから、それで収益化するというのはなかなか容易ではありません。お店としてはとりあえず無料だからやっとくかという形で、とりあえず出店だけをするというのは頷けるのですが、それ以上でもそれ以下でもないというのが現状ではないかと思います。

もちろんユーザーは増えているので多少取扱量に関しては増えているのですが、ただここで収益的には悪化しているという状況が続いています。その結果が、先ほどのように赤の折れ線グラフで示した減益という形になって現れています。

いま右肩下がりになっている利益は、今後に伸びるのかどうか。そのことについて、投資家としては検討しなければなりません。

あくまで私の考え方ですが、出店料無料とかQRコード決済でばら撒いたものに関しても、すぐに直接的な利益結びつくものではないという風に考えられます。例えばショッピングに関しては出店が増えて、お店も増えて、そしてユーザーも増えてということはあるのですが、出店料が無料だったらお金を取るポイントがありません。

それから、このお金のばら撒きに関してもQRコードを使ってもらって、多少はお店からの利用料みたいなのを取る形にはなっているのですが、それはクレジットカードとの競争もありますから、やはりかなり安く抑えないといけないということから、あまり儲かる仕組みには今のところをなっていないというのが現状です。

一方で、このヤフーのポータルサイトからの広告収入は盤石です。ヤフーのポータルサイトはインターネットの初期から最も閲覧されているサイトですが、未だに最強という形です。この広告費というのもテレビからどんどんネットへ流れていますから、その流れが続く限りこの広告収入というのはかなり安定しています。グーグルを除くと、日本でここに勝るところはないという風に見えます。

Zホールディングスの今後の戦略は?

では、ここからどうするのかというと、おそらくこのショッピングやLINEを含めたコミュニケーションから、広告に誘導することで収益化を図るのではないかということが考えられます。

つまり、先程のショッピングでお金を取るポイントがないと言いましたが、考えられるとしたらとにかくユーザーが集まってきたということになると、お店は無料でお店を出しているのですが、それだけじゃせっかく来てくれたお客さんを自分のお店に誘導することができません。

そこでヤフーが出店者の皆さんがお金をヤフーに払ってくれたら、あなたのお店の広告を出しますよという風に言います。

このままやっていてもお店としてはなかなか物が売れないので、少しヤフーさんにお金を払ってみようかなというような形で、収益化を図ろうとします。

LINEに関しても今は個人間のやりとりがほとんどですが、最近少しずつ増えてきたのではないかと思うのですが、お店の公式アカウントを登録してもらって、逐一お店のキャンペーンなんかをお知らせすることがあります。私も使っているのですが、それを使うにはお店としては有料になるので、そこで定期的なお金を払ってもらうというような形になってきます。

このような形でヤフーの得意分野である広告を中心に少しずつ、収益化を図っていくということが想定されます。

ただ簡単でもない部分はあります。これらのサイトはポータルサイトを除けば、かなり競争が激しい分野でもあります。

この表はBCGマトリックスと言って、ボストンコンサルティンググループが開発したプロダクトポートフォリオマネジメントとも言うのですが、このように市場シェアと市場成長率を4つの象限に分けて、市場シェアが高くて市場成長率が高いのを「花形(スター)」、それから市場シェアが高くて市場成長率が低いのを「金のなる木(キャッシュカウ)」、それから市場成長率が高いけどシェアが低いのを「問題児」、最初からどちらも低いのを「負け犬」というような形で事業を分離することによって、この事業をどうやって扱おうかという風に考えるための1つのフレームワークです。

ヤフーやLINEは成長はそんなに急速にも望めるものではなくなっているので、これは金のなる木”キャッシュカウ”であるという風なことが言えます。それから市場成長率も高く、市場シェアも高いのがZOZOだったりします。買収して今およそ50%の株式をZホールディングスが持っています。

この辺だけだとはかなり安定感あるのですけれども、一方で伸びていない、むしろ減益に影響しているのがこのショッピングだったりPayPayです。PayPayは市場シェアはもう1位なのですが、収益化のポイントがやはりあまりないという形になっています。しかもショッピングに関しては楽天とかアマゾンは完全に後塵を拝しています。皆さん楽天とかAmazonはよく使うと思うのですが、ヤフーショッピングとかあまり使わないのではないでしょうか。

私自身はあまり使わないということから、出店料無料でお店は増えてきたかもしれないのですが、今のところ敢えてヤフーで買う理由はないというところではないかと思います。

ポイントに関しても楽天のほうが貯まるということもあるので、同じ値段で売られているのであればやはり楽天を選びたいし、楽に買おうと思ったらAmazonを選ぶという形になります。

こうやってなかなか一筋縄ではないというところではないかと思います。

Next: 苦戦中の事業をどう伸ばす?さらなる成長には飛び道具が必要



苦戦中の事業をどう伸ばす?

では、どうやって伸ばそうとしているのか。

これはヤフーの説明資料からですが、広告に関しては今まで通り少しずつ伸びていくのではないかという形です。利益には必ずしもなってないのですが、eコマースショッピングに関しても伸ばしていこうとしています。これはZOZOを買収したように、他も色々と買収して伸ばしていくという可能性もあるのではないかと思います。ZOZOやアスクルなどを買収してきました。

今後もヤフーのショッピングを強くしようと思ったら、その辺を買うということもまだ十分に考えられます。そして先ほど説明したようにお店から広告費用を取って、そこを収益化していこうというようなことが想定されます。

あとはフィンテックです。銀行とかその辺もあるのですが、1つ大きな可能性としてあるのは、PayPayを通じた個人への融資といったことが考えられます。すでに中国ではそういったことが行われているのですが、PayPayの支払い履歴とか、あるいはPayPay銀行の利用履歴などから、この人は信用があるのかどうかということを判断して、じゃあこの人だったら金利いくらで貸せるのかということをAIで判断して、お金を貸すというような仕組みが中国ではでき上がっていて、アリババ、アリペイの最大の収益源になっているわけです。

同じことをやろうとしているのではないかと思うのですが、日本ではまだ先は長いなという風にも考えられます。認可的な話もありますし、またそのやり方が果たして日本人に馴染むのかというような問題もあります。

さらなる成長には飛び道具が必要

業績は伸びるのかという疑問に関しては、少しずつは収益化していくことによって伸びるのでしょうけれども、大きく伸びるには、やはり飛び道具が必要になるのではないかという風に考えられます。

飛び道具というのは、例えば利益を出せるサイトの買収、今「BASE」といって新興企業で非常に簡単にショッピングサイトを作れるプラットフォームを提供している会社があります。この会社は決済まわりなんかもやっていて、それも使いやすいということで非常に評判が良いです。プラットフォームを利用して大きくするということが1つ考えられるのではないかと思います。ZOZOもこの内のひとつだったりします。

それから、PayPayを活用した、前述したような金融事業。時間がかかりますし、本当に上手くいくかどうか日本では分からないのですが、これで融資をすることができれば、ちゃんとリスクも測れて、そして金利が取れるということで美味しい事業になる可能性は秘めています。

またこの辺のデータを蓄積して、この人はすごく服に興味があって、PayPayで服をすごく買っているというようなことになると、そこに服の広告を流すといったソリューションも考えられます。

また法人領域の強化というのもあると思います。今ヤフーは法人に関しては実はあまり強くありません。ここでPayPayを皮切りに法人の決済とか、今テレワークなどで色んなシステムの会社がありますが、その辺に力を入れるということも1つ考えてはいいのではないかという風に見えます。ヤフーというと信用があるので、リクルートなんかともパッティングするとは思うのですが、この辺も必要になるということではないかと思います。

Next: 株価下落で割安になったのか?バリュー投資家が見るべき点



この下落で割安になった?

さてこれらの見通しを踏まえて、果たして株価は割安かということについて考えてみたいと思います。先ほど説明しましたように。株価は以下のように目先では下がっています。

Zホールディングス<4689> 日足(SBI証券提供)

ヤフーも目標という形で利益の見通しというのを出していまして、2年後の2023年には2,250億円の営業利益を出して、過去最高益を達成するという風な見通しを掲げています。

この数字に関しては、いま行っているマネタイズの施策を着実にやれば、無理な数字ではないという風には見えます。

では、この2,250億円という営業利益に対して、今の株価が割高なのか割安なのかということを考えてみます。

営業利益の2,250億円に対して、ZOZOは50%しか持っていないので、50%はZホールディングスの持ち分ではありません。したがって、ZOZOの利益が400億円ぐらいで、少し伸びて500億、その半分が外部株主、少数株主に持っていかれるとして250億円を引くとします。すると、営業利益2,000億円という数字が出ます。法人税なんかを色々払ったりして60%残ったとします、すると純利益がおよそ1,200億円という数字になります。

じゃあこれで何ができるのかというと、PERが計算できます。直近の時価総額が4.2兆円あって、純利益がそれに対して1,200億円だということになると、割り算すればPERが出せます。

4.2兆÷1,200億ということになると、結果、PERは35倍という数字になります。

直近の営業利益目標が1,600億円で、2023年2250億円になるということで、これから利益が増えることにはなっているのですが、ただその増えた利益に対してもPER35倍ということですから、決して割安といえる数字ではないと考えられます。

正直、広告だけでやっていた時の方が順調に伸びていて、しかもコストは最小限で利益がどんどん伸びていったのですが、ここ数年どんどんコストをかけたことによって、あまり利益が出にくい体質になってしまっているというのが1つあります。

それでPER35倍で今後も淡々と伸びれば、そんなに割高でもないと言えるのですが、よほど大きな飛び道具がない限り、PER35倍を正当化ができる程の大きな成長が見えるかというと、そこまでではないだろうというのが私の感覚です。

決して割安とは言えない

実際、なぜこうなったのかというと、下がったとはいっても、コロナの後一度大きく上がりました。

ここで少し上がりすぎた感があって、今の下落はLINEの不祥事ということもありますが、その上がりすぎた分の調整ということもあるのではないかと思います。

およそ適正な水準だとは思うのですが、大きく割安というわけではないので、いま下がったからといって、闇雲に参入するというのは避けたほうがいいかもしれません。

元々持っている人に関してはそこまで不安のある銘柄でもないですから、長期的な成長を期待してじっと持っているというのもありではないかと思います。いま闇雲にたくさん買うというような状況ではないということです。

まとめとしましては、このLINEの問題は決して致命的ではない、ただしこのZホールディングスはショッピングやQRコード決済でコストがかかっています。

この収益化というのも難しいですから、飛び道具、M&Aなんかがなければ、収益化にはかなり時間がかかるし、大きな利益は目先出せるものではなさそうだということで、株価は割高ではないにしろ、目標利益に対して割安でもないPER35倍というような形になります。

このように緻密に分析すればその企業が割高なのか、割安なのかということを見極めることができます。単に株価が下がったからと割安だということにはならないので、その辺はぜひ注意していただきたいところです。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Koshiro K / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年3月28日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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