創薬ベンチャー企業モダリス<4883>の大株主で、カリスマ個人投資家として知られる片山晃氏が半年のロックアップ期間中に同社株を売り抜いて市場に波紋が広がった。日本の株式市場の今後の発展にとっても、とても不幸な出来事だと思われる。時価総額がどうしてか低いと言われてきたモダリス株が上昇に向かうには、いったい何が足りないだろうか?(『億の近道』炎のファンドマネージャー)
小学生から証券会社に出入りし、株式投資に目覚める。大学入学資金を株式の利益で確保し、大学も証券論のゼミに入る。証券会社に入社後は一貫した調査畑で、アナリストとして活動。独立系の投資運用会社でのファンドマネージャーの経験も合わせ持つ。2002年同志社大学・証券アナリスト講座講師を務めたほか、株式漫画の監修や、ドラマ『風のガーデン』(脚本:倉本聰)の株式取引場面の監修を行う。
カリスマ投資家、ロックアップ無視で売り抜け
創薬ベンチャー企業のモダリス<4883>をめぐり、有名なカリスマ個人投資家が行ったロックアップ解除前の株売り抜け後の対応が話題となっている。
株式市場では上場前に、しかるべきファンドや個人エンジェル投資家などに株式を保有してもらうことになるが、その前提となるルールが予め決められていることは、それを引き受ける投資家には自明の話。
上場後の半年間は売ることができないという「ロックアップ」期間が設けられており、その説明も予め受けているはず。
問題となったカリスマ投資家は、若くして100億円以上の資産をつくったとしてメディアでも有名な人物。このことを知らずに上場後に割り当られた株式を売ってしまい、それが後で発覚して、会社側が驚いて発表に至ったという。
それに対応して、このカリスマ個人投資家も得られた利益のうちの一部を会社に返還するとしているのだ。
成長企業の株価に水を差す行為
モダリスは、東大発の遺伝子治療薬の創薬ベンチャーとして、2020年8月にマザーズ市場にIPOした企業だ。将来性が高く評価されており、時価総額は現在でも600億円近い水準となっている。
上場時は1,000億円を超えて、ユニコーン企業となって一段と市場人気を高めるかと見られた矢先に今回の問題が起きたので、とても残念な話だ。
日本の株式市場の今後の発展にとっても、とても不幸な出来事だと思われる。
ノーベル賞受賞の遺伝子治療、クリスパー技術を用いた創薬ベンチャーとしては、米国などの企業も存在していて、市場で高く評価されている。だがモダリスは、そうした企業群と比べて遜色ない位置付けがなされている一方で、時価総額がどうしてか低いと言われてきた。
その背景が、こうした上場前に引き受けた個人投資家の売り抜け行為にあったとすればうなずける。
仮にこのカリスマ投資家が、同社の今後の成長を期待して長期スタンスで保有する意識を持って保有していたら、こうした事態にはならなかっただろう。
売却した株価は3,000円か2,400円(時価は2,100円)の差にしかならないが、本来はもっと評価されるはずの企業の株価に水を差した行為となったように思われる。
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株価上昇に必要なのは説明力
創薬ベンチャーの経営者(森田CEO)は、本来はこうした事態に巻き込まれることなく、もくもくと新薬開発・技術開発に邁進して、投資家の期待に応える必要がある。
しかし、ロックアップ期間が明けた現在では、VCなど期間限定で保有する大株主に代わる投資家集めに奔走する必要が出てきたようだ。
新たなパイプラインターゲットを見つけないとならないし、大手製薬企業とのライセンス契約も締結しないとならない。
多忙なCEOにさらなる悩みが出てきたとすれば、それはこのビジネスや技術開発、治験状況を、株を手放したカリスマ投資家以外の多くの長期投資家に説明することだ。
オンライン説明会では多くの質問が飛び交い、丁寧な回答を行う森田CEOだが、一般個人にはなかなか理解しにくいし、分野が希少薬に限られているので、なかなか投資家には関心が向かない。
今後も時価総額600億円を正当化するだけのビジネスの方向性を示していく必要があるが、手っ取り早いのは、ライセンス先を決めることとなる。
ただ前期のようなこともあり、今期もまた年後半に…という曖昧な目標では、理解が得られそうもない。
とてもクレバーで社会的意義のある創薬ベンチャー企業の経営者の悩みは尽きない。むなしく株価2,000円前後で推移する同社株の行方を、ただクールに見守るしかないのだろうか。
『億の近道』(2021年4月6日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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