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ビットコイン初の「法定通貨」化で吹く順風と逆風。暗号資産投資が適格と言える理由=矢口新

エルサルバドル議会は、ビットコインを法定通貨として採用するブケレ大統領の提案を賛成多数で承認した。ビットコインの法定通貨採用は世界初となるが、多くの懸念が挙げられている。相場への影響についても考えたい。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年6月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

エルサルバドル、ビットコインを法定通貨へ

中南米に位置するエルサルバドルの議会は、ビットコインを法定通貨として採用するブケレ大統領の提案を賛成多数で承認した。ビットコインの法定通貨採用は世界初。

米ドルも法定通貨として存続させ、ビットコインの使用は任意となる。

一方、IMFはエルサルバドルが世界で初めてビットコインの法定通貨採用を承認したことについて、経済・法律面で多くの懸念があると発表した。

国際決済銀行(BIS)の幹部は、「興味深い実験」だが、ビットコインは投機的な資産であり、決済手段としての基準を満たしていないと述べたとの報道が出ている。
※参考:エルサルバドルのビットコイン法定通貨化、興味深い実験=BIS – ロイター(2021年6月11日配信)

通貨には「信用力」が不可欠

法定通貨にはシニョリッジ(seigniorage)というものがある。政府・ 中央銀行が発行する通貨や紙幣から、その製造コストを控除した分の発行利益のことだ。

もっとも、そうした法定通貨を自国民や諸外国が受け入れてくれなければ、流通させようとしてもかなわない。つまり、法定通貨の背後にあるのは、国家の信用力だということになる。

エルサルバドルには「コロン」という自国通貨があったが、2001年1月より通貨を全面的に「米ドル」に変更した。米ドルを自国通貨代わりとしている国々には、エクアドル、パラオ、東ティモール、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦などがあり、パナマはバルボアという貨幣のみの法定通貨を持つものの、実際には米ドルが流通しているようだ。

米ドルと固定している通貨はもっと多い。中国元も1995年から2005年まで対ドル8.30前後で「安定」していたことから、事実上のドルリンクだった。また、2021年4月以降の元高局面では、銀行に外貨投資を促し、外貨預金高が過去最大となるなど、元安誘導とも取れる政策を行っている。

米ドルを自国通貨とする国々はもとより、ドルリンクの国々も米国の信用力を借りて通貨を流通させていることになる。対ドルでの急騰も急落もないという「安定」保証が、それら通貨の信用力となっているからだ。

Next: 各国政府・中銀が暗号資産の扱いに苦慮。投資として適格か?



各国政府・中銀が暗号資産の扱いに悩んでいる

その意味では、エルサルバドルは米ドルとビットコインという、安定の象徴と極めて不安定なものの代表格の、2つの法定通貨を持つことになる。どちらにも、シニョリッジはない。

そこで、BISの言う「興味深い実験」だが、ビットコインは投機的な資産であり、決済手段としての基準を満たしていないという見方には、全面的に賛同できる。

一方、バーゼル銀行監督委員会は暗号資産の規制案を公表、銀行がビットコインを保有する場合、損失が出た際に全額を埋め合わせるだけの資本を蓄えなければならないとした。

バーゼル委は、暗号資産を2グループに分けることを提案。1つ目は、トークン化された伝統的資産とステーブルコイン。これらは債券や融資、預り金、株式と同様に既存の規制が適用される。リスクウエートは0%から、高いものは1,250%もしくは資産価値の全額となる。

ステーブルコインや第1グループの暗号資産は、伝統的資産を裏付けとしている。米フェイスブックの「ディエム」はドルを裏付けとする。

第2のグループは、ビットコインなどの暗号通貨で、新たな「保守的で慎重な扱い」が必要となる。「特有のリスク」があるため、リスクウエートは1,250%とする。ビットコインは資産に裏付けられていないとした。

ビットコインは投資として適格か

先日、ビットコインは投資として適格かという質問を受けた。

短期間で半額近くになるようなものは、保有を前提とする投資には極めて不適格だ。しかし、この事実はショート(空売り)すれば短期間で大きな利益を上げられたことを意味している。こうした価格の急騰、急落の繰り返しは、トレーディングなどの投機的ツールとしては適格なのだ。

このことは、IMFが述べたように、経済面では多くの懸念があることも示している。

なお、通貨というものについては、私の新著『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)の「第二章:つくられた貧富格差拡大 46. 通貨の価値」で詳しく解説している。

ビットコインに吹く順風

先週、ビットコインに大きな順風が吹いた。

エルサルバドルがビットコインを世界で初めて法定通貨とする決定をしたことに加え、最も保守的であるべき老後資金を運用する年金運用会社の1つが、ビットコインを投資物件として初めて認知した。

「米国の確定拠出年金401(k)を運営するフォーアスオール(ForUsAll Inc.)は6月初め、大手暗号通貨取引所コインベース(Coinbase Global Inc.)の機関投資家部門との契約を発表。同社が管理するプランに参加する労働者は、401(k)拠出金の最大5%をビットコイン、イーサリアム、ライトコインなどに投資できるようになった。

2012年設立のフォーアスオールが運用する資産は17億ドル、22兆ドルに上る401k市場では小規模との見出しが出ている。
※出典:Cryptocurrency Comes to Retirement Plans as Coinbase Teams Up With 401(k) Provider – WSJ(2021年6月10日配信)

また5月のビットコインの大暴落を受けて、米上場企業の中で最も多くのビットコインを所有しているマイクロストラテジーは第2四半期に少なくとも2億8,450万ドルの損失を計上する見通しとなった。しかし、ビリオネアのマイケル・セイラーCEOが率いる同社は、新たな資金調達によってビットコインへの投資をさらに拡大する意向を示した。

マイクロストラテジーは約9万2,000BTCを所有、その価値は一時50億ドルを超えていたが、現在は約34億ドル程度に下落している。同社は2028年満期の社債を発行することで、機関投資家から4億ドルを調達し、ビットコインの買い増しに用いると述べた。

マイクロストラテジーの株価は、2月の20年ぶりの高値から約55%下落、その下げ幅は4月の高値から約43%下落したビットコインを上回っている。

ちなみに、非上場の暗号資産運用会社のグレースケール・インベストメンツは、約65万BTCを所有、その価値は240億ドルを超えている。
※参考:ビットコインで巨額損失のマイクロ社、さらに4億ドル投資へ – Forbes JAPAN(2021年6月8日配信)

一方で、大きな逆風も吹いている。

Next: 中国がマネロン対策で1,100人以上を逮捕? ビットコインに吹く逆風



ビットコインに吹く逆風

中国は暗号資産(仮想通貨)を使ったマネーロンダリング(資金洗浄)の一斉摘発に踏み切り、1,100人以上を逮捕した。仮想通貨関連の活動に対し、取り締まりを強化する姿勢を再び打ち出した。

また、中国のCO2排出量は2018年時点で世界全体の27%以上を占め、15%前後である2位米国の2倍近くもあった。その後、米国など先進国の排出量が減少しているなかで、未だに新興市場国という位置づけの中国の排出量は増え続けている。

それでも何とか許されているのは中国が世界経済を牽引しているという事実を、世界各国が認識しているからだ。とはいえ、ビットコインは投機的なトレーディング・ツールを提供するだけで、世界経済にも、中国の経済にも電力消費以外の貢献はしていない。そして今、その電力消費が問題だとされている。

ビットコインの世界の供給量の4分の3は、中国で生産されている。その中国が政府主導で生産量の削減を推進し始めた。新しいビットコインを生成するための膨大な数のコンピュータを駆動するために必要な電力量は、中国の最近の気候変動目標とは相反するものだからだ。
※参考:China Reconsiders Its Central Role in Bitcoin Mining – WSJ(2021年6月5日配信)

トレーディングツールとしては適格だが…

ビットコインには、法定通貨や決済通貨、年金運用の投資物件などという普通には見られない順風と、多くの逮捕者を出し、地球温暖化の悪役として規制の対象となるなど滅多にない逆風が吹いている。

こうした話題性のある材料の提供と価格変動の大きさは、トレーディング・ツールとしては適格だと言えるものなのだ。

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新刊情報:『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』

この記事の著者・矢口新さんの新著『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)が発表されました。65のグラフデータをもとに日本が衰退した要因を特定し、それを取り除くことで「日本が幸せになれるシステム」を提案しています。ぜひお手にとってご覧ください。

『日本が幸せになれるシステム』目次

まえがき:税収増が見込めない税制
第一章:日本を破壊した税制
1.税率を上げても増えない税収
2.消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
3.消費税は経済成長を止めた
4.アベノミクスによる成長率はほぼゼロ
5.いざなみ景気の税収面での貢献はネガティブ
6.世界経済のミラクルは、日本から中国に変わった
7.アベノミクス、真の成果は?
8.雇用形態の変容
9.世界から乖離していく日本の実質賃金
10.名目賃金のターニングポイントも消費増税と一致
11.1997年から資金供給量は11.2倍
12.日銀は「物価しか見ていない」
13.銀行の預貸ギャップが290兆円に
14.マイナス金利政策の導入
15.アベノミクスは金利市場を破壊した
16.民間から政府への所得移転
17.物価の推移
18.消費増税でディスインフレに
19.消費税では社会保障費を賄えない
20.借金頼みの財政
21.消費税導入は法人税率引下げとセット
22.法人税率引下げで得たもの
23.赤字企業も急増
24.消費税は売上から天引き
25.所得税
26.個人住民税
27.One For All, All For Oneの虚実
28.格下げ
29.膨らむ公的債務残高
30.ギリシャやイタリアは緊縮財政
31.日本は113カ国中、113位
32.純債務残高でみると?

第二章:つくられた貧富格差拡大
33.つくられた貧富格差拡大
34.貧富格差の拡大は止められる!
35.日本の税収推移
36.日本の税収構造
37.デンマークの税収推移
38.デンマークの税収構造
39.スウェーデンの税収推移
40.スウェーデンの税収構造
41.OECD内32カ国の政府支出
42.日本、デンマーク、スウェーデンの財政収支の推移
43.主要国の所得税率の推移
44.世界の法人税率の推移
45.財政黒字の国は一握り
46.通貨の価値

第三章:崩壊前夜の社会保障制度
47.日本の公的社会保障支出
48.社会保障費の内訳と財源
49.高齢者の年金依存度
50.国民健康保険
51.1人当たり医療費
52.政府の教育支出
53.社会保障関係費の推移
54.国民負担率の推移
55.ダイヤモンドになったピラミッド
56.日本人の死亡原因
57.厚生労働省の見積もり

あとがき:衰退から繁栄へ

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2021年6月配信分
  • ビットコインが法定通貨に(6/14)
  • 貧富格差は税制で是正できる(6/7)

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image by:Bilanol / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2021年6月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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