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大塚家具「上場廃止」は当然の結末。お家騒動より深刻な3つの欠陥をヤマダは克服するか?=栫井駿介

大塚家具がヤマダ電機の完全子会社となり、上場廃止されることが決定しました。大塚家具はお家騒動があって、その後に経営が厳しくなっていました。この事例を見ることで、私たちはどの企業に投資してはいけないのか、そして逆にどのような企業に投資すべきなのかということを認識することができます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

お家騒動だけじゃない!大塚家具の失敗

ヤマダホールディングスは、2019年にこの大塚家具の過半の株式を保有して子会社化していました。

そしていよいよ完全に他の株主をなくして、ヤマダの傘下で再建を図っていこうということになっています。

では、大塚家具はいまどういった状況なのでしょうか。売上高は見事に右肩下がりです。営業利益についても、ひたすら止まることなく赤字が続いている厳しい状況です。

これに合わせで株価も低迷していて、以下は5年のチャートですが、かつて1,000円ぐらいあったものは、今や300円という数字になっています。過去5年で、7〜8割近い下落になってしまいました。

大塚家具<8186> 週足(SBI証券提供)

これだけ業績が悪化していると、当然といえば当然のことで、一時は倒産も噂された程ですけれども、その最悪の状況には陥らなかったというところであります。

そもそもこのような状況になったのは、お家騒動、創業者である社長とその娘の対立ということがありました。

Next: 「お家騒動」がなくても衰退していた?大塚家具“3つの失策”とは



世間を騒がせた「お家騒動」

大塚家具といえば、もともとメーカー直接仕入れというような形で、家具を仕入れて、そして当時としては比較的安目の価格で販売して、それを百貨店なんかを中心に売るということで一世を風靡しました。バブルもあって1990年代にかけては大きく業績を伸ばしました。

そして2009年、社長の勝久氏の娘である大塚久美子氏が社長に就任しました。この時は、勝久氏としても娘ですから、非常に期待を込めて就任したと思います。

ところが、この久美子氏はもともと経営コンサルとして働いていたということから、いろいろと勝久氏が行っていた経営方法の改革を行おうとしました。

大塚家具は会員制で、積極的に店員が接客をして高いものを買ってもらうといったスタイルを取っていたのですが、久美子氏としてはそれが現代のスタイルに合わないということで、もっと入りやすくポップな雰囲気にしようとしました。すると勝久氏は怒ってしまって、俺のやり方を否定するのかというような形で対立が起こります。

そして2014年、久美子氏は、社長を解任されて平の取締役になってしまいます。また当時会長となっていた勝久氏は、社長も兼務するというような形になりました。

その後、久美子氏は今度は株主を巻き込んで、勝久氏に対抗しようとしました。

結果、株主をうまく言いくるめた久美子氏が議決権の争奪戦に勝って社長に復帰。その後、勝久氏は退任するということになりました。

久美子氏は社長に復帰して、そこからまた大塚家具を経営していくわけですけれども、先ほど業績を示しました通り、2015年に就任してからというもの、そこから衰退の勢いが止まらなくなってしまいました。

見事に右肩下がりということになります。

いよいよお金も尽きてしまって、貸し会議室のTKPからお金を入れてもらったりしたのですが、それでも結局は立ち直ることができずに、2019年にはヤマダ電機の子会社なるわけです。

当初は子会社になっても社長に残ったままだったのですが、202012月に辞任を申し入れて久美子社長も退任するというような形になりました。

そしてこの9月にヤマダ電機による完全子会社化が行われて、上場廃止になるというような経緯になっています。

お家騒動がなくても衰退していた

こうやってみると、お家騒動が大塚家具衰退の原因だったように見えるのですが、(もちろんそれが引き金を引いたことは確かなのですが)私は必ずしもそれだけが原因だとは思っていません。

何故なら、大塚家具の立ち位置というのは、非常に厳しいところにあったからです。

大塚家具が失敗した要因としては、3つ挙げさせていただきます。

1. 中途半端な立ち位置
2. リストラの遅れ
3. 経営者としての覚悟の無さ

それぞれ、何が起こったのかを解説していきます。

Next: 普通の家具屋になってしまえば勝ち目なし。どこで間違えた?



失敗の原因その1. 中途半端な立ち位置

失敗の原因の1つ「中途半端な立ち位置」というのは、大塚家具が公表している「アニュアルレポート」に自らそれを示してしまっています。

前述の通り、大塚家具はメーカー直接仕入れによって、他の家具店よりも安く売るということで業績を伸ばしてきました。

しかし、今や「ニトリ」や「IKEA」など、ものすごく安いところが台頭してきました。するとその時点で大塚家具にとって安いというポジションは失われてしまって、むしろどちらかというと「高い家具屋」という立ち位置になってしまいました。

さらに、割高といっても高級な家具を扱っているわけでもなくて、確かによい家具ですけれども、最高級品ではない。しかもこれまでは中流層を相手にやっていましたから、大塚家具で買ったからといって、ハイブランドということにはならないわけです。

その結果、どっちつかずというところになってしまって、富裕層が来るわけでもなければ、中間層以下が来るということもなくなってしまいました。

この点、勝久氏は会員制を続けたいということで、その会員制のお客さんというのは例えば百貨店に来るような、そこそこお金を持っているお年寄りだとは思うのですが、今後も経営が長く続けられるかどうかは別として、少なくとも彼らがいるうちは、会員制のビジネスによって存命できた可能性は十分にあったという風に思います。

ところが久美子氏は、マス層を取りにいき、一方ではニトリなどに対抗する明確な策もないまま、このような立ち位置の不明瞭な戦略を取ってしまったというのが、1つの失敗というところになります。

失敗の原因その2. リストラ遅れによる原価高

また失敗原因のもう1つは、リストラの遅れというところがあります。

以下の図表にあります通り、売上高販管費率です。

この販管費というのは、例えば物件の減価償却費、あるいは物件を借りている費用だったり、あるいは人件費だったりします。

参考に挙げた「ニトリ」が売上高に対して38.6%なのに対して、大塚家具は63.6%です。すなわちショールームや人件費とかにお金をかけすぎていました。

売上高販管費率がこれだけあると、これに当然、原価が加わってしまうので、原価が3〜4割いった時点で、ほとんど利益が残らないというような状況になってしまいます。これでは、どう頑張っても利益を出すのは難しいです。

となると必要なのはリストラということになって、このショールームも私が数年前に行った時もガラガラでした。まったく利益を生んでいないというのが、一目でわかる状況でした。これを例えば縮小するなり、数を減らすなりして、まずはコストを削減しなければならなかった。

またその時に行って感じたのは売り場にお客さんが全然いないのに、店員さんはいっぱいいたりしました。なので、店員さんの手が余ってしまっているわけです。

お客さんも来なくてしかも会員制も辞めてしまいましたから、少ないお客さんに積極的に接客するというようなこともなかなかないわけで、人員に関しても明らかに余っているという状況でした。

これではどう考えても成り立ちませんから、まずはそこをスマートにさせることが第一なんですけれども、これができなかったということは、最大の失敗要因なのではないかと思います。

同じように有明にも大きいショールームを持っていたりします。これらは削減できなかったことによって、どんどんお金だけが流出して、数年前にはいよいよこの現金が底をついてしまうのではないか、というようなことにもなってしまっています。

Next: 覚悟が足りなかった久美子氏。上場廃止後の大塚家具はどうなる?



失敗の原因その3. 経営者としての覚悟の無さ

この現金がなくなる事態を招いたことには、伏線がありました。実は、勝久氏を久美子氏が追い出した時に、株主の賛成を少しでも得ようと配当を引き上げたのです。

配当を引き上げるというのは、つまり会社にある現金を払い出してしまうということですから、そこで多額の現金を払い出したがゆえに、もう会社の金庫にお金が残っていないというようなことにもなってしまいました。お家騒動が将来の経営に尾を引いてしまっている、ということになったわけです。

また何より足りなかったのは、経営者としての覚悟の無さだったと思います。

こうやってお家騒動で敵もたくさんでき、そんな中でも合理的に考えたら、やはりリストラしなければ始まらない状況だったのは目に見えていました。

ところが、敵をたくさん作ってしまいましたから、ここでリストラということになると、従業員の人心を掌握できないということになってしまいかねませんでした。

ただ、そこで覚悟を持っていれば、もしも従業員全員がいなくなったとしても、私はこの会社を再建するために何とかやりきるぞという気持ちでいなければならなかった。

それほど困難な状況に立ち向かっていたはずなんですけれども、実際はリストラなんかも目に見えて行うこともなく、ただただ現金の流出が続いて、苦しい状況になって外部に助けを求めざるを得なくなったというのが大塚家具の状況です。

特に私が強調して言いたいのは、この経営者の覚悟というのは一番大切なことだということです。

どんな企業であってもやはり経営が駄目になってしまったら、そうそう伸びるものではないです。逆に苦しい状況にあっても、経営者がちゃんと気持ちを振り絞って覚悟を持ってやることができれば、その会社は復活する可能性がかなり高いという風に実感として持っています。

投資する時には、そういった経営者の覚悟というのはぜひ皆さん見ていただきたいと思います。

痛みなくして改革なし

さて、このままでは投げっぱなしになってしまうので、大塚家具はどうすれば良かったかというところを最後にまとめたいと思います。

やはり方向性としては高級路線化、売り上げのボリュームは減ってしまうのですが、売り上げの価格を上げることによって、利益が残るというようなやり方が1つの選択肢としてあったと思います。

これはもともとこの大塚家具でやっていた会員制ビジネスだったり、いま勝久氏が匠大塚でやっているようなスタイルが、1つの方向性としてはあったのではないかと思います。

また逆にマス層を重視して、それこそニトリやIKEAに対面で挑んでいくという方向性も、頑張れば、なきにしもあらずだったと思います。

「ニトリ」とか「IKEA」だと、どうしても画一的なスタイルになってしまいがちですが、大塚家具は自分で作っているわけではなくて、いろんなところから仕入れているわけなので、その仕入れの目利きというのを、海外で良いものを見つけて、安く仕入れて、それをニトリよりも少し高いくらいで売るということをすれば、ニトリは嫌だという需要をある程度取り込めたのではないかと思います。そういった動きがなかなか見られなかったというところも、敗因の1つでしょう。

Next: できる施策はまだあった。ヤマダの業績にはどう影響する?



ヤマダHD傘下で再建できるか?

それからショールームを持っていて大塚家具という名前も知られていますから、逆にショールームで物を売るということはしないで、販売に関してはオンライン倉庫から持ってくるということを中心にして、コストをギリギリまで削ってやるというやり方もあったのではないかと思います。

ただ、どれをやるにしても何かを捨てなければ経営の改革はありえません。

これまさに「痛みなくして改革なし」という形で取り組めなかったというのが、大塚家具の最大の敗因ではないかと思います。

これからヤマダ電気の傘下で再建を図っていくのですけれども、ヤマダ電気の顧客というと、やはり家電を安く買いたいという人が非常に多いと思うので、そうなると取るべき戦略というのはマス層重視、つまり何とか原価を下げて、そして販売販管費率をギリギリまで下げて、そして売価を安くすることによって、マス層を取り込むという戦略が今後考えられる方向性かなという風に思います。

今後、ヤマダホールディングスの傘下でどれだけ再建できるのか。また、それがヤマダの業績にどれほど影響を与えるのかというのは、今後も見守っていかなければなりません。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年6月14日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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