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1年で株価5倍「日本郵船」は買いか?ピーター・リンチに学ぶ“大化け株”の掴み方=栫井駿介

日本郵船の株価が急上昇しています。わずか1年で約5倍にもなりましたが、このような銘柄を掴むにはどうしたらよいのでしょうか?著名ファンドマネージャーであるピーター・リンチの考え方も引用しながら解説します。『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

日本郵船が急上昇したワケ

日本郵船<9101>は直近の決算を受けまして株価が急上昇しました。

5,000円くらいだったところが7,800円いうところまで大きくがっています。

日本郵船<9101> 日足(SBI証券提供)

なぜ上がったのか、簡単に言うと業績が非常に好調だというところです。

上昇を理由として業績の上方修正を行いました。

実はこの会社前期2021年3月期も非常に好調な決算を出していて、その後もさらに今期は業績を上乗せする予想だったのが、その上乗せした業績予想に対して、さらにプラスになりました。

3.500億円の想定だった純利益が5,000億円なるというところになっています。

これは相当な上方修正です。

そして同時に配当も上方修正しました。

もともと通期200円としていたところ、なんと3倍以上になる700円というところまで引き上げました。

これによって目下の株価に対する利回りは10%というところになりまして、上方修正と利回り株としても非常に注目を集めました。

さらに言うとこれだけの上方修正がある中で、表面上のPERはなんと2倍台と、すごく割安だという風に見えるようになりました。

もちろんこの上方修正を受けたからですけれども、PER2倍というとたった2年分の利益でその企業の株価の元が取れてしまうというそういう話です。

これが本当だとしたらこんなに美味しい話はありません。

まだ第1四半期の話ですが、この第1四半期でなぜこんなにも業績が当初想定したよりも好調になっているのかということについてお話ししたいと思います。

絶好調の理由としましてはコロナがらみというところが非常に大きいです。

コロナ禍でこのコンテナ船の供給がものすごく減っています。

というのもこのコンテナ船を動かすためには、当然人手が必要になってきます。

この人手というのが実は様々な国からやってくる人達だったり、新興国の人だったりもするのですが、コロナ禍で国境間の移動がかなり制限されてしまいましたから、そもそもそういう人が来られなくなって船が動かせないということで供給不足に陥ってしまっていました。

これはこの1年続いてきたことなんですが、一方で直近ではワクチン接種によって、特に欧米や欧州を中心に経済回復が起きました。

これによって様々な物の需要が一気に爆発しました。

もともとテレワークに使うためにパソコンの需要、あるいは半導体とかスマートフォン、そういったものに対する物流の需要というのもすごくあって、当然それに関連性する周辺の需要とかもあったわけなんですが、それがワクチン接種による経済回復で一気に爆発しました。

供給が少なくて需要が大きいということになると、経済を少し齧ったことのある人なら、どうなるのかは一目瞭然だと思います。

価格の上昇が起きます。

実際にこの北米往航の船賃ですが、なんとこの2021年5月に、それまで3.000ドルだったものが一気に4,900ドルというところになり、それまでもじわじわ上がっていたのですが、それまでの平均的な水準から2倍以上のところに上昇したというところになっています。

発表した四半期の決算というのがまさに4、5、6月期ですから価格が上昇した期に重なっています。

これだけ株価が上昇したらそのまま利益になりますから、業績が上向くというのも間違いありません。

そしてこのような状況が当面続くということを考えると、通期においても業績が上がるということが十分に想定されます。

同時に日本郵船の配当は業績の25%ということを謳っていますから、それを素直に当てはめた結果、配当もすごく増えたということになっています。

前期から3倍ということなんですが、前期が200円、今季が700円、その前は40円でしたからなんと20倍近くにまで配当が増えているということになります。

こうなってくると株価の上昇というのはある意味も頷けるというところになってきます。

Next: 日本郵船のような「大化け株」はどう探す?ピーター・リンチの投資哲学



大化け株は不人気業種から生まれる

しかしそれだけではこんなに株価が何倍も上昇するというのはこれだけ短期間でなかなか起きることでもありません。

年初3,000円くらいだったところが一気に2倍以上というというところになっています。

これだけ株価が上昇するためには業績が好調だというのはもちろんなんですが、それまでの期待値が低くないと逆にこれだけギャップを生むことは出来ません。

すでに好調だとわかっているところだと実はなかなかそんなに上がらなかったりします。

むしろ好調な決算を発表したところで材料出尽しとなって、下がってしまうということもあります。

ところが日本郵船に代表される海運業界の期待値というのはものすごい低かったのです。

これは経常利益の推移です。

日本郵船<9101> 業績(SBI証券提供)

点線のところがプラマイゼロ、つまりこれを下回ると赤字ということです。15年間でなんと4期が最終赤字を記録しています。つまり、もう利益を出せるかどうかは分からない会社だったのです。

企業の価値株価というのは基本的には利益によって左右されますから、利益を出すかどうかはわからないのだったら、そもそも価値があるのかどうか分からないという、それぐらいまで言えるような会社でした。

ところが一気にそれが5,000億円もの最終利益生むような会社になって大きく業績が上がることになりました。

こういうことがあると株価も大きく上がるというところになってきます。

この状況から得られる示唆としては大化け株は不人気業種から生まれるというところにあります。

ピーター・リンチの投資哲学

これを言ったのが個人投資家にも人気のあるピーター・リンチという人です。

この人は世界最高のファンドマネージャーとも言われていて、10倍株をいくつもファンドに組み入れて、そして年率30%近い運用を13年間も続けたというとんでもない人物です。

この人は大化け株をいっぱい捕まえているのですが、10倍株になったような物の大半は不人気業種から生まれたという風に言っています。

つまり今説明したように事前の期待値が低ければ低いほど、上昇した時の上昇率というのは半端ないことになるという風に言っています。

ただ気をつけなければいけないのは、ただ単に不人気な業種を選べば良いというわけではなくて、不人気ながらも業績が上昇するという裏付けがないといけません。

実はこの日本郵船という会社に限らず、日本の海運会社というのはものすごく利益をで出せない状況に喘いでいました。

そんな中でこの日本郵船と商船三井、そして川崎汽船の3者が『one』という共同会社を立ち上げて、そこでコンテナ船事業を行っていくことにしたのです。

これは価格競争の激しい海運業界において少しでも競争力を高めるために行なったことです。

供給側がまとまることによって価格交渉力を付けることが出来ます。

そしてこのコロナ禍で供給が世界的に一気に減ってしまって、一方で需要が増えているという状況の中で価格決定力を持つということは価格を引き上げて利益を出しやすい環境というのが出来てきました。

もっともそれだけでは決して十分ではなく、コロナ禍があったからこそということになりますし、またその背景となる船賃の上昇というところをしっかりと確認して、初めてここに投資出来たという風に思います。

船賃の確認というとちゃんと統計も出ていますから、これを見ていると確かに上がっていますし、例えばこの2021年4月から5月にかけてものすごく上がっています。

5月の数値が発表されるのが6月の末ということになると思われるのですが、6月の末に買ったとしても、それなりの利益はあげることが出来たのではないかと思います。

このように不人気業種であっても、もしかしたらそこに可能性があるのではないかということで、何か良い銘柄やいい銘柄や良い状況を探してみるというのはこのピーター・リンチが教えてくれる大切なことということになります。

私としても以前、これはもうなかなか上がりにくいのではないかというようなことも言ったのですが、それは大いに反省しなければなりません。

こうやって背景となる数値をしっかりと見るべきでした。

今後もそういった偏りのない視野で素晴らしい上昇銘柄というのを探していければと思います。

Next: 業績・株価が急上昇した日本郵船の今後は?



日本郵船の今後は?

さて、これから何が起きるのかということです。

これまでかなり株価上がってきました。

そして業績も上昇してきたのですが、確かに言えることは業績、配当は必ず低下するというところです。

確かに船賃の価格上昇によって業績は上がってきたのですが、ずっと成長が続ける性質なのかというとまったくそうではありません。

やがてはコロナ禍は終わるでしょうから、落ち着いてきて価格も下がってくるということは間違いありません。

したがって単純にPERとか配当利回りで売買を考えると、大変なことになってしまいます。

利益が今すごく上がっているから良いですが、例えば今5,000億円の純利益が出ました。

これが1,000億円まで下がるとしたら、今PERが2倍だとしても10倍、2.5倍だとしたらPER15倍というところになって、割と平均的な水準になってくるというところです。

配当利回りに関しても同様で業績が下がるということは、配当性向にしたがって配当も減るということですから、高配当投資だなんて思って投資すると失敗してしまうのでその点は十分に気をつけていただきたいと思います。

ただ、だからといって株価が上がらないと言っているわけではなくて、先ほど利益が5分の1になるとしてもPER15倍という風に言いましたから、そんなに割高でもないようにも見えます。

しかし、それがさらに昔の状況に戻ってしまうようになると赤字ということもあり得ます。

少なくとも短期的に見れば大きく上がる可能性はあるのですが、このように業績が落ち着いてきた時にはピークアウトした時の下落はかなり速いというのも間違いないです。

これだけ株価が急上昇してくると短期的なトレーダーというのがどんどんやってきます。

そういう人達は上がっているうちはいけいけどんどんなのですが、下がり始めるたら一気に引き潮のように下がっていき、いなくなってしまいます。

その時には合わせて売りが売りを呼ぶ形で株価も急落するので、上がるかもしれませんが、どこまで上がるかというチキンレースになって、上がりきったらあとは当面下がるしかないというそういう銘柄になってきます。

ただし長期的な状況は改善しているとも言えます。

一度こうやって引き上げた価格というのは、わざわざ価格を下げようという動きにはなりにくいですし、こうやってONEという共同出資会社を立ち上げているぐらいですから、価格交渉力というのも頑張って付けてこようとしています。

その中で以前のようにずっと赤字が続くような状況にも戻りにくいのではないかなという風には考えられます。

もちろんそこまで考えた時に長期的なあるべき利益水準がどのくらいになるのかというところまでは、なかなか会社の人達自身ですら、ほとんど見通せてないのではないかという風に思います。

少なくとも以前よりマシになるというところは確かではないかと思います。

Next: ギャンブル的な動きになる?今から手を出すなら要注意



ギャンブル的な動きになる?今から手を出すなら要注意

そう考えると確かに株価がチキンレースみたいな形でどっかで下がるかもしれませんが、下落余地というのも限定的になるのではないかと思います。

少なくとも昔の水準ほどは戻らないのではないかなというところも言えます。

もちろんかなりギャンブル的な動きになることも間違いないのですが、ギャンブルとしては悪くないかなというところではあります。

もっとも私はギャンブルはやらないので私は手を出しません。

もしそういったものが好きな方はやっていただければという風には思います。

ただし、もしやるのだとしたら余裕資金でということは忘れないで下さい

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:GaudiLab / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年8月8日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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