ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)を分析します。同社は32期連続増収、そして営業増益を記録している優良企業。果たして長期投資目線で買いなのでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
32期連続増収・営業増益の超優良企業
今回は、パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス<7532>について分析します。
社名を聞いても、何のことかわからないと思う方もいるかもしれません。要するに、総合ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」です。
ドン・キホーテは32期連続増収、そして営業増益を記録している優良企業と言えます。この企業は果たして、長期投資目線で買いなのでしょうか?
まず、業績を見てみましょう。
見事に右肩上がりという風になっています。これが32期連続増収、営業増益ということになっています。これほどの好業績を続けている会社といえば、私の知る限りは日本企業ではニトリ以外ではここぐらいです。
当然これだけ業績が上がっていると株価も上昇していまして、過去5年について見ると2.5倍ということになっています。
もっと長期で見ればもちろんもっと伸びているということになりまして、当然、業績が伸びれば株価も伸びるということになります。
これが長期のチャートで、過去10年程度で見ても、6倍ぐらいにはなっているという非常に有用な銘柄ということができます。
では、どんな形でこれまで成長を遂げてきたのか、その歴史を見ていきたいと思います。
M&Aで巨大化するドン・キホーテ
1980年に創業し、1989年に府中市にドン・キホーテ1号店を構えます。
そしてどんどん店舗数を増やしていって、98年には東証2部、そして2000年には東証1部に上場しました。
そこから2004年に、ようやく100店舗を達成した後、ここからはM&Aを積極化していきます。
2007年にはホームセンターのドイト、そして百貨店の長崎屋を子会社化しました。
そして2015年に300店舗を達成。
直近の動きとして、2019年にアピタやピアゴといったスーパーを経営するユニーを買収しました。
これによって、一気に店舗数が600店になるという状況になりました。
さらに、この買収戦略というのは国内だけに留まらず、海外に展開を進めて、2021年にはアメリカのプレミアムスーパーマーケットチェーンのジェルソンズという会社を買収しました。
Next: 買い物を「エンターテインメント」に変えた店舗戦略
「圧縮陳列」で買い物をアミューズメント化
では、ドン・キホーテはどうやってこれだけ業績を伸ばしてきたのでしょうか。
皆さんもドン・キホーテのお店を訪れたことがあると思います。私も学生時代、大学が渋谷にも近かったので行ったりしたのですが、安くて品ぞろえが豊富で、行って楽しいというところがありました。たくさん物が積まれて、そこの中から宝探しをするような感覚がありました。
これこそがドン・キホーテの強みとなっていまして、「圧縮陳列」と呼ばれるものです。
店舗に行かれたことがある方ならわかる通り、本当にいろんな商品がうず高く積まれています。これによって、ドン・キホーテが達成したのが、ワクワクドキドキ感という感覚を消費者に植え付けることです。また行きたくなるように買い物にアミューズメント性を見出したというところが、ドン・キホーテの勝ち筋ということになっています。
もともと、この企業のコンセプトは、ドン・キホーテになる前は「泥棒市場」というぐらいの名前でしたから、とにかく掘り出し物を見つけるような感覚でした。
さらに最近では、特に中国などからのインバウンド顧客が注目され、ここからの売り上げが非常に多かったということで、コロナ禍になる前の5年ぐらいは、そのインバウンド需要というのもあり、非常に大きく伸びてきたわけです。
そして、改めて成長要因としてまとめますと、この「圧縮陳列」のエンタメ感の演出というのが非常に重要になってきました。
この“買い物のエンターテインメント化”というのは、長期で続く流れだと私は考えています。
なせかというと、必要なものだったら、正直ネットで買ってしまえばいいですよね。なんなら、Amazonで定期購入もあるぐらいです。わざわざ足を運んで店舗で買うというのは、それだけで手間で、それならネットで決め打ちで買ってしまえばいいということになります。
一方で、とにかく時間を潰すというのもそうですが、行ったら楽しいという感覚が得られるのが、このエンタメ感です。これが買い物に求められるという時代ではないかと思います。
私も千葉の比較的田舎に住んでいるのですが、例えば休日にやることがなくて、でも、どっか行きたいなーという時は、イオンモールとかに行ったりします。
それも1つのエンターテインメントになるのではないかと思います。ドン・キホーテもその範疇にあるということです。
コスト削減にも一役
また、この圧縮陳列というのが、新規出店やコスト削減にも寄与しているのではと考えられます。
ドン・キホーテは、カテゴリーでお店を分けています。
1つは郊外店で、郊外店というと店舗が広く、出店もそんなにたくさんのお金はかかりません。
一方、都心の店舗に関しては、賃料が高いわけです。そんな中で圧縮陳列をすれば、小さいスペースでたくさんの物を置くことができます。それが一般的にはマイナスに働くのですが、ドンキホーテはそれを逆手にとって、それをエンターテイメントに昇華させてしまったというのが、勝っている要因ではないかという風に思います。
当然、賃料も抑えられますから、コスト削減にも寄与するというところになってきます。なんならダンボールのまま置かれていたりするので、それも余計なコストをかけていないということになります。
Next: コロナ禍で都心店は大幅マイナス。ドンキの成長は今後も続くか?
成長意欲も旺盛。M&Aを活用して店舗拡大
さらにM&Aも活用した店舗拡大というのがあります。
ドイトや長崎屋に始まり、直近ではユニー、そしてアメリカのスーパーマーケットを買収して、M&Aで店舗数を増やしてきました。
今では600店舗ということになってきているのですが、成長意欲が旺盛な会社といえます。店舗数を拡大させてきたことが、1つの大事な成長要因ということになります。
業種によっては、拡大戦略に限界があるものです。それが小売店に関しては、そのお店が流行っている限り、次から次へと同じ戦略で同じような店舗を展開することで、拡大の上限がないというのがあります。
そこに拡大意欲があれば、長期に渡って、勝利の方程式が揺らがない限り、成長を続けられるといった状況になっているのではないかと思います。
すなわち、この買い物のエンタメ化に成功し、そしてそこをテコに積極的に拡大戦略を取ってきたというが成功要因といえます。
コロナ禍で都心店は大幅マイナス。なぜ全体で増収増益を達成できた?
これからを見通すうえでは、まず足元を見るということになります。
国内のドン・キホーテに関しては郊外店はあまり影響はないのですが、特に都心の店舗に関しては大幅なマイナスとなりつつあります。
というのも、このコロナ禍で繁華街にそもそも人が少なくなっています。さらにはインバウンドは全く無くなってしまいましたから、その2つの需要が一気に剥げ落ちてしまって、今はかなり苦しい状況になっています。
しかし、冒頭で32期連続増収・増益と言いました。
それを達成しているのが、買収したGMS(旧ユニー)のスーパー事業ということになります。
皆さん、巣ごもりでスーパーで食材を買うためにこのお店を訪れますから、これが今プラスに働いて、結果イーブン以上ということになっています。
しかも、もともとこのユニーというのは非常に経営効率が悪くて、利益が低かったのですが、そこに経営改善を図り、立派に利益を出してきているのです。
それが今、ドンキがコロナ禍でも持っている理由の1つとなっています。
Next: 社長交代・社名変更で心機一転。すべては海外進出を成功させるため
海を渡るドン・キホーテ
さらに海外進出もやっていて、スーパーマーケットチェーンのジェルソンズを買収し、店舗数27店舗と、着実に海外へ軸足を置こうとしています。2021年6月期には、アジアに8店舗を出店するということです。
まさにこの海外進出というのが、この会社の今後の戦略ということになっています。
国内の出店余地はというと、もしかしたらもう限定的かもしれません。そんな中で、海外には結構前から北米に進出しているのですが、いよいよそれを本格的にやっていこうという流れで成長を目指しています。かなり先を読んだ手に見えます。
そのため、もともとはドン・キホーテHDという会社名だったのですが、パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングスと改名しました。“パンパシフィック”ですから、「国際的な会社に生まれ変わるぞ」という思いで、このような名前にしていると言っています。
つまり今、勝利の方程式を海外へ持って行こうとしています。
社長交代は海外進出の布石
実は、そのためにやっているのが社長交代です。もともと安田さんという人が創業者で、そして古参の人である大原さんという方が、これまで社長を務めていました。今CEOになっている吉田さんという方は、実はあの経営コンサルティングのマッキンゼー出身の方なんです。
つまり、もともと「泥棒市場」から始まった会社ですけれども、今やマッキンゼーのような人が社長に座って、洗練された企業に生まれ変わろうとしているところがあります。
この吉田社長は、もともと創業者の安田さんが北米事業をやるために、北米の社長としてスカウトしたのが始まりとなっていますから、当然、海外に知見もあるわけです。これが、この会社が成長を継続できるかというところにかかってくるわけなんです。
一方で海外進出というと、日本企業で成功した事例はそれほど多くはありません。身近なところではユニクロ、無印良品は、比較的中国では上手くいってるのですが、このドン・キホーテが行こうとしているのは、どちらかというとアメリカとかが多かったりします。
アメリカで上手くいった日本企業は、それほど聞きません。なので、ここで上手くいけるかどうかは、1つ試金石にもなってくるのではないかと思います。
もっとも、アメリカとかでやっているのは、日本みたいなドン・キホーテというよりも、スーパーマーケット事業の側面が強いです。そこで何か特徴を出していけるのかというのは、また1つの注目ポイントでもあります。
まして、これまでは泥棒市場から始まったお店だったのですが、マッキンゼーの洗練された人がCEOを務める中で、独自の面白さが埋もれてしまわないかという懸念はあります。
今、ドン・キホーテは、外出制限とか繁華街での盛り上がりの欠如、あるいはインバウンド需要の損失によって、厳しい状況に置かれています。
ただ、それが終わってしまえば、当然、その逆の動きというのも起きるでしょうから、終わり次第これはプラスに働くだろうと思います。
一方で、スーパーはこれまでコロナ禍の特需のようなものにはならないのではないかと思います。経営改善を進めていますから、それが功を奏せば、利益に貢献してくるのではないかということも考えられます。ちなみに、このユニーを上手く立て直したのも、今の吉田社長ということになっています。
Next: すでに国内店舗数は頭打ちか。今後の成長は海外進出の成否次第
すでに国内店舗数は頭打ちか
今後については、国内の成長余地の見極めが必要です。まだまだ売り上げの90%を国内需要が占めていますから、ここの新規出店やM&A通じた店舗数の拡大は、これから見ていかなければならないかと思います。
ドン・キホーテの成長余地は見極めるには、店舗の拡大余地がどれほどあるのかというのが非常に大事です。今国内で600店舗ですから、それがどこまで伸ばせるのかいうところには、注目しないといけません。
ちなみにユニクロが国内でおよそ800店舗、ワークマンが1,000店舗ですから、この辺がやはり1つの分水嶺になるのではないかと思います。現在、600店舗ということを考えると、それほど成長余地は大きくはないかな、というところではあります。ただ、業態が違えばドンキとユニー(「アピタ」とか「ピアゴ」)はまた別物ですから、そこは必ずしもバッティングしないところもあります。
今後の成長は海外進出の成否次第
さらには、海外進出の成否です。
今はまだ売り上げの10%程度ですけれども、M&Aでアメリカのスーパーを買いました。これを上手く運営していけるかどうかは、今後の見通しを考えるうえで非常に重要です。
いずれにしても、マッキンゼー出身の吉田CEOの手腕が試される展開になっています。
エムスリーの谷村さんはマッキンゼーの出身だったりしますから、上手くやれば相当な成功も期待できます。この辺を見極めていければと思います。
今は買い時か?
さて株価の水準ですが、PERが今期の予想で23.9倍というところです。
そんなに株価が跳ねることもなくて、大体20倍ぐらいの水準で、あとは業績にしたがって上手く右肩上がりになってきた状況です。そもそも、この数字自体も高くありませんし、上手く業績を伸ばせるようなら、まだまだ上昇余地は十分にあると考えられます。
問題はそれだけの経営の実力があるかを、最終的には見極めていこうということになってきます。買いを検討するには、決して悪い状況ではないということは申し上げておきます。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年8月31日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。