日本が3連休の間に、世界の株式市場は中国不動産大手「恒大集団」のデフォルト危機から株価は激しく値下がりしています。市場はリーマン・ショック再来を懸念していますが、今回は恐らく、そうはならないでしょう。23日以降の動きを見極める必要があります。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
「恒大集団」デフォルトを中国共産党は収束できるのか?
日本がお休みの間に、世界の株価は下落しています。
下げのきっかけは中国「恒大集団」の債務不履行(デフォルト)懸念。習近平氏率いる中国共産党が事態を「ちゃんと」収束させることが可能か、疑問を抱いていることが市場に不安を蔓延させています。
「~ショック」は和製英語
時は9月半ば、市場関係者は無意識に2008年9月のリーマンブラザーズ破綻を想起します。日本では「リーマンショック」と呼ばれるものです。
今日あたり、市場関係者やメディアは「恒大ショック」と囃し立てるのでしょうか。
ときに、この「~ショック」って、基本的に和製英語です。検索して“Lehman shock”と出て来ても、日本発の英語記事だったりします。
昨日のNY市場を伝えるWSJ(ウォールストリートジャーナル)電子版では、“Lehman moment(リーマン・モーメント)”という言葉を使っていました。
私も「何とかショック」という表現が嫌いでして、リーマンについては「リーマン危機(Lehman crisis:リーマン・クライシス)」という言葉を使うようにしています。どうも「~ショック」って、その辺の飲み屋街でサラリーマンが「知ったか」で喋っているようにしかみえなくて。
大規模緩和のおかげで流動性危機には陥らない
ところで、リーマン危機で最も厄介だったのが、「資金取引も証券取引も当日分が決済できない」ことにありました。おカネの流れが止まる流動性危機です。
私は当時、日本国債の運用担当でしたが、危機顕在化直前に行った売買の受渡ができない事態に陥りました。
この事態は後に決済したものの、追加の書面が必要となり、タクシーで相手方まで「紙」の書類を持って行きます。取引の電子化が一般的な中で、原始的な話です。
世界中で同じような出来事が起こります。そりゃ取引も滞り、金融機能は麻痺するわけです。この後遺症が翌2009年に掛けての景気後退に繋がります。
今回の恒大集団の一件が、リーマン危機同様の流動性危機に発展するか、今のところ「可能性は低い」感じです。
なぜなら、今は大規模金融緩和のおかげで、市場にはおカネが余りまくっています。
Next: 焦って押し目買いは禁物? 23日以降の動きを見極めてから
株価への影響はしばらく続く
一方、株をはじめリスク資産価格への動揺はしばらく続きそうです。おカネは余っていても、今般の出来事がどれほどの「危機」なのか、把握するには至らず、多くが様子見の姿勢を強めるためです。
様子見姿勢を強めるということは、買う人も売る人も減ることを意味します。「売りたーい」と叫んでも「しーん」としたままでは売ることもできません。勢い「いくらでも良いから売りたーい」へと転じます。
「理財商品」を国外投資家が買っているとリーマン危機の再来も
また、恒大集団も販売していた、10%超の利回りを謳う「理財商品」を中国国外の投資家がどれだけ保有しているのかも気がかりです。
中国国内で話が完結すれば、損失も中国国内で済みます。しかし、海外投資家が低金利にかまけて多額のお金を借りて、その資金で理財商品への投資を行えば、これはリーマン危機時に行き詰った「サブプライムローン」問題と同じとなります。
サブプライム問題でも、信用力の低いローンを集めて、これをクレジットデフォルトスワップ(CDS)などの派生商品(デリバティブ)を使ってリスクを何倍にも高め、挙句、破綻と共に借りていた資金も返せず、焦げ付きを生みます。
23日以降、恒大集団の債務は利払いや返済(償還)期限を相次いで迎えます。この債務が不履行となった時、どれだけの人がトバッチリを喰らうのか、先ずはそこを観察するしかなさそうです。
慌てて押し目買いに動かなくても、次の機会はちゃんとやって来るでしょうし。
今回のまとめ
・恒大集団の債務不履行問題を受け、世界の株価は下落
・「理財商品」にどれだけの人々・おカネが関わっているか先ずは確認してから
・「~ショック」って安っぽい和製英語で嫌いです
『徒然なる古今東西』(2021年9月21日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
無料メルマガ好評配信中
徒然なる古今東西
[無料 ほぼ 平日刊]
まぐまぐ大賞に毎年ランクインしている『しん・古今東西』著者が無料版メルマガを刊行。 より気軽に金融市場や世界経済を感じて貰うと同時に、著者周辺の四方山話も楽しんでください。 人生の選択肢を拡げるメールマガジンです。