GPIFは「株式市場を買い支える主体」にはなり得ない。「異次元緩和」「GPIFによる株価下支え」という誤った政策を続けて来たツケを払わなければならない局面を迎えている。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
限界に達した「異次元の金融緩和」と「GPIFによる買支え」
足元の株安がGPIFの運用に与える影響は
日経平均が16,000円付近まで下落、為替が106円台まで円高になってきた。この記事を書いている時点で、日経平均先物は15,900円台前半、為替は105円70銭台となっている。
円高、株安が進むと懸念が高まるのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用状況。
公表されている2015年末のGPIFの運用資産(139兆8249億円)と資産配分から単純計算すると、2日時点での推計運用資産は133.4兆円前後と、昨年末比で6.4兆円ほど減少していると推察される。
実際には年度末に「年金特別会計」への納付金等が5兆円程度あったはずなので、足下の運用資産規模は128兆円程度になっていると推計される。この水準は2014年6月末とほぼ同水準(127.3兆円)。
2014年6月末より株高でも資産額が横這いになる理由
2014年6月末の日経平均株式は15,348円、国内債券(Nomura-BPI総合)は355.413、為替は101.38円であるから、軟調な現在でも当時より株高(+5.2%)、債券高(+9.1%)、円安(+4.9%)という状況にある。
それにも関らずGPIFの運用資産額が2014年6月末とほぼ同水準に留まっているのは、GPIFが「資金流出主体(年金の掛け金収入より給付額が多い)」だからだ。昨年度、GPIFは納付金等で「年金特別会計」にネットで4兆3658億円を支払っている。
仮に金融市場で株安、円高が進んだ場合、GPIFの運用資産額は「運用損失」+「年金給付のための資金流出」のダブルで減少していくことになる。運用資産を減らさないためには「年金給付のための資金流出額」と同等以上の「運用収益」を確保する必要があるということ。
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株式市場の「下押し主体」GPIFが個人投資家の敵にまわる日
忘れてならないことは、投資理論上、リスク資産投資によって期待収益を得られる確率は、同額の損失を被る確率と同じだということだ。
「リスクを取れば高いリターンが得られる可能性が高まる」ことは声高に叫ばれているが、「高い損失を被る確率も同じだけ存在する」ことはほとんど語られることはない。
さらに、GPIFが「世界最大の運用資産を持つ機関投資家」であるということは、GPIFは「評価益を実現益に変えることが世界一難しい機関投資家」だということでもある。
例えGPIFが「世界最大の機関投資家」だとしても、年金給付のためにその資産を取り崩さざるを得ない「資金流出主体」である限り、GPIFが「株式市場を買い支える主体」にはなり得ない。むしろ、株式市場にとって「下押し主体」である。
この辺りは「投資戦略フェアEXPO2016:セミナー『“Bye-bye-Abenomics”でどうなる?株式相場』」でも話しをしているので興味のある方はご覧頂きたい。
進むも地獄、戻るも地獄
黒田日銀が追加緩和を見送ったことをきっかけに金融市場が混乱を見せたことから明らかなように、限界がある政策は、推し進めようとしても、引き返そうとしても市場に失望を与える運命にあることになる。
「マイナス金利付量的・質的金融緩和」に限界が見えてきているのと同時に、「GPIFによる株価下支え」も限界に達してきている。
ここに来て世界の金融市場がリスクオンとなっても取り残され、リスクオフになったら道連れにされるのは、日本固有の政策が「進むも地獄、戻るも地獄」という状況に達したからだ。
「異次元の金融緩和」「GPIFによる株価下支え」という誤った政策を続けて来たツケを、これから払わなければならない局面を迎えている。覚悟しなければならないのは、「代案はない」ということだ。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年5月3日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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