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ウクライナ後のドル円【フィスコ・コラム】

ロシアとウクライナが今後の交渉で停戦に向かうとしても、欧米とロシアの亀裂を埋め合わせることは困難でしょう。かつての冷戦のように世界が欧米と中ロの二大陣営に分断されれば、やはりスタグフレーション(景気悪化と物価高の併存)は避けられないかもしれません。

ロシアがウクライナに武力侵攻した2月下旬以降、ドル・円は緩やかな上昇基調が続いています。欧米とロシアが戦時モードに入り、世界経済の先行き不透明感で安全通貨の円にマネーが流入。半面、ドルは有事の買いと米連邦準備理事会(FRB)による金融正常化を見込んだ買いの両サイドから押し上げられています。ウクライナ情勢はなお混迷を深めており、有事のドル買いは当面の間続くとみられます。

欧米による対ロ制裁の決定打とされる国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除は、確かに通貨ルーブルの価値を大きく下げることに寄与し、一定の成果を上げています。ロシア国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)保証料は急激に上昇し、格付け会社は破たん寸前と指摘。市場は債務不履行(デフォルト)を織り込み始めています。

一方、原油市場への影響も深刻です。対ロ制裁として欧米がロシア産原油の輸入禁止を決め、需給ひっ迫への懸念から相場は高止まり。指標となるNY原油先物(WTI)は1バレル=100ドルを上抜けると、2008年以来の高値水準となる130ドルを付ける場面もありました。エネルギー面で弱みを持つヨーロッパは制裁に消極的ですが、原油価格は100ドル台で騰勢を弱めておらず、資源相場は全般的に強含んでいます。

もちろん、ロシアのプーチン大統領は欧米の相次ぐ制裁やそれによる混乱を予め予測していたはずです。国際社会からの非難も含め、覚悟のうえでウクライナに武力侵攻したのでしょう。実際、ロシア中央銀行はここ数年で外貨準備のシェアについてドルを引き下げ、逆に人民元を引き上げてきました。仮想通貨なども活用し、欧米との経済戦争では徹底抗戦の構えとみられます。

3月2日の国連緊急特別会合では、ロシアに対する非難決議が欧米を中心とする141カ国の賛成多数で採択されました。それに対しロシアをはじめ5カ国が反対、中国やインドなど35カ国が棄権しています。世界はすでに分断され、欧米と中ロの二大陣営化に向かい始めたとみても不自然ではありません。仮にロシアがウクライナから撤退しても、欧米とロシアの双方に根差した不信感は払しょくできないでしょう。

巨大な軋轢を抱えた世界経済はダイナミズムを失い、コロナ禍からの回復が逆戻りすれば物価高と景気低迷は避けられません。スタグフレーションは一般にドル安・円高要因とみられますが、足元の値動きをみるとそうとも言い切れず、むしろ日米金利差拡大に伴うドル高に押されるとも指摘されています。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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