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FXディーラーが最も心躍る瞬間。顧客注文を「呑んで」儲けるテクニック=岡嶋大介

今回は前回の続きとして、FX会社のディーラーの損益がどのように発生するかの後半部分を説明します。「レートが動くかどうか」「カバーするかどうか」で分類した次の表をもう一度載せましょう。

(A) レートが動かない+カバーしない (B) レートが動く+カバーしない
(C) レートが動かない+カバーする (D) レートが動く+カバーする

このうち(A)(D)前回に説明しました。(A)は顧客の売買注文がぶつかりあってスプレッド分が利益になるケース、(D)はインターバンク市場にカバー注文を出すことで損も得もしなくなるケースでした。今回は残る(B)(C)になりますが、まず簡単な(C)からいきます。(岡嶋大介)

プロフィール:岡嶋大介(おかじまだいすけ)
1976年東京生まれ。ソフトウェア作家兼投機家。株式会社ラガルト・テクノロジー代表取締役。東京大学理学部情報科学科卒業。相場好きを生かして開発したトレーディング・ディーリングツールを証券会社等に提供する一方、独自開発のFX業務パッケージ「TFTrader」までを手掛ける。

【短期集中連載】 岡嶋大介 プロだけが知るFX裏のウラ TOP

「レートが動く中であえてカバーしない」熟練ディーラーの技術を覗く

「(C)レートが動かない+カバーする」はローリスク・ローリターン

FX会社が利益を出す仕組みは前回までで詳しく説明したので詳細は省きますが、(C)のケースでは、

  • レートが動かないので顧客の売買注文がぶつかってスプレッドが利益になる
  • 一方、カバー注文のためにインターバンク市場のスプレッドを支払う

ということになるので、その差がFX会社に残ることになります。

最近はFX会社間のスプレッド競争が激しく、インターバンク市場のスプレッドより顧客に提示するスプレッドのほうが小さいことも珍しくないので、その場合は赤字になってしまいます(この説明でよくわからない、という人は前回までの記事をもう一度読み返すことをお勧めします)。

もしカバー取引をしない(A)をディーラーが選択すれば、上の支払いの部分はまるまる0にできるので、ディーラーが「レートは動かない」と予想しているなら(A)を選択する、ということになります。

「(B)レートが動く+カバーしない」これぞディーリングの神髄!

残る(B)ですが、これがディーラーにとって最も心躍る(または心痛める)シーンです。レートが動くのにカバーしないわけですから、例えば顧客のドル/円でポジション状況が次のようになっていたとします。

顧客A 10万通貨買い
顧客B 20万通貨買い
顧客C 10万通貨売り

しばらく時間が経った後に1円上に動いたとすると合計20万円の利益、逆に1円下に動いたとすると合計20万円の損失となります。

顧客の中にはロングポジションを持っている人とショートポジションを持っている人が両方いますが、トータルでロングポジションが超過であるときにレートが上にいけば顧客のトータル損益はプラスです。そのプラス分はまるまる全額がFX会社の損失になります。

逆に、レートが下にいけば顧客のトータル損益はマイナスになり、その分はまるまるFX会社の利益になります。

このように、顧客のポジションをカバーしないことをディーラーの用語で「呑む」といいます(正確な漢字は不明ですが…)。

もちろん、その意味するところは競馬のノミ屋と一緒です。顧客の負け分をそっくりいただく、という点では一緒ですから。

Next: 一般トレーダーに対するディーラーの優位性とは何か/個人投資家は負ける運命?



一般トレーダーに対するディーラーの優位性とは何か

呑むからには、ディーラーにはそれなりのレートに対する読みがあります。顧客のロングポジションを呑むということは、レートが下に動く予想(少なくとも、大きく上に行くことはない予想)をそのディーラーが持っている、というわけです。

レートの上下どちらかの動きに賭けている、という点では一般のトレーダーと一緒ですが、トレーダーはチャートやニュースしか判断材料を持っていないのに対して、ディーラーは顧客の注文動向を判断材料にすることができるのが決定的に異なる点です。注文動向とは、注文件数や注文ロット数、顧客の売買の偏り、新規/決済の偏りです。

熟練したディーラーは、おそらくそういう注文動向の雰囲気を直観的に感じる「野生の勘」を持っているはずで、うまい具合に顧客のポジションを呑むことによって利益を出すことができます。

個人投資家は負ける運命?

なお筆者は、あるFX会社との契約で、そのディーリング判断の一部をソフトウェアで置き換えるプロジェクトのために顧客の一定期間の全注文データを分析したことがありますが、その中でとても面白い事実に気づきました。

それは、「トータルすれば個人投資家は負ける」です。

FX会社には多数の顧客がいて、その中には本当に巧いトレーダーもいるのですが、全員の損益を合計すれば長期的にはマイナスなのです。スプレッドがあるからではなく、仮にスプレッドが0だと仮定してシミュレートしてもやはりマイナスになります。

逆にいえば、FX会社を経由したりしない、本当のプロが勝っているしわ寄せが個人投資家に行っているということになります。

その事実に基づけば、FX会社は一切カバー取引をせず、全部の注文を呑んでしまえば、短期的に損失を出すことがあっても長期でならせば勝ってしまうということになります。

「ディーラーの損益構造の基本」まとめ

今回のまとめとして、冒頭の4種の状況と損益構造を整理しておきます。

(A) レートが動かない+カバーしない
顧客の売買注文が相殺して
スプレッド分が全部利益となる
(B) レートが動く+カバーしない
顧客の損は自分の利益、
顧客の利益は自分の損。ハイリスクハイリターン
(C) レートが動かない+カバーする
場合により赤字だが、額は小さい
(D) レートが動く+カバーする
基本的に損益0となる

実際には、この4パターンのどれかにぴったりあてはまるわけではなく中間の状態がいろいろありますし、時々刻々と相場の状況は変化するものですが、これがディーラーの損益構造の基本になります。

次回は、これまでに書ききれなかったトピックをいくつか紹介しましょう。そろそろこの短期連載も終わりに近づいてきました。

【関連】FX会社の企業秘密 顧客注文から利益を捻出する「カバー取引」あの手この手(第1回)

【関連】個人トレーダーと何が違う?「FXカバーディーラー」の基本的な稼ぎ方(第2回)

【関連】レートがどれだけ動いてもFXディーラーの損益がゼロになる仕組み(第3回)

岡嶋大介(ソフトウェア作家兼投機家)

株式会社ラガルト・テクノロジー

「ラガルト」はスペイン語で「とかげ」です。2005年10月に、私がバルセロナに旅行したときに訪れたグエル公園の有名な像を見て思いつきました(この像はとかげじゃなくて蛙という説もあるのですがまあいいですよね)。この会社は、どちらかというと私の個人的な活動を下支えする色彩が強いので、自分の気に入ったものを使って命名しようと思いました。この他、最近は更新が滞りがちですが、個人のtwitterアカウントblogがそれぞれあります。

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