前回は次の3点を紹介しました。
前回のポイント
- FX会社は(我々個人投資家を含む)顧客の買いを受けるASK、売りを受けるBIDレートを提示している
- ASKとBIDの差のことをスプレッドという。スプレッドが大きいほどディーラーの利益は大きくなり、顧客の利益は小さくなる
- 仮に相場が動かない場合、カバー取引を全くしないことで、スプレッドの分が丸ごとディーラーの利益になる
今回もひきつづき、FXのディーラーがどのように損益を出すかについて解説していきます。上に書いた、「相場が動かず、カバー取引を全くしない」のと正反対の例を考えます。「相場が動き、完全にカバー取引をする」ケースです。(岡嶋大介)
プロフィール:岡嶋大介(おかじまだいすけ)
1976年東京生まれ。ソフトウェア作家兼投機家。株式会社ラガルト・テクノロジー代表取締役。東京大学理学部情報科学科卒業。相場好きを生かして開発したトレーディング・ディーリングツールを証券会社等に提供する一方、独自開発のFX業務パッケージ「TFTrader」までを手掛ける。
重要経済指標前後も損益がフラットになるカバー取引の仕組み
「相場が動き、完全にカバー取引をする」場合の流れ
話を簡単にするため、ディーラーが顧客に提示するレートとインターバンク市場のレートが同一で、スプレッドが1pipであるとします。
完全にカバー取引をする場合、時間順でたとえば次のようになります。
10:00:00 | 顧客Aが 109.01 で 1万買い |
10:00:00 | ディーラーがインターバンク市場で1万買い |
10:00:05 | 顧客Bが 109.00 で 1万売り |
10:00:05 | ディーラーがインターバンク市場で1万売り |
10:00:10 | 顧客Cが 109.01 で 3万買い |
10:00:10 | ディーラーがインターバンク市場で3万買い |
完全にカバー取引をする場合、顧客からの注文を受けた瞬間にカバー先に対して同一方向・同一数量の注文を出していきます。
顧客がディーラーに対してポジションを持つのと同じように、ディーラーはカバー先に対してポジションを持つことになります。
もちろん、顧客の注文を受けてからカバー取引を取りに行くので、時刻が完全に同じということはなくカバー取引のほうがわずかに遅いのですが、このあたりはコンピュータで処理しているのでその時間差は数ミリ秒から、長くても0.3秒くらいの話です。
カバー取引後のポジションと損益
さて、上記の表の取引の結果、それぞれのポジションは次のようになりました。
顧客A | 1万買 |
顧客B | 1万売 |
顧客C | 3万買 |
ディーラー | 3万買 |
このまま、例えば次の日になって、レートが1円(100pip)上に動いたとしましょう。ポジションの損益は次のようになります。
顧客A 1万買 | +1万円 |
顧客B 1万売 | -1万円 |
顧客C 3万買 | +3万円 |
ディーラー 3万買 | +3万円 |
これを見ると、顧客の損益の合計3万円と、ディーラーがカバー取引で行った損益が一致していることがわかります。顧客の注文をインターバンク市場に「転送」していたのですから当然ですね。
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