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本当の「悪い円安」【フィスコ・コラム】

ドル・円相場は歴史的な水準をあっさり上抜け、20年ぶりの高値圏に浮上しました。輸入インフレを招く「悪い円安」は続くものの、ある程度の水準で止まるでしょう。しかし、将来東アジアで緊張が高まれば、そんなレベルでは済まないのは言うまでもありません。

4月13日の取引でドル・円は上値メドとして意識されていた「黒田シーリング」の125円86銭を上抜け、2002年以来20年ぶりの高値水準に切り上げています。その後も心理的節目を次々に突破し、気づいてみれば130円が間近に迫りました。勢いづいた相場は、もはやテクニカル分析の目安も役に立ちません。投機的な取引のせいか、最前線の市場関係者でさえ予想をことごとく外す毎日です。

黒田東彦日銀総裁は「悪い円安」を意識したせいか、最近の円安について「かなり急速な変動」「マイナス面も考えないといけない」と発言。一見すると円安容認を改めたようにも理解できますが、「全体としてプラスとの評価は変えていない」とも述べ、その後の円売りを誘発する要因になりました。鈴木俊一財務相はドル・円の128円台到達の際、円安をけん制していますが、流れは変わりません。

といっても、米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢を弱めれば、米金利の失速とともにドル買いは一服するとみられます。また、黒田総裁が異次元緩和へのこだわりを捨てれば、過度な円売りは抑制されるはずです。「異次元」に固執しても、来年3月には任期を終えるので、こちらも時間の問題です。数カ月はドル高・円安が続き、現在のペースなら140円台も想定内といえるでしょう。

警戒しなければならないのは、ロシアのウクライナ侵攻で世界が戦時モードに入ったことです。日本も西側として対ロシア制裁に参加し、核保有国であるロシアと中国、北朝鮮に囲まれている現状に改めて気づかされます。日本嫌いの韓国を含めれば、東アジアでの日本の孤立は決定的です。日米同盟といっても、アメリカは自国に被害が及ばないよう中ロとの直接軍事衝突を避けているように見えます。

自民党内でも穏健派とされる岸田文雄首相(党総裁)が7月の参院選をにらみ、自衛力の強化を打ち出しました。日本維新の会は核共有や非核三原則の見直しを公約に盛り込む方針で、核武装を望む声を取り込もうとしています。ただ、軍事大国化すれば安心・安全でしょうか。周辺国の挑発がエスカレートすれば、かえって一線を超えるリスクが高まります。その際、孤立無援の日本の通貨を誰が買い支えるのでしょうか。

ロシアのように、戦争当事国は経済の悪化に伴う通貨安・インフレにさらされます。円はこれまで世界最大の債権国であることを背景に安全通貨とされてきましたが、これからはリスク通貨になる可能性も出てきました。外貨売り・自国通貨買い介入にも限度があり、円安は制御不能に陥らないとも限りません。国土を守るのと同じぐらい通貨の防衛が重要であることを、多くの政治家に認識してもらわなければならないでしょう。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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